第五話:さようなら
翌朝、愛華は昨日のことがあったために更に警備が厳重な部屋へと移されていた。
そして目の前で厳四郎は直接愛華を問い詰める。
「昨日お前の現れた者はお前の知り合いか?どうやって中に入らせた?」
「・・・・・分かりません・・・おじい様どうかもう・・・。」
納得のいかない答えに苛立ちを隠せない。
「貴様・・・なぜ何も言わぬ・・・!?」
愛華は本来こんなことをしているべきではなかった。
“自称妖精の言葉の意味を本気で考えたい”それだけ。
“幸せの世界”
“一切の悲しみや苦しもない世界”
いったいどんな場所なのだろうか?
望月家という業を背負っても幸せになれるというのか?
「しかし・・・昨日見た力は本物だった。あの力の他にも別の力もあるとしたら・・・?」
「愛華貴様何を訳の分からないことを・・・!?」
「こんなクソみたいな家から出るにはこうするしかないのかもね・・・」
「聞いているのか!?おい!!」
苛立つ厳四郎に胸ぐらを激しく掴まれながらもこの時、はっきりと愛華の中で決意が固まった。
「おじい様・・・申し訳ありません、私を望月家から除名してください。」
笑顔ではっきりと言い放った。
「な・・・なに・・・?」
「望月家でこれからしっかりやれるのは私よりも頭がよく立派な弟陸斗です。」
「ここを出るのか?中学生のお前みたいな小娘がここを出てどうするつもりだ?」
「分かりません、分かりませんが・・・とりあえずもうこんなクソみたいな環境に疲れたんです。」
「そうか・・・大きくなったな愛華・・・じゃあここで今すぐ楽にしてやる。」
厳四郎がパンパンッと二回手を叩くとまた大勢の人間が現れ愛華を囲う。
「どれ・・・お前にもう逃げ場はないぞ・・・どうする?怖いだろう撤回するなら今のうちだ。」
「・・・・・。」
このままでは幸せの世界に行くどころか死は確実・・・愛華は考える。
「(・・・あの人いつ来るの!?このままじゃ確実に殺される・・・!でも・・・!!)」
命乞いをするか?それとも?精一杯考えて導き出した言葉は・・・
「うるせぇじじい、こんな家もろ共とっととくたばりやがれバァカ!」
使ったことも許されたこともない汚い言葉。
それでも言ってやった、私は強い!そう思えた。
「・・・・殺す。」
厳四郎は胸からナイフを取り出すと切っ先を愛華に向け走り出す。
後悔はない、これでよかった・・・。
まさに愛華にそのナイフが突き刺さろうというその瞬間、厳四郎はぴたりと動きが止まった。
「な、なに!?動かないだと・・・!!」
「いやいや愛華ちゃんよく頑張ったね、そして君の覚悟を見届けました。」
まるで最初からずっとそこにいたように自称妖精は話し出す。
「貴様は昨日の・・・!」
「望月厳四郎ね・・・ふむ、君は家を守りたいが為にさすがにやり過ぎてしまったようだね。」
「おい!この男も殺せ!」
厳四郎の言葉で一斉に望月の精鋭達が襲い掛かった。
「やれやれ懲りないねぇ・・・人間風情がこの私と渡り合えるとなど努々思うな。」
刹那・・・何が起こったかも分からないほどの速さで精鋭達は全員吹き飛ぶ。
「な・・・何が起こった・・・?!」
「本日限りでこの望月愛華は私が新たな世界へと導く、異論があるものは?」
「く・・・くそ・・・医者になる大切な私の駒が・・・!」
バキィ!!
「ぎゃああああああああ!!」
突如不思議な力で腕を折られた厳四郎・・・。
「それじゃ、愛華ちゃん行こうか・・・。」
「はい、おじい様それから望月家に仕えた皆様、本当にお世話になりました。」
自称妖精が虚空に手をかざすとそこに暗い渦が現れやがてそれは大きな別空間への扉となった。
「ここを一度通ればもう二度とこの世界の土は踏めないよ、覚悟は決まったかい?」
「はい、もちろんです。」
愛華は何の躊躇いもなく、扉を開ける。
そしてゆっくりと中へ入っていった・・・・。