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110.ピンゼル公子の攻略法②

リリーはシェフに、余った鶏の骨や、玉ねぎなどの野菜の皮を分けて貰い(すごく怪訝な顔をされた)、フルフィールの丘でハルディン夫妻に貰っていた、臭み消しのハーブと一緒にコトコト煮込んでいた。



その横で、玉ねぎとキノコをバターで炒めている。

良い香りがして甘みと香ばしさが際立ったら、塩コショウとふるった小麦粉を振りかけて、焦げないよう気をつけながら更に炒める。



鍋でぐつぐつ煮詰めている廃棄クズスープから、骨や野菜などの具材を網で濾し、水分だけにしたものはブイヨンになる。



炒めた具材へ粉が全体に行き渡ったら、ブイヨンを少しずつ流し入れ、弱火でゆっくり混ぜる。

すると、粉っぽかった塊が、ドロッとしたカスタードクリーム状に変化する。



そうしたら今朝搾りたての牧場直送ミルクを少しずつ加え、沸騰しないよう気を付けながら混ぜていき、トロトロのホワイトソースになった。



陶器の器には、蒸したブロッコリーとホクホクのじゃがいも、ソテーしたサーモンを並べているので、その上にたっぷりかけてチーズを乗せる。



それを熱したオーブンに入れて焼成する。




ポテトグラタンが焼き上がるまでの間に、アシュトン邸で頂いた、チキンと相性が良いという配合秘伝のスパイスをまぶした鶏肉に粉をからめ、熱した大量の油の中に投入する。



くるくる万遍なく回して火を通し、カラッと揚がったらシワシワにした紙の上に乗せて油を切る。



グラタンは既に焼き上がっているが、グラタンも唐揚げも、出来立てアツアツは7歳児には鬼なので、少し冷ます。




「じゃんけんポン!」


「あっちむいてホイ!」


「ぐわぁぁぁ 負けたぁぁぁ」



ピンゼル様は、向く方向と逆に目を泳がす癖があったので、大変分かりやすい。

適当に遊びながら、ギリギリ食べられる温度になってからお皿に取り分けてあげた。




「どっちも初めて見るなぁ。リリー、これなぁに?」


「これはグラタンと、鶏の唐揚げよ」



ふんふんと匂いをかいでいる。


リリーがスプーンでグラタンを掬うと、チーズがびよーんと伸びた。 

ふーふーして口元に寄せてあげる。



「はい、どうぞ」

あーんしなさいと言わんばかりにスプーンを口に近づけるリリーに顔を赤らめ、



「じ、自分で食べれる!」

スプーンを手から奪い取ってパクっと食べる。



「ハフッ  ん… おっいしーーー!」


ちょっと熱かったのか目を丸くしてもぐもぐしている。

唐揚げは一口サイズに切ろうとしていた所を、横からフォークで刺して取られ、かじって口にほおばる。



「何コレ、カリっとしてるのに中は柔らかくて美味しい! いつものチキンと違う!」



お気に召したようで、モリモリ食べ始めた。

リリーは冷たいレモン水を差し出しながら、

「ちゃんと噛み噛みしなさいよー」

と背中をさする。



「ムッ!? 子ども扱いすんな!」

ぺいっと手を払いのけ、そのまま食事を続けた。




良かったわ、やっぱりお腹は空いていたのね。

リリーはピンゼル様の様子にひとまず安心し、先程から柱の影にいる付き人達を安心させるよう頷いてみせた。



反対の柱から心配そうに見ていた、自国の世話役達にも目配せをする。

彼らは胸の前で指を組み、涙を流したり、抱き合ったりしていた。




7歳で親元を離れて初めての外遊だもの。

多分緊張と寂しさやイライラを、何かにぶつけたかったのではないかしら。

食べないとかいらないとか言ってしまった手前、意地を張って食べるタイミングを見失ったのだろう。



あと、ラピス公国は酪農が盛んと聞いていたから、チーズやバターなどの乳製品は馴染みが深いだろうし、子どもは好きなのではないかと思ったのだ。



グラタンそのものは初めて見たようだが、気に入ってくれたみたいだから、見立ては外れていなかったようだ。



特にチーズが多そうな所をほじくって食べている姿を微笑ましく見ていたら、シェフが近づいてきた。




「リ、リリー様、あの、甚だ厚かましい願いで申し訳ないのですが、私も一口頂けませんでしょうか… 」


「アッ! ずるい! 私も… 」


「宜しいのであれば、私も…」




とっくに柱の陰から出てきていた付き人&世話役達のお腹が鳴る。



彼らは、主(賓客)であるピンゼル様が食事をとられていないのに、自分達だけ食べるわけにはいかないと、食事を自粛していたようだ。



なんてこった!

そんなことしてたら死んじゃうわ。



リリーは急いで皆にも取り分け、他にも卵料理を作り足し、にぎやかな昼食となった。



シェフにグラタンと唐揚げのレシピはざっくり伝えたが、スパイスはアシュトンパパ(ロセウス氏)に頂いたものだから、必要ならばそちらに問い合わせることをお勧めした。



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