200.秋の実り⑨
「「ウマッ!!!」」
「「何っだコレ!? カリカリホクホクじゃねぇか」」
「「ふわふわで雲みてェ!! 甘っ!!」」
「「黄色い… 芋??」」
「ハムの塩気で、甘いとしょっぱいを交互に食べたらいくらでも入るな!」
ちょっと腹が膨れて味わう余裕が出たらしく、味についてのコメントが聞かれ始めた。
美味しいと思って貰えて良かった。
リリーは知らずに強張っていた肩を落とし、皆が食べている机の間をゆっくり歩きながら、皆の表情や感想を聞いて回った。
どのテーブルでも、ウマイウマイと兵士は皆嬉しそうに食べている。
リリーなら1つでお腹いっぱいな肉まんサイズの芋蒸しパンなのに、一口でホイホイ口に吸い込まれていく。
気持ちの良い食べっぷりを見ながら歩いていると、蒸しパンを見つめたまま動かない兵士を見つけた。
栗色の巻き毛で、色が白い兵士だ。
周りは高速で動いているようなのに、ひとりだけ時間が止まっているようだ。
その兵士は、じっと蒸しパンを見つめていたが、おもむろに口を開いて、ゆっくり少しずつかじって味わうように食べ始めた。
3口ほど食べてから、また動きを止めた。
泣いてる…!?
兵士は腕で目尻を拭った。
鍛錬の後の汗の可能性もあるが、眉の下がり方からみて涙だ。
そんなに嬉しかったのか… 故郷の味なわけないし…
何だかいけない所を見てしまった気がして、パッと視線を逸らした。
「リリー! どこに行ったのかと思って探したよ!」
エルム王子の声に引き戻される。
また、兵士達もそこで、リリー達の存在を思い出したようだ。
「リリーお嬢様、とっても美味しいです!
初めて食べるものばかりで…
差し入れ、ありがとうございました!!」
リリーが朝声をかけていた若い兵士が御礼を言うと、なるほどそういうことかと他の兵士も口々に御礼を述べ始めた。
山程持って来た焼き菓子は、あっという間に食べ尽くされた。
満足した兵士達は元気良く、配置交代や鍛錬にと各々の午後の仕事へ戻っていった。
「リリー、今からはどうするの?」
ホールを片付け終わり、つかの間の休憩の後で王子が聞いた。
「えっと、砦の要所で警備中だった兵士に届けてあげようかと思っているわ」
間食に来れなかった兵士用に、紙袋に入れたお菓子をポンポンと叩く。
「へ〜! リリーは優しいね。じゃぁ僕は、ちょっと訓練に参加して来ようかな!」
そんなわけで、王子とオリバー様は訓練場に向かい、リリーとジェイバーは砦の部屋回りに向かうことになった。




