119.王国観光③
【リリー子連れ旅のしおり必勝法】
③食べ歩きを盛り込むべし
まだ明るいが、昼のピークは過ぎた時間だ。
もと日本人なリリーは、観光といえば温泉!と思っていたから、最後は温泉地で足湯&食べ歩きで締めくくる予定にしている。
ここは、王家の融通が効く温泉地で、エルム王子も来たことがあるらしいので安心だ。
ちょっと、とあるワガママをお願いしていた。
丁度お腹も空いてきた。
上機嫌で馬車から外を眺める。
馬車の中では、ピンゼル様とエルム王子の小競り合い(?)が続いていた。
「いやー、こんな立派な第一王子様が、牛ごときに触れないなんて、驚きでしたねぇ」
「ピンゼル様こそ、最初は触れず怖がっておられたではないですか」
「僕はまだ7才だし、エルム王子はもうすぐ13才でしょ?
しかもまぁ、僕は結局ちゃんとミルク絞れたしね」
「… ピンゼル様が、あの風車の音に怖がっておられたの、僕は気づいていましたよ。
案外可愛い所がおありじゃないですかー」
「ムッ!? そんなことない。怖がってなんかないぞ」
やいやいと騒がしくしている間に、南部の街、ノトスに着いた。
何か、だいぶ2人の距離が近づいた気がする。
リリーとトゥシュカ様は、ほぼ同じ表情で2人を見ていた。
温泉街ノトスは観光地で、歩く道も舗装されていて王都並の美しさだ。
テントのような出店ではなく、建物の1階を開放したり、出窓からの販売形態で、食べ歩きができる。
道は細かく分かれているから、初心者にはどんな店がどこにあるのかが分かりにくく、ガイドマップがあれば良いのにと思った。
どこからか、香ばしい匂いがする。
「リリー! あっちでお肉を焼いてるよー!」
ピンゼル様が目敏く見つけてリリーを誘う。
街歩きに、護衛をゾロゾロ引き連れるのもどうかと思い、半分は馬車の停泊所で待機して貰うことになった。
この街は治安が良く、犯罪などもほとんど起こらないらしい。
炭火で焼かれた山羊肉の、1番上をとってジェイバーが毒見をし、問題がないので公子、王子も食べる。
少しクセのある山羊肉も、炭火と絶妙なスパイスでジューシーに焼かれていてとても美味しい。
「ん〜! 幸せ… 」
リリーになってから、こんなにしっかり観光や旅行をしたことがなかったので、リリーもかなり楽しんでいる。
(音楽理解の旅は、旅行というには強行軍すぎた)
蒸し料理の出店屋さんで、蒸した卵や、じゃがいもも購入する。
温泉独特の風味がついていて苦手な人もいるが、リリーは旅行の醍醐味感が勝るので美味しく頂いた。
添えられた岩塩で、また更に味が引き立った。
「リリーも、楽しい?」
急にピンゼル様が聞いてきた。
多分、自分のワガマで振り回していることに、少し罪悪感があるのかもしれない。
「ええ、とっても! ピンゼル様のお陰ですわ。
今日行った所は、全部初めての場所でしたから、全て珍しく、そして美味しいものも頂けて良かったです」
本心からそう言うと、
「良かった。僕も、リリーと一緒に来れて、嬉しい」
と、周囲の面々の総無視発言をして、はにかんだ。
さて、塩辛いものの後には、甘いもの!
最後は足湯スペースで、温泉むしパンを食べることにしている。
足湯という概念がこの世界には無かったので、昨日無理を言って足湯スペースを急ごしらえして貰ったのだ。
温泉まんじゅうも無かったので、甘いむしパンを蒸したものの出店もお願いした。
リリーもだいぶワガママ令嬢なのだ。




