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171.北の街の異変②

リリー父が領地に戻り、北の砦に寄って状況を確認する。



兵士達の話を総合すると、

・2週間前から、アシュトンの父や数人の貿易船の船員が体調不良を感じていたが、すぐ治ると思っていた。

・しかしなかなか全快せず、昨日から頭痛や嘔吐などの症状が出始め、アシュトン父含め、数人が高熱を出した。

・今日アシュトンの父の意識がなくなり、只事ではないと周囲が認識した。

・聞き込みを行うと、それまで何ともなかった船員に体調不良者が出ていて、さらに出入りの商人までが体調を崩している状況であった

・体調を崩した商人は、アシュトン父や船員の経過を知っていたため、病がうつった、助けてくれと街で触れ回った。

・そのため、北の街では正体不明の伝染病が発生していると噂になり、隣町に逃げる人が増え、関所が困惑している

・街に残っている人も、病を得たくないため、近寄らないようにしており、誰も病人の面倒を見なくなっている


ということだった。



「なるほど… 伝染病とは厄介だな」

リリー父は考え込んだ。



北の街では、伝染病自体は珍しくない。

"冬肺病"は、雪が降るような寒い時期に流行り、かかった者の家族や近親者に移る伝染病だ。

咳が止まらなくなり、熱が出て、時として高齢の者や赤子の命を奪うが、冬だけに流行り、春には治まるため、この時季を耐え忍ぶことで乗り切ることが半ば習慣化している。



しかし、今回はまだ冬になっていないし、今回の病には咳もない。

嘔吐も、初めて聞く症状だ。

毒キノコを食べた時に嘔吐する者はいたが、この時は腹痛や下痢を伴う。今回、そんな症状がある者はいないらしい。

冬肺病は、高齢者や子供の命を脅かすことはあっても、今回のように若者〜壮年者が相次いで病に伏すことはなかった。

明らかに、これまでの病とは異なる。



自らの目で様子を見に行こうとするが、

「公爵に万一にも移ることがあれば、取り返しがつきません!!」

と部下に止められる。



確かに、行ったとして何ができるわけでもない。

しかし、本当に伝染病なのか、そうであれば、どうすべきか…  リリー父は考え込んだ。







その頃、リリーもジェイバーと領地に戻ってきていた。

リリー達は北の砦に向かわず、まっすぐアシュトン邸に向かった。



門の前に着くと、蹄の音を耳にしたアシュトンが、扉を開けて出てきた。


「なんだ、ジェイバー、リリーお嬢さんまで、来てくれたのか…」


アシュトンの巨体は、少し萎んだように見え、いつもの軽口を叩く余裕もない様子だった。



「アシュトン、お父様に、会わせてくれる?」

リリーが言うと、


「えっ、でも、この病気は移るかもしれないんだぜ」

アシュトンは驚く。


「えぇ。だからちょっとの間しかいられないけれど」


「分かった、こっちだ」



アシュトンの案内で、邸内に踏み入れる。

リリーは持ってきたハンカチを2重にして鼻と口を覆った。

(アシュトンとジェイバーにも勧めたが、断られた)


扉の前で深呼吸をし、息を止めて中に入る。



「親父、ディアマン公爵のリリーお嬢さんが、見舞いに来てくれたよ」


アシュトンが声をかけるが、荒い息を吐き、汗を流しながら呻くアシュトンの父様ロセウスさんに、反応する様子はない。



リリーは、手袋をしている手で、素早く身体を確認する。

特に出血や発疹はない。

呼吸音にゼーゼーやヒューヒューなどの喘鳴もない。

ただ高熱で苦しんでいる様子だった。


いつか、リリー達を美味しく珍しい料理でもてなしてくれたロセウスさんが辛そうに眉根を寄せるのを、リリーも沈痛の面持ちで見て、ガーゼで額の汗をそっと拭った。



息が限界になり、部屋の外に出る。

ハッ ハッ とやっと息をしていると、


「移り病とは言うけど、俺や母さんはここ2週間ずっと傍にいても、何ともないんだ。

だけど、先週親父と取引していた商人は、初めの頃の親父みたいな不調があったり、船の乗組員は熱を出してる奴がいるんだ」


アシュトンが不思議そうに話す。


「お前は鍛えているからじゃないか?」

ジェイバーが、強い体は病に負けない説を提唱する。

そんな、根性論で免疫は過信できないのに。



でも、確かに、毎日一緒にいるアシュトンや母様が何ともないのに、取引しただけの商人が熱を出すなんて伝染病、本当にあるのかしら…




その日は遅かったので、領地の公爵家(本邸)に戻ることにした。

別邸から公爵家に帰ることを先触れで伝えてなかったので、いきなり現れたリリーとジェイバーを見てカシアやマリー、ロータスは驚いたが、事情はおおかた把握しているようで、皆一様に神妙な顔をして受け入れてくれた。


リリー父は砦に泊まり込むようで、今日は公爵家に帰ってこなかった。



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