表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/325

182.アノフェレス熱病の薬③

リリー達が、集められた草木を持って向かったのは、船着き場だった。



そこにはアシュトンと、まだ(?)病を得てない船員が待っていた。


「皆、変わりないかしら。

あれから熱病の人は、増えていない?」


リリーが尋ねると、



「お嬢サンの言う通り、積み荷のある部屋と船に、誰も近づかなくなってから、本当に病人は増えなくなったよ」 


アシュトンは不思議そうに言った。

この熱病が、伝染病でなく蚊が媒介する感染症だと思ったリリーは、薬作りの許可を父様にとる時に、誰も船と積み荷にも近づかないよう伝言を頼んでいた。



今回の航行で積み荷についてきたであろう蚊は、もしかしたら船内をまだ飛んでいたり生きているかもしれない。

しかも、花は切り花でなく、植え替えられるよう土や葉ごと持ち込んだと言っていたから、最悪の場合は繁殖をしている可能性すらあった。



「やっぱりね。

それなら良かったわ。あとはこれ以上の被害を出さないようにしないと」


ピンゼル様を振り返ると、ピンゼル様もうんうんと頷いている。





大きな空の缶(本来ペンキを詰めるための缶)6つに10cmくらいの穴を開けて、持ってきたヨモギ、松、杉、茅を中に詰めていく。


そして、そのうちの2つの缶の中に、火をつけた松ぼっくりを入れた。

中でパチパチと草の爆ぜる音がして、煙が出てくる。

独特の臭いが、その場に立ち込め始めた。



「何をしているんだ?」

アシュトンと船員は首を傾げているが、とりあえず作業を大人しく見守ることにする。



最初の白い、水蒸気を含んだ煙の後は、黒く灰色の煙がもくもくと出てきた。

そうなってから、リリーが荷物の中から取り出した何やらゴツい布を穴から出る煙にあて、纏わせていく。

もう1つの缶も同じように、ピンゼル様が布を煙にあてて、満遍なく燻煙させていった。



缶から煙が出なくなり、完全に燻された布を広げると、それは服だった



「さて、これを服の上から着るわ」


それは前回、ラピス公国の交易品で報償として貰った、厚くて頑丈な布で作られた服だ。

時間がなかったので、雨ガッパ的な簡易構造になっている。(カシア作)


リリーの指示で、この服から出るのは顔と手足先だけだ。

出ている手には厚手の手袋、足にはブーツを履く。


つまり、防虫&殺虫煙を染み渡らせた対蚊防護服だが、アシュトンや船員は、季節にそぐわない意味不明な出で立ちに、怪訝な顔をしている。

リリーとジェイバーは、黙々と袖を通した。

最後に三角巾で鼻と口を覆ったら、完成だ。


即席防護服に身を包み、両腕に缶を抱えて船の中に静かに入る。


入口で、ピンゼル様が心配そうにリリーの袖を掴んだ。

ピンゼル様は中には入らない。

リリーが今からしようとしている事を、父様が聞いたら絶対に許してはくれないだろう。

今から船の中で行う事は、3人の秘密だ。


「大丈夫です、ピンゼル様」

リリーはくぐもった声で応えた。






締め切った船内は、昼間だから中は辛うじて視界に捉えられる程度で、だいぶ薄暗い。


ジェイバーを先頭に、聞いていた道順を手探りで進む。

最後の階段を下りて、目的の部屋の前に着いた。


緊張と、重ね着した厚い服と、鼻と口を布で覆っているための酸欠とで、顔に汗が伝う。

手に持った缶の感触を確かめて、深呼吸をひとつした。


「リリー様、宜しいですか」



ジェイバーの問いかけに、頷く。

ゆっくりと静かに、貨物室の重い扉が、開かれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ