第三話:当主
それから程なくして保健室に何者かが現れる。
「愛華様・・・お加減はいかがでしょうか・・・?」
カーテンの外からの声がすぐに誰であるかを察知した愛華。
「・・・随分手回しが早いのね、浩介さん。」
彼の名は三島浩介、望月家の執事の一人である。
「今回の報告を受け、望月家の皆様は大変動揺し心配しておられます・・・。」
「・・・じゃあ何で誰一人としてここには来ていないの?」
「そ、それは・・・!皆様とても忙しい方々ですからこうして私が代理で・・・!」
「あはは、ごめんなさい冗談です今のはいじわるでした。」
愛華が笑うと浩介はホッとしたように胸を撫で下ろす。
「私はこのままここから家に連れ戻されるの?」
その問いに手帳のようなものを開き確認する浩介。
「当主から《お前に話がある。戻り次第私の部屋まで来るように》とのことです。」
「待って、今回の件はどこまで?」
「恐らく・・・・全てかと・・・。」
「そう・・・。」
それからすぐに望月家所有の送迎車の後部座席に乗り込んだ愛華はすぐに浩介の運転で帰路につき、
車内では何一つ話すこともなく沈んだ顔でじっと外を眺めていた・・・。
数十分の時間が経過したころ、何事もなく望月家に帰った愛華はすぐに望月家当主“望月厳四郎”の部屋へ。
コンコン・・・
ノックをすると中から低く怒りを見せるような声で「入れ」との指示が。
「愛華です、失礼します・・・」
中に入ると大きなソファーに座ることを許可され愛華は腰を掛ける。
「おじい様・・・この度は本当に申し訳ございま・・・」
愛華が謝罪を述べようとした瞬間、厳四郎が言葉を切り裂くように割って入る。
「何の謝罪かね?自らの愚かな奇行についてか・・・それともまだ他に?」
「それ・・・・は・・・・」
自分を突き刺すような視線に身体が硬直する愛華。
「形だけの謝罪など何の力もない、無意味なものだとそう思わないか?」
そこにいるだけでとてつもない重圧を感じる。
「望月家は常に完璧でなくてはならないのだ・・・その点陸斗は上手いことやってる・・・。
お前も今日までは完璧だった、それがいったいどうしたのか、説明してくれるかね。
お前の担任の先生からの報告では・・・お前が巨大な蝶を見たと言っていたと言っていたと・・・。」
「はい、校庭にそれを見たのです・・・普通では考えられないほどの大きさの・・・!」
「愛華貴様私をバカにしているのか!?」
バンッッ!勢いよく机を叩く厳四郎。
大きな音に驚いた愛華は恐怖でソファーの上で涙をこぼす。
「いいか、お前が見たのは幻覚だそんなものは存在しない!」
「はい・・・申し訳・・・」
愛華が一瞬顔をあげたその時、厳四郎の真後ろ“そこにそいつはいた”
「あ・・・あの時の・・・蝶・・・」
あの時見た輝きを保ったままひらひらと飛んでいる蝶。
「おじい様・・・いました・・・この蝶です・・・!」
指差し厳四郎に見せようとする愛華。
「チッ・・・この子は頭が完全に・・・」
「おじい様見てください美しいです・・・。」
「愛華、これよりお前を医療棟に隔離することとする・・・!おい!!」
厳四郎のパンパンッという二度の手拍で駆けつける執事達。
「お前ら、この子の精神治療に当たれ、完治するまでは医療棟から出すな、以上だ。」
『はい!』
愛華はそのまま運ばれ隔離されることとなってしまった・・・。