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カエルの子  作者: おしぼり
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ビール

 喧騒を気にせず、俺は喉にビールを流し込み顔をしかめる。


「不味いか」

「いえ、、、」


 笑いながら聞いてくる早瀬さんに俺は二文字で答えた。

 普段はお金をケチってビール味の何かを飲んでいるため、時々こうやて居酒屋で本物のビールを飲むといつもより苦い気がする。

 ここは居酒屋の中でもかなり場末の店だ。

 なので店内も汚いし料理もマズイ。しかしビールだけはマトモなのを出すので早瀬さんのお気に入りだ。

 店が汚くても、来る客も汚いので問題はない。

 俺たちのような底辺職ばかりが集まる店だ。

 エムズが飛来して半世紀。生存争いは長引き、正規部隊に掛かるコストは天井知らずだ。

 そこで政府は、メインどころの討伐を正規部隊が行い、撃ち漏らしたエムズの処理を下請け企業に任せるようになった。

 それが俺たちである。

 当初は政府から多額の補助金が出ていると言われていたが、俺たちの手元に届くのは端た金である。

 多くの補助金とやらがどこに消えているのかなんてわからない。

 隊長もそれほど裕福な生活をしているようにも見えないから、本当にどこかに消えているのだろう。

 もしかしたら社長がどこかに隠している可能性はあるが。

 なので俺たちは今日もワームの死骸をかき集めて二束三文で売って、なんとかこのビール代になるというわけだ。

 この店に来ているほとんどの客がきっとそうなのだろう。

 隊長は最近娘さんが産まれたとかで、さっさと帰ってしまった。

 号田さんは今日も女性のいるお店だろう。

 なので仕事のあとの打ち上げは、最近はだいたい早瀬さんと二人っきりだ。


「仕事には慣れたのか?」

「まだまだです」

「まぁそうだろうな。でも次第になれる。まぁ慣れる必要もないけどな」

「そうですか?」

「こんな仕事、続ける必要もないだろ」

「でもこれしかないんで、、、」


 俺は全てを失った。

 エムズだ。

 奴らが俺の家も家族もすべて奪った。

 俺達の住んでいたステラガーデンを襲ったのだ。

 まだ学生だった。

友達も大勢死んだ。

 何もかも失った気分だった。

 避難船で別のガーデンに逃げ延びた。

 そして政府の作った避難所に押し込められ、何もせず配給だけを受け取る日々を送った。

 それが虚しくて避難所を飛び出し行くあてもなく彷徨っていた時に、今の会社の募集を見つけた。

 きっとガキだったんだと思う。

 家族や友達の仇が打てると思った。

 なんなら返り討ちに遭って死んでもよかった。

 でもそれが何の意味もないことを最近やっとわかってきた。

 大人になったのだろうか。

 いやまだガキのままなのかもしれない。


「あんまし気にするな。お前はまだ若い。そのうち良い仕事も見つかるさ。もしかしたら奥さんも見つかるかもしれない」

「そうですかね?」

「隊長みたいに結婚して子供産んで、それが幸せかどうかなんて決めるのは、それからでもいいんじゃないか?」

「子供産んで、それでも幸せじゃなかったらどうするんですか?」

「そのときはアレだ。うーん、新しい幸せを探せ」

「なんですか、ソレ。それに早瀬さんもまだ独身じゃないですか。先に結婚するのは早瀬さんですよ」

「悪かったな」


 早瀬さんはニコニコしながら答える。


「まぁそれまでは俺たちが守ってやる。だから心配するな。ワームの死骸回収も立派な仕事だ。宇宙のゴミになるからな」

「はい」


 早瀬さんがビールのおかわりを頼もうと店員さんを呼ぶ声は、他の客の叫び声によってかき消された。


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