第二話:不思議との出会い
同日 11:23
午前の授業も後半に差し掛かった。
愛華の6年生の教室は校舎3階。
窓からは校庭だけに留まらず住んでいる町や海までもが一望できる最高の教室だ。
授業中、先生の目を盗んで外を見て色んな想像をすることも愛華の楽しみの一つであった。
「この問題を解ける人はいるか?誰か・・・そうだな、望月どうだ?」
先生の言葉で愛華は静かに立ち上がるとゆっくりと黒板に向かった。
悩む様子もなく慣れた手つきでカカカッと黒板に答えを書く。
「さすが望月だな、完璧な答えだ!てか何なら俺より字が綺麗だ・・・よし席に戻っていいぞ。」
小さく「はい」とだけ答えると愛華は静かに席へと戻ろうと歩き出した。
「へっ、ほんとに頭だけはいいよなあ・・・」
「“望月様”には小6の問題なんて簡単すぎるんじゃないか~?」
「ちょっときこえるってやめなよ!」
「聞こえたところで何も言って来やしないだろ?」
他の席を通り過ぎるとき、小声で数名が愛華の悪口を言っているのが耳に入った。
こんなことも、いつものことだ。だから気にする必要もない、慣れっこだ。
席に着いた愛華がふぅっと一息をついて座ろうとすると窓の外が目に入る。
何も変わらない光景なのに何故か強い“違和感”を覚えた。
愛華は自分の席の前で立ったまま動けなくなってしまう。
「望月、どうかしたのか?座りなさい。」
先生の声も今の愛華には届いていなかった。
何か、何かがおかしい・・・。
必死に周囲を見渡し元凶を探る。
「せんせー望月さんが座りませーん」
「望月さん?どうしたの?授業中だよ座ろう?」
教室中がざわざわと騒ぎ出す。
「(・・・・・・・・!!)」
愛華は何かに気が付くと身体が走り出していた。
勢いよく教室を飛び出す。
「な、なにあれ!?」
「勉強のしすぎで頭おかしくなったんじゃね?」
「でもヤバくない?めっちゃ怖いんだけど望月さん」
「と、とにかく先生は望月のところに行ってくる!お前らは自習!!」
先生も教室を飛び出した。
廊下を抜け階段を駆け下り愛華は靴も履かずに校庭に飛び出していた。
「(何か・・・何かがいる・・・!あんなの見たことない・・・!!)」
教室で“それ”を見た場所を頼りに愛華は校庭の隅にあるジャングルジムまで来た。
足の裏が痛い、息も上がっている。しかしそんなことはどうでもいい!
辺りをゆっくりと調べながら歩く。
「確かに・・・ハァ・・・さっきは・・・ここ・・・に・・・!」
呼吸を整えながら期待に弾む鼓動を何とか抑えようと胸をトントンと叩く愛華。
「望月愛華ーーーーーーーーーーーー!!」
すると、そこに先生も全速力でやってきた。
「ハァハァ・・・おま・・・どうし・・・ゼヒューゼヒュー・・・もう、無理・・・」
先生はその場に座り込む。
「・・・先生申し訳ありません、この件は望月にご報告して頂いて構いません、処罰は受けます。」
先生はポリポリと頭を掻くとゆっくりと話し出す。
「んなこたどうだっていい、しかしどうしたんだ望月・・・こんなこと初めてじゃないか・・・。」
「そうかも知れませんね、でも抑えられないものを見てしまいました。」
先生は愛華の目をじっと見つめる。
「何を見た?」
「蝶のようなものを・・・しかし、あまりに巨大で神々しく輝いていたので・・・本当に蝶かは・・・。」
「それで?ここに来てそいつは?」
「ここに来た時にはもういませんでした・・・見間違いだったのかも知れません・・・。」
「そうか・・・じゃあとりあえず一旦中に戻るぞ・・・つっても騒ぎになりそうだから・・・」
その後、愛華は先生に保健室へと誘導された。
「今日はここで過ごしなさい、保険の先生には言ってあるから。」
病人でもないのに保健室のベッドでカーテンを閉めて横になる。
こんなこともまた初めての経験だった。
足の裏はまだ痛い、石でも踏んだのだろうか・・・。
それでも、その痛みがさっき起きた不思議な体験の証明だった。
果たして、愛華が見た巨大な神々しく輝く蝶のようなものは一体何だったのか?
そして望月家に帰った愛華を待ち受けるものは!?
運命の歯車は今・・・虹色に光り出す・・・。