破壊
コックピット内が赤く染まる。機体異常を知らせる警報の色だ。
もちろん警報音はさっきからうるさいくらいに鳴っている。
モニターに表示されている機体の状態を示す画面では、手足に頭部ユニットは半壊または全壊である。
唯一残された胴体ブロックも他より多少頑丈に作られているのでおそらく最後に残されたのかもしれないが、破壊されるのも時間の問題だ。
機体の外を撮す外部カメラはとうに破壊され、コックピット内部から外の様子を確認することはできない。
なんなら見る気もない。
シートの上で丸くなり目を瞑り頭を抱える。
外の装甲がひしゃげているため脱出もできない。出たところですぐに捕まって死ぬか、万が一逃げられても、宇宙を漂流して酸欠で死ぬだろう。
ジリジリと自分が殺されるのを待つということがこんなにも恐ろしいことなのか。
だったらひと思いに殺して欲しかった。
家族や友人が死んで、俺も死にたいと思った。そんな自分を今少し呪っている。
外からの衝撃が室内に響く。
コックピット内の壁が歪み、少しこちらに迫ってきているように思える。
終わりだ。
このまま感覚のあるまま押しつぶされるんだ。
こんなことなら一度でも号田さんにお願いして女の子のいる店に連れて行って貰えばよかった。
変に将来のことを考えて貯金していたのもすべて無駄になった。
後悔ばかりが溢れていく。
そんな時、機体を叩く音以外の衝撃音が外から聞こえた気がした。
それに合わせて機体を叩く音も止む。
外で衝撃音とゴブリンのモノと思われる悲鳴が聞こえる。
こいつら鳴くんだ。こんな状況でそんなことをふと思う。
そして静かになる。
すると今度は機体を破壊する音が聞こえてくる。
でもそれはゴブリンたちの何も考えずただ叩くのではなく、明らかに装甲を引っぺがすような音だ。
そしてついに、コックピットの壁が剥がされ外の、宇宙の景色が見える。コックピット内部には少し空気があったので、それに合わせて吸われるように外に放り出される。
それを機械の腕が捕まえ、巨大な指が優しく包む。
『やはり生きていたか。なんだ元気そうじゃないか』
女性の声だった。
外部スピーカーで発しているようだ。
見たことのない機体。おそらく相当改造されている。
無骨なイメージの機体から可愛らしい女性の声が聞こえるのは少し違和感がある。
胸の当たりの装甲が展開する。
中にはAスーツを着た人影がある。
おそらく先ほどの声のヌシだろう。
ちなみにギャラクシオのような機体に乗るときは、Aスーツと呼ばれるスーツを着る。
衝撃吸収効果や体温調節機能もあり、短時間なら宇宙空間にいても平気だ。
AスーツのAはarmyのAだが、それに合わせて非戦闘員である軍人の着るスーツを
Bスーツ、民間人の着るスーツをCスーツと呼ぶ。
コックピット内の人物はこちらに手を差し伸べる。
それにつられて俺も手を伸ばし、機体の指を蹴ってそちらへと向かう。
ただ無重力空間だと一旦前に進むと何かにぶつかるまで止まることができない。
結果、彼女と抱き合う形になる。
ヘルメットがぶつかりお互いの顔が見える。
やはり、とても美人の女性だった。年齢は同じか少し上か。
すごくしかめっ面をしている。
『ジャマ』
「ご、ごめんない」
『とりあえず安全なところまで連れて行ってあげるからシートの後ろにでもいて』
「わっわかりました」
俺がシートの後ろに回るとコックピットの扉が閉じ、機体が動き出した。