118.王国観光②
次は、牛舎から建物の中に移動して、キッチンスペースに行く。
そこで、細長い容器に少しの塩とミルクを入れて貰った。
「あとはこれを、ひたすらシャカシャカと振って下さい」
「なんで??」
ピンゼル様とエルム王子は訳が分からないようだが、とりあえずリリーの指示に従って振ってみる。
パシャパシャ パシャパシャ
容器中で水音がする。
「まだー?」
最初は楽しそうに振っていたが、だんだん手が疲れてきたらしい。
エルム王子も右に同じという様相だ。
「まだまだ。音が変わるまで頑張って下さいな」
リリーはそう言って一心不乱に振り続ける。
この体力勝負な催しも、トゥシュカ様には問題がなかったようだ。
無表情かつ高速で手を振っている。
ポト パシャ ポト パシャ
中で固形物がひっつくような音がしてきたら、完成だ。
容器を開けて、固形物と水分に分ける。
「はぁっ はぁっ …
やっとできた… これ、なぁに…? 」
ピンゼル様の容器にも、白い塊ができていたので、お皿に出した。
「ふんふん 何もにおわないなぁ」
リリーは公爵邸で朝焼いていたパンを出し、切り分ける。
ムッカ夫妻も、牧場で作っているチーズを分けてくれた。
「これが、バターですよ。 出来立ての柔らかいフレッシュバターは、とても美味しいのです」
リリーがにこにこ笑い、ピンゼル様のお皿に乗っているバターをパンに塗って差し出す。
「へー! これが僕が作ったバター!」
ピンゼル様は驚きながらパンをかじり、あまりの美味しさにそのまま全部押し込んでしまった。
「ふがふが… 美味しー!! ミルクの味が濃ゆくてコクがあって…
母様にも食べさせてあげたいな」
無意識に呟いて、ペタペタと自分でパンに塗ったり、チーズを味見したりしている。
トゥシュカ様も、感心しながらバターパンを食べている。
エルム王子のバターも無事にできたので、パンに塗って渡した。
オリバー様とジェイバーにも渡す。
良かった良かった、今の所順調だわ。
後味さっぱりのために、持ってきたフルーツを剥いて出し、軽めのブランチを終えた。
【リリー子連れ旅のしおり必勝法】
②工場見学を盛り込むべし
お世話になったムッカ夫妻とプレリー牧場の皆様にお礼を言って、次の目的地であるモリーノ丘陵に向かう。
モリーノ丘陵は、王都からは南西に少し離れた場所にある、たくさんの風車がある名所だ。
この地域は川があまり流れていないので、風車の動力で地下水を組み上げたり、小麦を挽いて粉にしている。
周辺の街では綺麗な水と挽きたて小麦で作る、美味しいパンが有名だ。
丘陵に着くと、風車は形が違うものが2種類あり、それぞれが10機ずつ建てられていて壮観だ。
予め風車の持ち主には中に入る許可を得ているので、建物の中に入った。
さすがに背が高く天井は見えないが、ギイギイと音が鳴っている。
建物の中は薄暗いので、響く音が不気味なのか、ピンゼル様はそっとトュシュカ様の傍に近寄っていた。
1種類目の風車では、外の大きなプロペラが回る(縦回り)と、連動して中の羽根が回り(水平回り)、下でつながっている石臼から小麦がパラパラと挽かれて落ちていく。
落ちた粉は斜めの経路をサラサラ流れて、袋の中に収まっていった。
2種類目の風車では、回るプロペラに接続している凹凸のある軸が、下がると水汲みポンプを押し、上がるとポンプから上がる仕組みになっていて、手押し水汲みポンプを風車が自動で押したり引いたりするような感じで水を汲み上げていた。
この年頃の男の子は、機械仕掛けみたいなのが興味深いらしく、ピンゼル様にしてもエルム王子にしても、粉が無限に出てくる様子や、キコキコ動く水汲みポンプを飽きることなく眺めていた。




