199.秋の実り⑧
素振りの相互練習が終わったら、模擬試合を行う。
色んな相手と戦う経験を積むため、体格差、身長差、年齢差を考慮せずに対戦相手を組む。
ただ、少し打ち合ってみて戦闘力の差が明らかな場合は、指導稽古に切り替えることになっている。
明らかな新人がボコボコになることはない。
戦闘力の高い側が弱い側の兵士に、分かりやすい隙を作って打たせたり、寸止めをして守りの甘さを指摘するなどの内容に変わるのだ。
作った隙さえ見抜けない場合は、今後素振り練習の分析側の時間を増やすことになる。
作られた隙が分かっても、打ち込む速度や力が足りずに刺せない場合は、走り込みや剣を振る速度を上げる練習を基礎トレーニングに追加する必要がある。
隙を作る方は、実践でも作戦のうちに隙をみせ、わざと狙わせてカウンターを取りに行く戦術を使えるようになる。
その時の柔らかな身のこなしや翻身がスムーズにできなければ、作った隙を突かれて致命傷になってしまい本末転倒だ。
作った隙に打ち込まれてそれを躱し、相手の急所を一撃で狙えれば成功だ。
皆真剣に自分の弱点と向き合って切磋琢磨している。
王子とオリバー様も瞬きも忘れて見つめているので、リリーとジェイバーはその場をそっと離れた。
リリーとジェイバーで、いつも間食用のつまみが置かれている中ホールに机を並べ、馬車に積んでいた焼き菓子達を運び出す。
公爵邸のガーデンパーティーより飾りや籠が少ないから味気ない机にはなるけど、たくさんのスイーツがうず高く積んでいくとホールじゅうに良い匂いが漂いだした。
「ふぅ…」
なんとか2人で並べた机にスイーツなどを並べて一息をついた。
もうすぐ鍛錬の時間が終わり、皆が休憩に降りてくる時間だ。
砦は朝夕の2食制で、間の休憩はここで少し間食をつまむ程度だ。
いつもはハムやささみ、卵といったタンパク質とヤギミルクや牛乳、果実水などの水分がメインだが、今日はそれに加えてのさつまいもスイーツというわけだ。
あの若い兵士を始め、喜んでくれる顔が浮かんで自然と頬が綻ぶ。
紅茶や珈琲、ミルクを各机に配置していると、ガヤガヤと兵士達の声と足音が迫ってきた。
「「「おっ…!!??」」」
何も知らなかった兵士達がホールに入ると、いつもの肉だけでなく、見たことのないお菓子があることに驚いた。
悲鳴や雄叫びが混じる大歓声と共に、大男達が雪崩のようにホール入口へ押し寄せる。
リリーは危険を感じたジェイバーに秒で抱えられてホール端に瞬間移動をした。
彼らは皆、獲物を見つけたサイやゾウのような勢いで突進してきたため、リリーには気づいていないようだ。
自我を失ったかのように貪っている。
想像以上のがっつきっぷりに、さすがのリリーも声が出なかった。




