10.誕生日
「来月はお嬢様のお誕生日ですね! 旦那様方もお帰りになるのではないですか?」
あまりに放置されて忘れてたけど、父、兄はご健在だった!
さすがに誕生日には帰ってくるのか〜。
目が覚めてから半年以上経つのに顔を合わさないんだから、多分前回会ったのも誕生日かもしれない。
七夕みたいな家族…。
百合子だった頃はもちろん毎日顔を合わせてごはんを食べていたし、誕生日は楽しみなイベントだったけど、今回の生活では縁遠い話みたい。
誕生日会?も、寒々しいものになるのかな。
誕生日の2日前に父と兄が帰宅してきた。
お父様はガッチリ体型で目付きが鋭く、パッと見は裏稼業の人みたい。
the軍人さん!って感じ。
お兄様はスラリと長身だけど筋肉質であることが服の上からも分かる。
細マッチョな感じ。
「ただいま、リリー 体調はどうだい?」
「お仕事お疲れ様でした。お父様、ウィリアムお兄様。
久しぶりにお会いできてとても嬉しいです」
エントランスに立つ父と兄を、カーテシーでお迎えをした。
にっこり笑って顔を上げると、目の前の2人は驚愕の表情を浮かべていた。
「リリー、ずいぶん元気になったんだね…?」
「はい! 好き嫌いをせず適度に運動をするようになってからは、熱を出して伏せることはなくなりました」
「なるほど。それはよく頑張ったね。何かご褒美を考えよう!」
お父様は予想以上に嬉しそうに破顔して私の頭を撫で、ほっぺにチューまでしてくれた。
あれ!?
これまで放置されてたから、絶対冷たい人だと思ってたのに、どういう風の吹き回しかしら…!?
お兄様もその様子を微笑ましげに眺めていて、特に疑問の表情をしていないみたい。
なんで? 私は違和感しかないんだけど??
カーテシーができたから?
そういえば、カーテシーはドレスの裾をつまんで優雅にする礼だけど、ドレスの中ではカエルみたいに曲げた足でちょっとしたスクワットをするような感じの動作だから、前のリリーにはできなかったのかもしれない。
それにしても、だ。
とにもかくにも、2人を部屋に案内して夕食の時間を伝え、自室に戻るとため息をついた。
「お父様は私に興味が無いのではなかったの? 今までこんなに放ったらかしにしておいたくせに、まるで溺愛してる娘みたいにするから驚いてしまったわ。逆に怖いくらいよ」
「お嬢様、旦那様はお忙しくてなかなか本邸に帰られませんが、お小さい頃からお嬢様のことを大変可愛がられておられましたし、大切にお考えですよ」
ジニアがドレスに合わせて私の髪を結い上げながら教えてくれた。