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105.晩餐会③

次に運ばれてきたのは、サラダだった。



ここでサラダ??


リリーは正式なコース料理を初めて食べているが、ローズ侯爵令嬢に聞くと、肉料理の後にサラダが来るのは、コース料理として一般的なのだそうだ。


口がさっぱりするかなかな?



しかし、日本ではサラダは割と序盤に出てくるから、何か違和感がある…

まぁ、どちらにしてももう入らないけど。



そして次はフロマージュ、つまりチーズだ。



ここでチーズ!?


またしても驚いたが、デザートの前にチーズが出てくるのは普通のことらしい。

皆の胃は一体どうなっているんだ…




さぁ次はお待ちかねのデザート♫と思っていたら、お父様が現れた。


「王様や王子達に挨拶する列も落ち着いたようだ。

リリーも一緒に挨拶に来なさい」



そういえば、他の令嬢達は比較的早い段階で親御さんが挨拶に連れて行っていた。

リリーは病弱(とまだ父は思っている)のため、列に長く並ぶことを避けて、後回しにしたらしい。


やはり、挨拶自体はスルーできないみたいだったので、後ろ髪を引かれる思いで席を立つ。






「ラヴァンド王様、オルキス王妃様に初めてお目にかかります、ディアマン・ブロン・リリーと申します。」


リリーがカーテシーで挨拶をすると、

「おぉ、リリーちゃんのことは、このローレンスからよーく聞いているよ。だいぶ元気になったそうで、良かった。

今日は無理を言ったが、楽しみにしているから頑張ってほしい」

と王様が言い、


「リリーさん、話には聞いていたけれど、本当にお人形さんみたいに綺麗な子ねぇ。でも、容姿だけでは王妃は務まらないから、今後は様々なことを学ぶ必要があるわ。

今日のこのことも、その最初の一歩だと思って頑張ってね」

と王妃様が言う。



「勿体ないお言葉でございます。 まだまだ至らない私ですが、持てる限りを尽くして、来賓の皆様に楽しんで頂けるよう頑張ります」

とお辞儀をした。



王様と父様も2、3語話し、エルム、クレム王子達にも挨拶をしてから、ラピス公国の来賓席に移動する。





そこには、先程の追いかけっこ少年が、ボールをひたすら壁に向かって蹴っており、戻って来たボールを蹴り返して遊んでいる周りを、ほとほと困り果てた付き人達が取り囲んでいた。



その様子を横目に見ながら、特に窘めたり止める様子のない男性が、こちらに気づいて顔を上げた。




目があった瞬間、リリーはすぐに思い出した。

この人、朝の、手本試合の人だ!!




漆黒のウェーブがかった前髪の奥から、きらりと光る金色の瞳と目が合って、急にリリーの顔に熱が集まった。



「私は、この国で軍務大臣をしている、ディアマン・ブロン・ローレンスだ。これは、我が娘で第一王子の婚約者のリリーという。宜しく。」

父様から紹介をされたので、慌ててカーテシーを行う。


「リリーと申します。どうぞ、宜しくお願いします」

早口に挨拶をすると、男性は微笑んで、




「僕はラピス公国のトゥシュカ・マティータだ。

君とは今朝会ったような気がするな。違うかい?」



言われて父様は怪訝な顔でリリーを見るが、リリーはドキドキしながら、

「はい。今朝、騎士団にいる兄の練習風景を見学に行った時にお目にかかりました。

公子様とは存じ上げなかったので、驚いております」

と答えれば、父様もああなるほどと前を向き直った。




「この国の女性は、皆ドレスを着ているよね。

確かにドレスは華やかで綺麗だけど、動きにくくはないかい?

朝君を見た時、その見事な走りっぷりには驚いたよ。

ドレスを着ているのに、あんなに速く走れる令嬢がいるなんて驚いたんだ」


リリーは怖くて父様の顔は見れず、とりあえず反応はせずに、遠くを見つめた。




「この晩餐会で、もしあのご令嬢に会えたら渡したいと思って、これを持ってきていたんだ。

うちの国で最近開発した新しい生地で作った服なんだけど」

トゥシュカ様が付き人に合図を出すと、奥から箱を持ってこさせた。



トゥシュカ様に手渡された箱を受け取ると、

「開けてみて」

と言われて、そっと蓋を外した。




そこには上下の洋服が入っていた。

白地だが柔らかなクリーム色で、透け感があるのに透けない不思議な生地で、おまけに伸縮性がある。

日本ではお馴染みの、ニットに近い。


「わぁ!すごい! この生地は伸び縮みするのですね!」

リリーが喜ぶと、



「そうなんだ!よく分かったね。 これは、織り方を間違った職人の布から偶然作り出された生地だったんだけど、身体の線にも馴染むし、とても動きやすいんだ」

公子は嬉しそうに説明する。



「君みたいによく動く子になら、上手く着こなしてくれそうだから、ぜひ貰って欲しい」



嬉しい!

この世界には伸び縮みしない布帛生地しかなかったから、何かと不便だったのよね〜!

ぜひ頂きたい…



ハッ!


恐る恐る父を見上げると、父様は何とも言えない顔をしていたが、とりあえず頷いてくれたので、御礼を言って、友好の証にと有り難く頂くことにした。




トップスは短め丈でボートネックにレースの可愛いパフスリーブ、ボトムスはスカンツとかガウチョパンツ的な、長いキュロットスカートで、一見ロングスカートだが、実はパンツというものだった。

首周りがすっきりしていて裾はふわっと広がっているから、綺麗めシルエットで、合わせるアクセサリーさえ選べばフォーマルにも着られそうな上品なデザインだった。



これなら新体操もかなり踊りやすそう!

晩餐会が終わったら、他にも種類が無いか聞いてみよう。





ピンゼル様にもご挨拶をと近付くが、まず全然こちらを見ようとしない。

父様が声をかけても一切反応せずにボール遊びに邁進している。



リリーと父様と付き人が困惑して立ち尽くし、遊びの内容が壁打ちからリフティングに変わった時、急に音楽が変わった。

そろそろ余興の時間だという合図の曲だ。




行かなくては!

リリーは応答のない少年に、一方的な自己紹介と挨拶をしてその場を去った。

父様も、会釈だけをして席に戻った。



少年は、2人が遠くへ行ったことを確認してから、その背中をじろりと見た。



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