第九話:再会
それから何事もなく学校の門を潜ると、そこにはいつもの風景があった。
登校してくる生徒の服装などを目視で確認する風紀委員・・・。
そこに何故いるのかもわからない体育教師。
ここまで細かい世界の設定をした覚えはない。
でも少しでもあのままを再現してくれたのならありがたい。
愛華はいつも通りに服装の検査を受け校内へと入っていく。
どうやら校内にもカイナの目の監視は行き届いているようだ。
校庭にも敷地内にも校舎内にも一定数散りばめられていた。
これほどの数の目の管理はどうやって行っているのだろうか?
カイナとは一体この世界の何者なのか?
城には近づくなと言われたけどカイナには一度会ってみたい・・・。
なんてことを考えていると愛華は自分の教室へと辿り着いた。
「あ!愛華じゃんおはよー!」
「ねぇねぇ昨日のあの人のメイク動画観た!?」
「そんなことよりさ、今日の給食カレーだぜ?!」
一瞬にして自分の周りに人が群がる。
これもまた、ずっと妄想してはあり得ないことだと否定し続けてきた夢。
こんな風に私も輪に入ってみたかった・・・。
自分で作ったとはいえ、叶ったんだなあ・・・。
愛華はこの瞬間を精一杯楽しんだ。
失った時間をここで全て取り戻すんだとでも言うように。
無論教室にも四隅にカイナの目は存在していた。
これもまた、監視なんだろう。
でもそんなことはどうでもよかった!だって楽しいもん!
そうしてしばらく時間が過ぎたころ、クラスメイト達との談笑も落ち着き皆が席に着く。
先生も間もなく教室に入ってくる頃だろう。
教室内での愛華の席は後方、前方の席を見つめた時ある“異常”に気が付いた。
「え・・・・あの席ってあの人って・・・・。」
記憶が甦る・・・。
ーーー旧世界ーーー数か月前ーーー
「みんなには落ち着いて聞いて欲しいんだが、昨夜・・・佐久間翔一が事故で亡くなったそうだ」
それは愛華のクラスメイトだった。
一気に教室内がざわめきパニックになり泣き出す子どもまで現れる。
当然ながら愛華との接点は全くなかったがクラス内では人気の人物だった。
お調子者でクラスのムードメーカー、そんな人だったーーーーーーー
脳裏を駆け巡った記憶からしても間違いなく死んだのは彼だ。
「もしかしてこの世界では亡くなってないってことなのかな・・・?」
少し驚きはしたもののここは異世界、そんなこともあるのだろうと思った。
ガラララ!勢いよく教員用出入り口の戸が開くと名簿を持った先生が入って来る。
「よぉし、学活を始めるぞぉ~~~!」
そうして朝礼や朝の読書など一連の流れを済ませ何事もなく授業へと移っていく。
「(この世界の違和感も慣れるまでの辛抱なのかな・・・。)」
カイナ、監視の目、人間じゃない人々・・・死んだはずのクラスメイト・・・
気になることは山ほどあったが考えていても仕方がない。
この世界で望月の名を捨てて“新しく生まれ変わった私”は幸せになるんだ!
そう心に誓った。
それから授業を終え、次の時間は音楽ということで音楽室へと移動になった。
教科書やリコーダー・・・教室に忘れ物がないように持っていくものを確認しながら準備を進める愛華。
「愛華置いてくよ~?」
「長嶋担任すぐキレるから早くしてよ。」
急かされ荷物を一気に抱え廊下で自分を待ってるクラスメイトの下へと急ぐ。
教室を飛び出そうというその時だった。
「なぁ、お前NPCじゃないよな?泉愛華・・・いや、望月愛華。」
手に持った荷物が全て床に散乱した・・・・。