遊泳
「トーカ。調子はどうだ?」
『不思議な気分。でも問題ないわ』
エリカさんが端末に話しかけると、トーカさんの返事があった。
それと同時に輸送船の目の前をトーカさんの機体が横切っていく。
トーカさんの機体というか、今はトーカさんそのものなのだが。
トーカさんの宇宙空間での動きがみたいということで、俺たちは輸送船で外へとやって来ていた。
現在船内には俺の他にエリカさんとアイラさんがいる。
アイラさんはトーカさんの機体の調整を手伝いたいとついてきてくれた。彼女もトーカさんのことが心配なのだ。
「流石だね、彼女は。もう使いこなしてる」
「やっぱりそんなに難しいものなんですか?」
「それはそうだろう。さっきガーデン内で行ったような手足を動かしたり歩いたりというのは元の身体でもやっていたことだけど、宇宙空間で背中からスラスター吹かせて飛行するなんてのは人間にはありえない感覚だからね。それを自分の考えだけで動かす。そう簡単に出来ることじゃないよ」
「なるほど」
確かにそう考えたらすごい気がする。
「それにあの機体は、ベースこそギャラクシオのモノだがその他の部分はエムズからできている。機体の9割がエムズなんだ」
俺もそれを初めて聞いたときめちゃくちゃ驚いた。エリカさんが集めていたエムズの残骸で作られた機体。それが今トーカさんの身体となって宙を舞っている。まったく想像していなかった。
「エムズの残骸の再利用はすでに全世界で行われているが、まだまだ研究段階だからね。でもそのデータや論文なんかを読んでいて、もしかしたら従来の操縦システムとはまったく別のアプローチが可能ではないかと考えてはいた。ただ、機体自身をアンドロイドのように人の身体にしてこんなにも上手く行くとは思ってなかったよ」
「そんな可能性の話だけでトーカさんを?」
「でも彼女を死なせない方法は、あの時これしかなかっただろ?」
「まぁ、そうかもしれませんけど」
「でもこれだけ動かせるのは、エムズの未知なる性能によるものなのか。それともトーカ自身の実力によるものなのかはわからないけどね」
「流石は灯火トーカと言ったところか」
「アイラさん、それなんです?」
「アイツの名前の由来だよ。他のエムズハンターがエムズ狩りに行ったら、いつもエムズの残骸だけが宇宙空間に漂っていて、その中心にボゥと赤く光るアイツの機体があったって。ようは機体の位置を暗い宇宙空間で示す発光信号の部分にエムズの体液が掛かって滲んで光っていただけだったんだけど、それを赤く灯した灯火の様だって言った奴がいてね。それからトーカと名乗るようになったんだ。まぁそれだけ昔からアイツは強かったってことだね」
「へぇ、なんかカッコイイですね?」
「そうか? それよりアンタのタッドってタッドポールからきてるんだろ?」
「えっ? そうみたいですけど」
「タッドって少年って意味の他に少ないって意味もあるって知ってたか?」
「まぁ、そうですね。なんですか? アイラさんも俺が未熟者って言いたいんですか?」
「違うよ。アンタのポールもタッドなのか確認させてみろって言ってんの」
「ちょっと、なんでそれで股を触ろうとするんですか!」
「トーカのやつはそれでアンタにそんなあだ名を付けたんだろ? トーカが見たなら私も
見てもいいだろ?」
「どういう理屈ですかそれ。それにトーカさんに見られてませんよ別に」
「そうなのか?」
『ちょっとアンタたち。今度はなにやってんの?』
「アンタの相棒の健康状態をチェックしてやろうとしていただけさ。気にせず続けてくれトーカ」
「相棒って、どの棒をチェックしようとしてるんだか」
エリカさんも呆れたようにつぶやく。
というか、無視しないで止めてほしい。
「というかトーカ。そろそろ切り上げて戻っておいで。疲れただろ?」
エリカさんの問いに、トーカさんは1拍置いてから返事をした。
『ちょっと待って。なんだ? この感覚』
「どうしたトーカ? 何かあったか?」
『わからないが、何かを感じる』
「エリカ、トーカに何かあったのか?」
「いや今のところ、こちらでは異常は確認できない」
『違う。異常とかじゃない。何かが来る?』
「どういうことだよエリカ」
「待ってくれアイラ。私にもわからないが、トーカが何かを感じ取っている。エムズの身体と反応しているのか。今調べたけど、近くでエムズと正規隊との戦闘があったみたいだ。この輸送船のシステムでは気がつかなかった。他のハンターたちの裏の情報網にチラホラ出ている」
『試してみるか』
「トーカ危険だ。今日が初めてなんだぞ?」
『大丈夫だ。燃料もまだある。それに戦闘データも必要だろ?』
「まぁそうだが」
『それに、連中が残飯処理をこっちに言ってこなかったってのも気になる。何か隠しているのかも』
「トーカ。死んだらタッドは私が貰うから。心配すんな」
『アイラ、どんな励まし方だよ。というか人質にもなってないぞソレ』
そう言うと、トーカさんの機体は一気に加速しすぐに見えなくなった。
「まったく、あれを作るのにどれだけの時間と費用がかかったと思ってるんだ」
エリカさんのボヤキを聞きながら、俺も船体をトーカさんの消えていった方向に進めた。




