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カエルの子  作者: おしぼり
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名刺

「トーカさん、ここって気持ちいいですか?」

「いや、何も感じないわ」

「じゃあここは?」

「そこも感じない」

「そうですか、、、」

「ってか、機械の身体なんだから何かを感じることなくないか?」

「ですよねぇ」


 俺はトーカさんの身体を洗いながら苦笑いで返す。

 一回戦闘をしただけで機体は結構汚れるものだ。

 それをスポンジを使って丁寧に磨いていく。


「別に、他の機体のように洗浄機に入れてくれればいいよ」

「そんなぁ。トーカさんをあんなのに入れられないですよ」


 洗浄機とは、車の洗車機のようなものだ。洗浄機の中にいれてボタンを押せばスポンジのついたロボットアームが自動で洗ってくれる。

 しかしあれはスポンジは硬いし洗い方もかなり雑なので、そんなものにトーカさんを入れられない。


「でもいいじゃないですか。こうやって天気のいい日に水洗いするっていうのも」

「天気のいい日ってガーデンの中は天候が管理されているんだから、珍しいものでもないでしょう」

「まぁまぁそう言わずに。機械の身体になってから自由に動き回れないし、どうせ退屈でしょ?」

「まぁね。おかげでネット上の動画を見る機会が以前より増えたわ」

「機械が動画を見る機会。クククッ」

「ちょっとエリカ。別に面白くはないわよ」


 エリカさんの独り言が聞こえていたのかトーカさんがすかさずツッこむ。

 それにしてもトーカさんのところに転がり込んで、正直取っ付きにくいトーカさんとのコミュニケーションの取り方に困っていたところはあったのだが、こうして彼女の身体を洗うという理由ができてコミュニケーションが取りやすくなった気はする。

 だが、そんな俺たちの至福の時間に無粋な邪魔が入る。


「いやぁ、いい天気ですね」

「ガーデンの中の天候は管理されているので、珍しくもないでしょう」


 さっきの会話を聞いていたのか、突然現れた男の言葉に先ほどトーカさんに言われた文言をそのまま使う。

 

「まぁそう意地悪なことを言わないでくださいよ。地上時代の挨拶じゃないですか」


 スーツ姿の男はメガネを直しながら答える。

 男は俺と同じくらいの身長か。だが彼の後ろには屈強な大男が二人並んでいる。

 喧嘩して勝てる相手ではない。

 トーカさんが暴れれば別だが。


「どちら様ですか?」

「わたくし、こういう者です」


 差し出されたのは一枚の紙切れだ。


「これは?」

「名刺です」


 今の時代に紙の名刺を渡してくる人がいるのか。


「正規宇宙防衛隊情報部?」

「はい。部長の星川というものです」

「部長さん? 偉い人?」

「いえいえ、情報本部情報部部長なので下っ端ですよ」

「いや情報情報って情報多いな」

「国ってのはそういうトコロなんですよ。はっはっはっ」

「そんな軍人さんが何のよう?」


 エリカさんが手を止めてこちらへとやってきた。

 

「軍人ではありませんよ。我が国には軍隊はありませんから。隊員とお呼び下さい。でも私は情報屋ですけどね」

「で、その隊員さんが何の用かって聞いてるの」

「あまり歓迎はされていないようですね」

「すみません。ウチは宗教と新聞の勧誘はお断りしているので」

「どちらとも違うのですが。私の要件は、トーカさんという方にお話があるのですが。こちらの女性ですか?」

「トーカさんは、、、」

「私じゃないわ。今は不在よ」


 俺の言葉を遮るようにエリカさんが答える。


「そうですか。残念です。実は先日、お恥ずかしいはなしなのですがうちの隊がエムズに全滅させられましてね。ですがトーカさんという女性がたった1人でそのエムズたちをすべて倒されたそうじゃないですか。いやこれはなんとも素晴らしい。是非我が国の防衛のために助言を頂けないかと思っておりましてね。お二方はご友人か何かですかね? なんでしたらお二人がご存知のこと、少しでも教えていただけませんかね?」

「、、、どうしますか?、、、」


 俺は小声でエリカさんに聞く。


「、、、とにかくトーカのことは言わないで、、、」


 それにエリカさんが小声で返してくる。


「残念だけれど、私たちも商売でやっているのでね。企業秘密ってのがあるの。お答えできることは後日代表のトーカと相談の上、そちらにデータを提出するわ」

「そうですか。ですがこちらも手ぶらで帰るわけにもいきませんので。二人共、お願いします」


 星川という男がそう言うと、後ろにいた男たちが勝手に倉庫内に入って荒らし始める。


「ちょっと。勝手に何やってるんですか!」


 俺はそう言いながら星川という男の肩をつかむ。

 次の瞬間には、なぜか星川に手を握られ空を見上げていた。

 一瞬にして投げ飛ばされたのだ。


「一応私も防衛隊員でして。訓練は受けているのですよ。あまり手荒なことはしたくないので大人しくしていていただけますか?」

「タッド、大丈夫か?」


 エリカさんが駆け寄ってきて俺を起こしてくれた。


「はい大丈夫です。すみません」

「なんてことするのよ」

「これもお国のためなんですよ。嫌でしょう? 大勢の人が死ぬところを見るのは」


 相変わらずの笑顔だが目の奥が笑っていないように見える。

 この男、かなり恐ろしい男だ。俺がいた前の会社の人たちとは比べ物にならない。底知れなさを感じる。

 正規隊の人たちってみんなこんな感じなんだろうか。


「それにしてもさっきからずっと気になっていたんですが、見たことのない機体ですね? どちらのですか?」

「私のオリジナルよ」

「そうですか。アナタの。立派ですね。しかし民間人が勝手にこんな兵器を作るなんて、世も末ですねぇ」

「組合に登録はしてあるわよ」

「そうですか。興味深いですが今日はやめておきましょうか。目的はこれではないので」

「部長。ありました。新種です」

「こちらもありました。戦闘データと新種の解析データです」

「ではそれらをお預かりしていきます。と言ってもお返しできる保証はないですが。よろしいですね?」

「、、、はい」

「よし。回収しろ」


 俺はそれらが持っていかれるのを、エリカさんと黙って見ていた。

 きっとトーカさんも同じだったのかもしれない。


「では今日はこれで失礼します。また何かありましたらご連絡下さい」


 星川はそう言うとトーカさんのことをもう一度見上げる。


「またお会いしましょう」


 そう言って去っていった。


「はぁ疲れましたね。いったいなんだったんだアレ」

「まぁ予想はしてたけどね」

「良かったんですかエリカさん。ハーピィ、全部持って行かれちゃいましたよ?」

「仕方ないでしょ。彼らも私たち市民のためにやってることだからね。それに実はあそこに私なりのハーピィの対策案を混ぜておいた。これで正規隊が強くなってくれれば私たちの安全も保証されるし。あと、本当に大事なデータは別のところに隠してあるから大丈夫よ。まぁハーピィの身体を持って行かれたのは残念だったけどね。まぁまたトーカに取ってきてもらおうか」

「でもあの星川って男、トーカさんのこと気づいてましたかね?」

「かもしれないわね。あの男、できるかもしれないわね」

「トーカさんもお疲れ様でした。大変でしたね?」


 俺はトーカさんを見上げながら言う。


「あっ、ごめん。あまりにも退屈だったから途中で寝てた」


 俺は呆れて何も言えなかった。


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