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カエルの子  作者: おしぼり
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星屑

 本来、敵に近づく必要はない。

 ワームは動きも遅く遠距離攻撃の手段も持たない。

 つまり遠くから狙撃すればいいのだ。

 確かに装甲の硬い部分と柔らかい部分があるので近づいた方が少ない弾薬で確実に仕留められる。

 しかし近づいてわざわざ自らを危険に晒す必要はないのだ。

 それに号田さんが敵に接近してしまった以上、狙撃をすると号田さんに当たる可能性が出てくる。

 結局全機で接近して叩くしかなくなる。

 と言っても、いつもだと俺が到着する頃には全てのワームが倒し終わっているので、またいつものように俺は残骸集めになる。

 だが、今回はいつもとは違ったようだ。


『なっ、なんでお前らがここにいるんだよ』


 めずらしく号田さんの焦る声が聞こえてくる。


『どうした号田! 何があった?』

『来るな、来るなぁぁぁ』

『どうした、俺たちに言っているのか? 返事をしろ! 号田!』


 号田さんと隊長の叫び声がコックピット内に響く。


『うわぁぁぁぁぁ!』

『何? 号田のシグナルが消えた?』

『号田がやられたのか?』


 隊長と早瀬さんも焦り始める。

 確かにモニターに表示されていた号田さんのアイコンがerrorと表示が変わった。

 レーダーの反応も消えている。

 

『なるほどな、マズイ事になったかもしれん。早瀬、ボン、撤退の準備だ』

『隊長、いったい、、、』

『ゴブリンだ』

『なんでこんなところにゴブリンが、、、』


 ゴブリンは最近現れたエムズだ。

 今まで発見されていたエムズはイモムシのような姿のワームや、ハエや蚊に近い姿のバグの二種類が多かった。時々変異種も現れてはいたが、その二種がほとんどだった。

 しかし最近新たな種が現れた。それがゴブリンタイプだ。

 奴らは人のように両手足がある。

 無重力である宇宙空間で手足がある必要はあまりない。しかし俺たちの乗るギャラクシオは人型に作られている。

 難しいことはわからないが、人間が操縦する上でその方が効率がいいとかなんとか聞いたことがある。

 ゴブリンタイプは、そんな人類の人型兵器の真似をして進化したのではと言われている。

 やつらの厄介なのは両手を使うことだ。

 やられたワームや倒した人型兵器を盾にしたり武器にしたりして襲ってくる。

 背中はワームのような装甲で覆われており、弱点の腹は盾でガードする。そして接近して殴るってのが奴らの基本戦術だ。さすがにまだ、こちらの武器を奪って撃ってくるってことはない。

 しかしやられた機体を抱えて突っ込んできて、その機体が燃料に引火して爆発するということもある。いわゆる歩く爆弾のような状態だ。それもかなり厄介なので接近できない。

 俺たちに出来ることは隊長の言うとおり逃げるしかない。


「しかし隊長、逃げればゴブリンたちがガーデンを襲いますよ?」

『仕方ないだろ。どうせ俺たちがやられたらガーデンもやられるんだ。なんならガーデンには警備隊もいる。俺たちよりよっぽど頼りになる。ならここで俺たちが無駄死する必要はない』

「、、、わかりました」


 俺は返事をすると機体の向きを変えた。


『おい、なんだよこれ』

『どうした早瀬!』

『レッドビークが』


 レッドビークとは俺たちの輸送船のことだ。ヒヨシ車両が開発した輸送船キャプテンに号田さんが付けたあだ名だ。

 

『レッドビークが沈んだ』

『ゴブリンか』

『いつの間に回り込んだんだ』

「隊長、早瀬さん。おそらく号田さんを襲ったゴブリンたちがすぐそこまで来てます」

『囲まれた、のか、、、』


 俺はモニターを見る。レーダーに表示された敵を示す点が徐々に数を増しこちらに迫ってくる。

 

『嫌だ。俺は、こんなところでは死なんぞ。ユズハ、アヤカ!』

「隊長!」


 隊長のギャラクシオは急にスラスターを吹かすと、奥さんと娘さんの名前を叫びながら、ゴブリンの群れに突っ込んでいく。

 そしてレーダーから反応が消える。

 

「早瀬さん、、、」

『逃げるぞ』

「どうやって?」

『一点突破しかない。前面に火力を集中して二機で突っ切る』

「でも隊長が、、、」

『やるしかない。やらなきゃここで二人とも死ぬんだ』

「わっ、わかりました」

『俺が先行する。お前は俺の斜め右後ろからついてこい。無理に戦おうとするな。敵陣を突破して逃げるのが先だ』

「燃料、保ちますか?」

『そんなことは突破してから考えろ』

「わかりました」


 早瀬さんは一番手薄そうな場所を狙ってスラスターを吹かす。俺もそれに続く。

 銃を構え、前面に弾薬をばら蒔く。

 普段はほとんど戦わないので、引き金を引くのはひさしぶりだ。

 機体の衝撃が身体へと伝わる。

 基本的には衝撃を吸収してコックピット内には伝わらないような設計になっているはずだが、普段はやらないような高加速と銃の連射をすると、さすがに吸収しきれないようだ。

 しかし手応えは感じられない。

 レーダーの点は減っているようには見えない。


『あいつら、やられた味方を盾にしている』


 俺たちが当てずっぽうで撃った弾が前方の敵に当たり後方の敵はそれを盾にしているのだ。

 それでは手応えがないはずだ。


「もうゴブリンたちがすぐそこまで来てます。早瀬さん、どうすれば、、、」


 そこで、早瀬さんのギャラクシオが逆噴射し、急に機体を減速させる。


「えっ?」


 俺も慌てて少し速度を落とす。


『悪いな。俺はまだ、死にたくないんだ』

「早瀬さん?」


 早瀬さんのギャラクシオは俺のギャラクシオの後ろに回ると体当たりする。そして、俺の機体をゴブリンの群れに向かって突っ込ませた。

 

「早瀬さん!」


 ゴブリンたちが俺の機体へと集まってくる。

 早瀬さんの機体はその隙にゴブリンの群れを突破し、宇宙の彼方へと消えていった。


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