ターミナル
ステラポートはガーデンの玄関口だ。
多くの航宙船が出入りをしている。
といっても俺のいる位置から航宙船は見えない。
ターミナルのベンチに座っているからだ。
ゲートでは大勢の利用客が行き来をしている。
サラリーマン風の男性。
三人組の若い女性たち。
親子4人の家族連れ。
様々だ。
旅行か、仕事か、大抵はそのどちらかだろう。
「俺はいったい、、、」
どうすればいいんだ。そんな言葉が震えて出てこなかった。
先ほど会社に電話したら繋がらなかった。
それもそうだ。隊は全滅。輸送船レッドビーク号も沈んでしまった。
会社に残っていた社長や事務員さんはいるだろうけど、商売道具をすべて失い、社員もほとんどいなくなった状態だ。
もしかしたら保険金なんかで一からやり直すのかもしれないが、正直あの会社に戻りたいとは思わない。
そもそも社長とも性格的に合わず、うまくいってなかった。
今頃俺一人がのこのこ帰ったところで社長も迷惑だろう。
というか電話して、留守電にもならず繋がらなかった時点で、社長はとっくに会社を畳んでどこかに行ってしまったのかもしれない。
そうなるとやることは一つしかない。一旦、家に帰りまた仕事探しをするしかない。
「俺にできることといったら」
宇宙ゴミを拾う仕事くらいか。
しかしそれも、以前からAI搭載の作業ロボットが自動で行っていると聞く。
やはりまた、同じような仕事を探すしかないのかもしれない。
また宇宙に出るのか。ギャラクシオに乗って。
「はぁ、、、」
ゴブリンたちに囲まれて殺されかけたトラウマが発動しなければい良いのだが。
「お兄ちゃんどうしたの?」
「えっ?」
顔を上げると、目の前には可愛らしい少女が立っていた。
年は5、6歳くらいか。
「君は?」
「お腹、痛いの?」
「いや、そんなことないよ」
「じゃあ頭?」
じゃあって、、、どう返していいかわからず苦笑いを浮かべる。
「頭出して、おまじないしてあげる」
「こう?」
俺は少し頭を下げる。
「いたいのいたいのとんでけぇ」
「ありがとう。少し楽になったよ」
「ママがいつも言ってるよ。痛いのはだいたい気のせいだって」
「そうだね。キミのママはいいこと言うね」
俺は彼女に微笑む。うまく笑うことが出来たか自身はないが。
「パパとママは?」
「パパはいないよ。ママはあっち」
見ると女性の姿があった。
美しい人だ。俺より少し年上くらいか。
「パパ、いないの?」
「うん。でも今日帰ってくるんだって」
なるほど。そういう意味か。少しドキッとした。
「だからお母さんと迎えに来たんだね」
「そうだよ」
嬉しそうに少女は笑う。出張か何かだったのだろうか。ターミナルはこういう再会の場でもあるんだ。
そこでターミナル内の空気が少し変わったことに気付く。
見ると航宙船の発着予定の表示がすべて非表示に変わる。
俺はまさかと思い、少女に見えないように端末を開く。
やはり近くでエムズが出現したようだ。
こういうのをすぐに調べられるのはあの会社にいたおかげか。
「すみません」
そこへ少女のお母さんがやってくる。
「うちの子がお邪魔をして」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ママどうしたの?」
「パパ、すこし帰ってくるの遅れるみたい。だからこっちで待ってましょうね」
俺はそれを見て、決意を固めた。
そしてベンチを立ち上がる。
「お兄ちゃん?」
「用事ができたんだ。ちょっと行ってくる。キミのおかげで元気になったから用事を済ませられそうだよ」
「いってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
俺は少女に手を振るとターミナルを後にした。
さっき手を振った時、今度は上手く笑えた気がした。