141.真相と告知①
一旦解散し、湯浴みや休憩など、おのおので時間を過ごし、晩御飯のためにダイニングホールへ集合した。
エルム王子は、若干顔色が悪い気がする。
さすがに疲れたのかな…
視察から戻ったトゥシュカ様も席につき、王様の挨拶でディナーが開始になる。
「みんな、今日は疲れている所、集まって頂き、ありがとう。
まずは腹も空いているだろうから、食事にしようか」
リリーはそれより報告が早く聞きたかったが、とりあえず温かい豆のスープから口に運んだ。
食事は進み、メインの鰆のソテーに差し掛かった所で、王様が手を止めた。
「さて…
今日の毒蛇の件は、先程王子と、近衛騎士隊長から報告を受けた。
ピンゼル様を始め、介添えをしてくれた皆には、本当に感謝をしている。
植物が、使い方によってこのように役に立つことは当国では知られていない。
あの蛇による咬傷例は毎年報告が多く、木こりや農業者を中心に何人もの人が亡くなっている。
許して頂けるなら、今日の対処法を、後で詳しく聞かせて貰いたい。係を設けて、この情報への対価についても交渉をさせて頂きたいと思う。
いかがだろうか?」
王様が尋ねれば、
「もちろん構いません。国の隔てなく、人が助かる可能性が上がるなら、僕は喜んで協力をさせて頂きます」
とピンゼル様が答えた。
事のあらましはザックリ聞いていたトゥシュカ様も、ピンゼル様の堂々とした物言いと返答内容に、少し驚いた様子だった。
王様は満足そうに頷いてから、次の話題に入る。
「さて、先日の襲撃の件だが、とうとう首謀者と背景を掴むことができた。
当初、賊の目的が、王子を狙ったものか、公子か、リリーちゃんかが分からなかったのだが、結論を言うと、リリーちゃんを狙ったものだったようだ」
リリーはほぼ予想をしていたのだが、いざそう断じられると少し胸がざわついた。
やはり理由が思い当たらないため、一方的に狙われている状況は気持ちの良いものではない。
ピンゼル様が気遣わしげにリリーを見る。
「ただその原因は、間接的に言うと、王子にあったようだ。
来月、王子の誕生パーティーが催される。
我が国は音楽を好む国民気質で、そのパーティーでは毎年、その年に評判となった奏者や歌手を招いて、演奏や歌唱を披露してもらい、参加者の耳を楽しませている。
貴族、あるいは平民でも能力次第で選ばれるため、王子の誕生パーティーに奏者、歌手として選ばれることは実力や流行の証明であり、かなりの栄誉と見做されているらしい。
その舞台に、今年選ばれたのが、リリーちゃんだ」
王様がリリーに視線を投げる。
リリーは、あーそんな話も聞いた気がするかも、と、何とも曖昧な気持ちで記憶を回顧していた。
ただ、いつ聞いたかすら覚えていないし、具体的な内容は何ら思い出せない。
「リリーちゃんは王子の婚約者ではあったが、身体が弱く、王子妃、ひいては王妃は務まらないのではないかという見立てをしていた貴族が実は多かったんだ。
だから、誕生パーティーなどでは王子の目に留まろうと活発に動く貴族や令嬢がいて、特に奏者・歌手として招致されることを至上の機会と思い、手段を選ばず狙う者がいる」
リリーは、何となく自分か狙われた理由が分かってきた。
王子の婚約者であるリリーは病弱で社交界にも姿を表さない状態だった。
だからいつかは婚約を辞退もしくは破断するだろうとタカを括っていたのに、迎賓の晩餐会で派手に暴れ、どうやら一般的な(←?)健康状態であることが多くの貴族に知られたのだ。
しかも、誕生パーティーでは歌唱を披露する予定ときている。
健康で音楽の才に恵まれた公爵令嬢となれば、この婚約に土はつかない。
王子妃を狙っていた家門は、さぞかし慌てたことだろう。
「リリーちゃんを狙ったのは、ユウェル候爵だ。
あの騎士隊の2人は、もともとユウェル侯爵の私兵だったものだ。
この2人はリリーちゃんが賊に脅かされる間、王子が助けに入らないよう引き離す役目だったようだ。
直接手を出す予定はなかったから、身元が探られることを予測していなかったのだろう、候爵とのつながりは、すぐに調べがついた。
金で雇った賊に出していた指示も、リリーちゃんを殺すつもりはなかったらしい。
少し痛い目を見て、王子の婚約者、パーティーでの歌唱者から退いてくれることを目論んでいたようだ」
生粋の公爵令嬢に、少し痛い目を見せようとしている時点で、ユウェル候爵がクズだと分かる。
叶うならリリー直々に手を下したい。
「リリーちゃんが辞退したら、ひとり娘のヒュアツィンテ候爵令嬢を推す予定で、彼女はビオラの奏者なのだそうだ」
なるほど。
とりあえず、リリーが狙われた理由は分かったので、少しすっきりした。




