133.一時帰宅②
劇団ではあれやこれやとバタバタして1日が終わり、
すぐに王城に戻る日の朝になった。
「リリー、今日も王城に行くのかい。
昨日帰ってきたばかりなのに、あまりにも忙しすぎないか。
お前が断りにくいなら、パパから王に進言してやるぞ」
皆で朝食を囲みながら、リリーの過重労働を心配した父様が声をかける。
どうしてもパパって呼んで欲しいらしいな。
「しかも、出先で危ない目にあったんだろう?
そんな危険な所にわざわざ近寄らなくても良いよ」
兄様も心配しているようだ。
「お父様、お兄様、ご心配をお掛けしてすみません。
ですが、大丈夫です。
ジェイバーが守ってくれますし、エルム王子も一緒ですから」
リリーが微笑めば、
「婚約者だという理由で、こんなにリリーが振り回されるなら、いっそ婚約など解消してしまおうか」
もともと極道寄りの顔が、更に悪人度を増している。
「えっ! 婚約って、そんな簡単に解消できるんですか?」
「ん? あぁ、リリーが望むなら、すぐにでも解消してやるさ。
もともと、身体が弱かったお前に、国内最高の治療ができるよう王家入りを勧めたんだが、こんなに元気になった今としては、別にそれに固執する必要はないからな」
なっ
なるほど…! そんな理由だったのか。
権力欲からだと勝手に思っていたのは申し訳なかったな。
リリーが心の反省会をしていると、
「だいたいまだ、リリーには恋愛や婚約なんて早すぎるんだ。
今まであまり一緒にいられなかった分、これからは親子の時間をもっと持ちたいしな」
父様はひとりでウンウン言っている。
「何にしても、リリーを襲ったとかいうゴロツキは、王城の騎士だったそうじゃないか。
そんな奴を登用していた王家には失望した。
そんな奴に、リリーを安心して任せられんわ」
途中からお怒りモードに入りだした。
件の犯人は目下取り調べ中らしいが、まだリリーにまでは情報が回ってこず進捗状況は不明だ。
金銭目当てではなさそうだったし、引きこもり令嬢のリリーに恨みを買う機会は無かった筈だから、本当に理由が分からなくて気持ち悪い。
「今日も公子達と出掛けるんだろう?
狙われたのが公子でもリリーでも、もし同じようなことがあって、同じ醜態を晒したら、騎士全員の腸を引きずり出し、俺が王家の騎士団を解体してやる」
血走った目を見開き、本気顔で決意表明をする。
温かな朝食の空気が、殺気で一気に氷点下に下がる。
「と…父様、騎士が皆、あのような輩ばかりではありませんよ。
皆鍛錬を詰み、身と心を王国に捧げております」
兄様はそれこそ王城の騎士団に所属しているのだった。
一生懸命フォローを入れる。
「ただ、今日の護衛は、面子をだいぶ変えるようでした」
兄様も詳しく聞いてはいないようだが、王家としては国賓を危険に晒すなど、そう何度も起こすわけにはいかないのだろう。
何か守備方法に変化をつけるつもりのようだ。
「フン。 騎士なぞ、ウチの軍隊や兵士と比べたら、貴族の坊っちゃんばかりの甘ったれ隊だ(偏見)。
多少何かを工夫した所で、たかが知れている。
リリーも危なくなったら、王子も公子も捨ててまず自分が逃げるんだぞ。
彼らは、自分の身ぐらいは自分で守れる。
ジェイバーはリリーを傷ひとつつけることなくしっかり護り、必ず無事に帰って来るんだぞ」
誰かに聞かれたら大変な内容だが、子を想う親の気持ちとして嘘はないだろう。
「はい、お父様。
お父様に建てて頂いた体育館のお陰で、足だけはとても速くなりました。
誰より速く走って逃げおおせてみせます!」
リリーが力強く言えば、父様は満足そうに頷いた。
その後は、出発の時間が近づいていたので、急いで残りのオムレツを平らげた。
今日はジニアも連れて王城へ向かう。
まだ地面は少し濡れているが、雨は上がっているので問題なく出掛けられるだろう。
さて、公子様はどこに遊びに行くことにしたのかな。
もう見慣れた馬車からの景色を楽しみながら、王城までのドライブ(?)を過ごした。




