1.新しい生活のはじまり
「ん… まぶしい」
病室にしてはやけに明るい光が目に入り、不思議に思って目を開けたら、見慣れない天井が目に入った。
ボーっとしながら、その白い天井に彫られた綺麗な彫刻を眺めているうちに、だんだん意識がハッキリしてきた。
ガバッと起き上がると途端にぐるんぐるんと目眩がした。チカチカする視界でふかふかの布団を見回し、今までいた病室ではないことを確認する。
私の部屋はコンクリ剥き出しの殺風景な病室だし、パイプベッドなはずで、こんな立派なベッドと大理石みたいな床なのは、どういうことなのか。
「ここ、どこ?」
ピカピカの床は鏡みたいに自分の姿を映している。
髪もなんかおかしい。異様に伸びてる気がする。
うつむいたら、金と銀の間みたいな色の細い髪の毛が肩から落ちてきた。
手や指はありえないほど小さくて白くか細い。爪は色を失っている。
ちゃんと鏡を見てみようと、ベッドから立ち上がろうとして膝に全く力が入らず崩れ落ちてしまった。
「??? 痛っ…!」
「お嬢様!? 起きられたのですか!?大丈夫ですか?」
ベッドから転落した音を聞いて部屋に来た女の子が驚いて走り寄ってきた。
やっぱり来てくれたのはいつもの看護師さんじゃない…。
「お嬢様は何日も高熱でいらしたから、急に動かれるのは難しいと思います」
助け起こされて、もう一度ベッドに腰掛けた私は、自分を示す一人称を戸惑いながら口にする。
「『お嬢様』… 」
歩くことさえままならない手足はやはり小さく白く細く、よく見たらいつもの薄緑色のチェックの病院着でなくレースをあしらったワンピースというかネグリジェ?を着ている。明らかに自分の身体ではない。
どう見てもガリガリの子供といった体格で、全身に全然力が入らない。
「ごめんなさい、ちょっと私と貴女の名前と、私達の関係を教えて貰えないかなぁ。ついでに最近の出来事とか…」
「まぁお嬢様… 何日もお目覚めにならなかったのですもの、混乱されるのも無理はないと思います」
困りきった私を見て明らかに可哀想に、という表情をした女の子は、自分の名前さえ思い出せない様子の私を怪しむことなく現状を教えてくれた。
ここはディアマン公爵家で、私は娘のリリー。今年で10才。
父は王宮で軍務大臣をしている。
兄は父の元で働きながら更に鍛錬を重ね、将来王太子を守る近衛騎士を目指しているそうだ。
母はもともと病弱な人であったらしく、私を産んですぐに亡くなった。
父は幼い頃から病弱な私を、小さいときは心配したり様子を見に来たことはあったが、このごろは死ぬことはないようだと安心したからか(?)王宮近くの別邸から出勤していて、ほとんどこの本邸に帰ることはなくなったという。
つまり、放ったらかしになっている。