144.真相と告知④
つづいて、トゥシュカ様が口を開いた。
「僕の気持ちは、リリーさん本人に伝えているから、ここで特に話すことはないけど、僕と公国にとって必要な人だと思う。
一緒に来てくれると、嬉しい」
低い声でゆっくりと言葉にした。
「リリー!一緒に行こうよぅ! 父様も母様も、絶対リリーのと好きになるよ!
ていうか、リリーがトゥシュカ兄さんと結婚したら、リリーは僕のお姉ちゃんになるんじゃない??
わー!!!」
ピンゼル様は散歩前の柴犬ばりにしっぽを振り回している感じだ。
うーん… どうしよう…
トゥシュカ様は、声が良くて瞳が綺麗で、身のこなしは素敵だし、顔が端正で…
要はタイプなんだけど、『クラスの格好良いモテ男子』の域をまだ出ていないのだ。
同郷ならまだしも、国を出てまでお慕い申し上げているかというと、難しい所だ。
日本で言うと、クラスのイケメンがアメリカ移住を誘ってきた感じだ。
アメリカで自分がやっていけるか、どんな生活を送ることになるか分からない状態で、安易な返事は難しい。
観賞用で十分かな、となるのだ。
つまり… どっちもどっち…
リリーは、ぐむむむむと考えた後、
「お2人からそのように言って頂き、本当に身に余る光栄といいますか、正直私にそのような価値があるとは思えず、過分な評価を頂いていると感じています。
ただ、公爵家に産まれた以上、好き嫌いで婚姻を選べるとはもとより思っておりません。
適性と、家の利益で決まるものと思っております。
私としては、実のところ、王子妃となって国を支える覚悟も、他国に渡って上手く立ち回る器量も、自信がありません。
そんな、どうしようもない娘です。
このような場合に公爵家としての方針を決める父が、私に一任するというのであれば、一旦婚約は解消し、どちらとも婚約を結ばない方法はいかがでしょうか。
それでしたら、どなたにもご迷惑をお掛けしないように思います」
と、真面目な顔で、父が発案していたプランCを選択した。
王様も、公爵の提案は冗談だと思っていたようで、リリーのまさかの答えに絶句している。
王妃様、王子もほぼ同じ表情。
トゥシュカ様は、
「っぷは、さすがリリーさん、面白い…」
口を手で覆いながらも、くくっとこぼれ笑いをしていた。
リリーは比較的満足気だ。
前々から荷が重いなーと思っていたのだ。
これなら角は立たないし、リリーは自由になれて一石二鳥といえる。
「リリーちゃん… それは… さすがに無理だ… 」
王様は固まった顔のまま、
「よし、それではこうしよう。
公子とリリーちゃんは会ったばかりだし、公子の人となりをあまり知らないまま外国へ嫁ぐのも心配があろう。
王子は、これから更に勉学や剣術を学び、力をつけるという。
どちらもまだ発展途上というわけだ。
とりあえず、婚約は解消せず、両者交流を続けることとして、王子は16の誕生日までには伴侶を決めていなければならないから、再来年、15歳の誕生日までにリリーちゃんに決めてもらうのはどうだろう」
そう提案をした。
するとトゥシュカ様が、少し困った顔をした。
「僕は今年19だから、あまりゆっくりはできないんだ。
国は兄が継ぐことが決まっているから、後継問題は別にないんだけど、一応、早く身を固めろと周りが煩い。
リリーさんの気持ちは勿論理解できるが、申し訳ないのだけれど、2年は待てないんだ。
1年間、公国とクルール王国の交流を通して、リリーさんに選んで貰えるよう頑張るよ」
「では、期限を1年としよう。
来年、王子の誕生日までに、3者とも自らを磨き、国を支えるに相応しい力と覚悟を身につけ、他者に認められるに足ること。
その上で、人生の選択を行うこととする。
それまでは、便宜上、リリーちゃんは王子の婚約者のままとする。
… フリーにしてしまえば、違う虫がついて、話がややこしくなる可能性があるからな」
最後に王様がそう言って、ディナータイムはお開きとなった。
何か、全然味のしない晩御飯だったわ…
リリーはふっと肩の力を落とし、挨拶をしてから部屋に戻った。




