【短編版】最高の祝福
かなーりゆるい設定です。ご容赦を。
「似合ってねぇな」
目の前にいる女性は、私を見て第一声にそう言い放った。
仮にも国王である私に。
さて、どこから説明したものか。
私、ルーデルト・カイザー・ヴィントリッヒはこの国の国王である。成りたてではあるが。
先代の国王が崩御して、次代の王を誰にするかということで王族はそれはそれは荒れた。なにしろ先代は正妃以外、つまり側室があまりにも多すぎたのだ。
その数十数名で、この国の歴代史上最も多い。せいぜい2、3人がいいところを考えるとやはり多い。
そういうわけで王位継承権を持つ王子王女も当然多く、代々国王となる者は指名制だったこの国で、次の国王を指名する前にうっかり逝ってしまった国王はどうしようもないとしか言えなかった。いい年だったんだから、せめて王太子指名しておけよ、と。
継承権に序列はない。第一王子、第二王子といった区分もあくまで生まれた順でつくだけで、有能な王族が国王の指名を受けて王太子、しいては国王となるのだ。
そういう訳で、当然正妃がならば我が子をと推してきたのだが、宰相や有力貴族は猛反対した。正妃の王子は2人いたが、どちらも有能とは言い難かったからだ。ついでに言うならどちらの王子も国王なんて面倒なものはなりたくないと公言していたので、それもある。
そして揉めに揉めた結果、側妃のうちで「最も公務に取り組んでいた」という即戦力になるだろうという理由で推薦され、私が国王とされた。
その話を聞かされた時、「この国大丈夫か」と当人である私が思ったが、辞退しようものなら今度こそ血の雨が降りかねないと周囲から泣き落される形での決定だった。
そうして戴冠式を終え、突如お鉢が回ってきた国王という立場で執務に取り組んでいた私のところにふらりとやってきたのが、冒頭の女性である。
彼女の名はオーレリア。この国の大聖堂に身を置きながら、積極的に前線で聖職者として、傷を癒すのではなくメイスと呼ばれる鈍器を振り回して文字通り戦う中々好戦的な女性だ。当人曰く、癒しの魔法は管轄外だと。
聖職者としてそれでいいのかとも思うが、実際魔物を討伐するその実力はその辺の騎士などより遥かに上であるため、特に誰も咎めないのが実情である。
そんな彼女と知り合ったのは、数年前に魔物の大規模討伐が終わった後の叙勲祝賀会でのことだ。功績をあげて呼ばれた彼女は、今一つ華やかな場を苦手としていたために壁の花と化していた私に何を思ったのか話しかけてきた。
「なぁ、これ帰っちゃダメか?」
…主賓が言っちゃダメだろう。そもそもなぜ私に聞く。
当時の私の心境は間違っていないと今でも思っている。
何も言わずに困惑した視線で返した私のことが、よくわからないがお気に召したらしいオーレリアはそのまま色々と話しかけてきた。
討伐の事、大聖堂での事。そして城下の事。
歯に衣着せぬ彼女はとにかく口は悪かったが、ありのままを楽しそうに話しているのに私はどこか惹かれた。
そうしているうちに私も自然と口が開き、それ以降オーレリアとは時折手紙のやり取りや祭典などで話す機会が増えていき、気が付けば友人とも呼べる仲になっていた。
そんな彼女に私が国王となったという情報が入った結果。
「似合ってねぇな」
開口一番、私の国王としての正装を見て言い放った。
「…不敬罪になりますよ」
何とかそう口にした私をオーレリアは腕を組み上から下まで見て、ため息一つで一蹴した。
「なりたくなかったんじゃなかったのか、王様」
「それを言われると否定はできませんが…私は仮にも王族です。その責務を全うせずしてどうします」
「責務ねぇ…悪くはないけど、やっぱりお前にその恰好は似合わないよ」
そう言ってオーレリアは目を細めた。
品定めをしているような目だと感じたのは、恐らく気のせいではないだろう。彼女は時折そうやって人を見ることがあることを私は知っている。
だがそこに「偉そうに」という言葉は不思議と似合わない。
出会った時からそうだったか、そうしているのが当たり前という風格が自然とあるのだ。
「でも、やっぱり似合ってないけど、覚悟はあるんだな」
囁くように零れた言葉にこちらも言葉を返そうとしたら、オーレリアは不意にニッと笑った。
「祝福してやろうか?」
「祝福?」
「そう、腐っても大聖堂所属の聖職者として、他でもない私が祝福してやろうかと言っているんだ」
妙に偉そうな物言いに何とも言えない気分になるが、悪くはない。
「なら、盛大に祝福してもらえませんか? 友人として」
私が言葉を返すと、一瞬彼女は目を見開き、次の瞬間には悪戯を思いついたような笑みを見せた。
「いいだろう」と言い残してオーレリアはそのままクルリと扉へと去っていった。
いつものことながら、言いたいだけ言っていなくなる。それがオーレリアという女性だ。
オーレリアという嵐が過ぎ去ってから数日後。
大聖堂から新たな国王への祝いの儀を執り行いたいと通達がきた。十中八九、オーレリアが手をまわしたのだと感じた。
…どれだけ大聖堂の上層部を脅かしたんだ。
彼女がどの様な立場にあるか詳しく知らないできたとはいえ、このような正式な儀をとなると私のみならず王城も一気に騒がしくなった。
参列する者の選別に、当日の衣装にと様々な仕事が舞い込んできて、あれよあれよという間に当日となってしまった。
「大聖堂」からの祝福となると、当然のことながら大司祭あたりのトップクラスが出てくることになる。
我が国の大聖堂の仕組みは他国と少々違うところがあり、御三家と呼ばれる三つの家系が代々一人ずつロードと呼ばれる代表の大司祭を出している。つまりその3人のうち誰かというところなのだが、ロードがどのような人物かはあまり公になっていない、ある種のブラックボックスのような存在だ。
私も家名を知っている程度で詳しくはない。王家とは完全に独立した機関ゆえにその仕組みも独特なのだ。
未だに慣れない玉座に腰かけ、周りもまた固唾を飲む中。
「大聖堂より、ロード・カスティニオーリのご入来です!」
大扉の前に控えていた兵士が声を上げた。
扉が開かれ、2人の従者を後ろに従えた人物を見て、その場にいた全員がぎょっとした。
…オーレリア!?
危うく声を出しそうになったのを飲み込んだ自分はよくやったと思いたい。恐らく他の者も同じであろう。
悠然と玉座へと歩いてくる女性は、大司祭の正装を着てはいるが、どう見てもオーレリアその人である。魔石の付いた豪奢な杖を片手に持ち歩く姿には普段の粗っぽさがなく、上位者としての威厳を感じられた。
定位置で歩みを止めたオーレリアは杖を掲げた。
「我が国の新たなる時代の王に、神々の祝福があらんことを。そして、我、ロード・カスティニオーリの名のもとに、我が友、ルーデルト・カイザー・ヴィントリッヒ国王へ、カスティニオーリ家はその後見となることを宣言する」
その言葉が放たれると同時にオーレリアの持つ杖が光を帯び、小さな光の粒が広間に舞い降りた。
―祝福の光―
そう認識すると、参列した貴族たちから盛大な拍手が送られたが、私はそれどころではない。
確かに私は言った。「盛大に祝福を」と。
だが、どうしてオーレリアがロードなのか、御三家の一つが後ろ盾になるとは規模が大きすぎる、などということで頭がいっぱいになっていた。
オーレリアを見やれば、視線が合い、ニヤリと笑ってのけた。
まごうことなき確信犯である。
これは後日問いただす必要があると思うと、祝福を受けた喜びより頭痛が勝った。
やることはやったと言わんばかりに、舞い散る光りが収まるとオーレリアたちは私の言葉を待たずに踵を返した。
彼女たちが帰った後は、それはもう大騒ぎだった。
ロードと友好関係だったのか、そもそもオーレリアがロードなのを知っていたのか等々キリのない質問攻めに当然ながらあった。数日間それで揉めたのは当然の結果である。
後日。
相も変わらず前触れなしにひょっこり私の執務室に顔を出したオーレリアに対して私がジト目になったのは悪くないはずだ。そもそも毎回どうやって王城に入り込んでこられるのか。
「盛大に祝福してやったのにひどい顔だな」
「偉そうに言わないでください。知りませんでしたよ、何もかも!」
「そりゃ、隠してたからな。偉い立場っていうのは面倒くさいことこの上ないから適度に息抜きでもしなければやってられん」
言ってのけた言葉の後に、私とオーレリア二人分のため息が出た。
つまるところ、オーレリアにしてみれば「友人」としてエールを送ったようなものらしい。彼女らしいと言えば彼女らしいが、如何せん規模がデカすぎた。確かに「盛大に」で間違いないが。
「まぁ、これから長い付き合いになるだろうからな。これからもよろしく頼むよ、我が友よ」
「お願いですから多少は自重してください。ただし、あの宣言がありますからこちらも精々頼らせていただきますよ、我が友人」
そう言って笑いあった私たちは、なんだかんだで「気の合う友人」ということなのだろう。
この先の事を考えれば少々頭の痛くなる関係かもしれないが、悪くない。オーレリアというかけがえのない友人が祝ってくれた。今になって漸くその実感が沸いてきた。
彼女の言う通り、これから長い付き合いになる私たちにとって、あの日の祝福にお互い応えなければならないだろう日々を私は想う。
楽ではない道のりを選んだ私たちが往くこの先の未来への、最高の祝福に。
友人から要望があったので、続編構想中です!
もし続きが読みたいという方がいらっしゃれば、☆入れていただくとやる気メーターぐんぐん上がりますので、よろしくお願いいたします!!
2/14追記
この度、短編と後日談だけでは書ききれそうにないので、連載版を作ることにしました!
よろしければ、連載版もよろしくお願いします(*'ω'*)