彼の背中④魔王
陽光も届かず星月も輝きを失う程に
厚い層を成す暗雲が立ち籠め
周囲に野茨が跋扈する堅牢な古城に
稲妻を伴う雷鳴が轟き渡る
切っても切っても再生する蔦を掻い潜り
緑や紫の肌をした羅刹共を打ち倒し
飛び出す針や抜け落ちる床底を躱し続け
目も眩む金銀財宝にも惑わされず
幾多の罠をクリアした最奥部に
その魔王は待ち構えている
それはパーティに裏切られて闇に呑まれた
かつての勇者の成れの果てだ
白き勇者を黒き魔王に染めたのは
知識を過信して呪文を誤った僧侶と
武勇に依存して戦略を無視した戦士と
信頼を逆手に取って逃亡した盗賊だった
希望を失った勇者は瘴気に蝕まれ
頭から禍々しき二本の角が生え
腰から忌々しき投げ槍状の尾が伸び
耳も歯も爪も鋭利なものへと変化した
元勇者だった魔王は懊悩している
魔王が救われるのはいつなのか
魔王を助けられるのは誰なのか
どうすれば魔王を浄化できるのか
闇に堕ちた存在を人間に戻す方法とは
その答えを知る者は――