2 仲良く遊ぼう善人アプリ
2 仲良く遊ぼう善人アプリ
「タケチャン73点。まあ、中というところかな」
「いったい急になんだよ。人の顔を73点なんて。もしかして、イケンメン度を測ってるの」
「バカ言ってんじゃないよ。タケチャンが73点のイケメンであるわけないじゃん。まあ、よくて55点だな」
「ほっとけ。それなら今の73点ってなんだよ」
「知らないの」
「私も知らない」
「おれも」
「みんな知らないんだ、善人アプリのこと」
「あっ、おれ、それ聞いたことがある」
「私、知らない」
「顔にスマホをかざすと、その人の善人度が表示されるんだ。おれも昨日インストールして、今日の飲み会で試そうと思ったんだ」
「73点っていいの」
「80点以上ってなかなか出ないそうだから、73点はいいんじゃないかな」
「じゃあ、おれは」
「70点」
「そこそこじゃないの」
「ひどいな、そこそこだなんて」
「次は私ね」
「71点」
「キミオ君には勝ったね」
「おい、おい。たった1点だろ」
「たった1点でも勝ったのは間違いないでしょ。私の方が善人なんだ。はい、お酒を注いで頂戴」
「なんだ、その勝ち誇った態度。そんなことする善人はいないだろう」
「まあまあ、いいから。次は誰」
「私はいやだから。私を写さないでよ」
「別に写真をとるわけじゃないんだから」
「それじゃ、おれ」
「64点」
「えっ、70点いかないの。ちょっと、低すぎない。もう一度測ってよ」
「はい、64点でした」
「どうして。おれ、善人だよね。ね、ね、みんな」
「おまえ、この前酔って立ちしょんしたよな」
「えっ、それって最低」
「いや、いや。我慢できなかったから。工事現場の隅じゃない。勘弁してよ。そんなこと、ここでばらさなくってもいいじゃない」
「はい、はい。次」
「ああ、いきなりはなしよ。髪を直してから」
「いいじゃん、そんなの。そもそも髪を直したからって点数上がらないって」
「74点。これまでの最高点」
「でしょう。わたしこう見えても善人なのよ」
「機械の誤作動じゃないの」
「失礼な。そんなことないわよ。では、もう一度試してみてよ」
「ほらほら、74点でしょ。今度は口紅を直してみるね」
「今度も74点。口紅くらいじゃ変わらないんだ。じゃあ、にっこり笑ってみて」
「こう」
「もう少しにんまりと。そうそう、いいんじゃない。74点」
「全然変わらないじゃない。それならしかめっ面でどう」
「これでいいの。早く撮ってよ。恥ずかしいじゃない」
「おまえにしかめっ面は似合わないよ」
「茶々入れないでよ」
「これで73点。1点減っただけだよ。表情でほとんど変わらないんだ。面白くもあり、面白くもなしだな。まあ、表情で善人度が変わるのもおかしいけどな」
「えっ、77点」
「誰だよ。えっ、ノボル、そんなに善人なの。本当かよ」
「本当かは、ないだろう。でも、おれが77点なの。最高点だよ。万歳」
「もう一度測るよ。しっかりこっちを向いて。そんなにかしこまらなくていいから。やっぱり77点だ。ムツコは74点で変わりはないし」
「おれ善人なんだ。いままで誰にも言われたことないけど、おれ善人だよ。ちょっと席変わってよ。点数の高いものの順番に並ぼうよ。おれ上座ね」
「おい、調子に乗んなよ。そもそも善人がそんなこと言わないだろう」
「いいじゃないか、今日くらいは」
「だけど、ノボルの顔のどこが善人なんだろう。おまえこれまでいいことしたことあるか」
「知らないの、おれ大学時代ボランティアサークルに入っていたこと」
「幽霊部員だろう。いったい何回ボランティアに参加したんだよ」
「2回かな、いや3回はしたよ」
「そうだろう。年に一回程度じゃん。そもそもおまえがサークルに入ったのは、先輩に勧誘されたからだろう。就職に有利になるからって」
「あっ、打算的だな。全然善人じゃないじゃん」
「そんなこと、ばらさなくったっていいだろう。いずれにしても、おれはこのアプリから、客観的に善人だというお墨付きをもらったんだからね。この客観的というところが大事だからね」
「お調子者だね。もしかして、これは善人アプリじゃなくて、お調子者アプリじゃないの」
「なんとでも言ってくれよ。おれは善人なんだよ」
「わかった、わかった。そうむきになるなよ。これはお遊びなんだから、深くは考えないで、楽しまないと」
「じゃあ、持ってきたサトルはどうなんだよ。おれに貸してみろよ」
「79点。おまえ、自分が79点だから、今日持って来たんだな」
「あったりまえだよ。70点以下なら持ってくるわけないじゃない。おれ、凄いでしょう。尊敬する、尊敬する」
「やっぱり、おまえたちのようなお調子者が点数高いんじゃないの。これは善人アプリというよりもお調子者アプリじゃないか。絶対そうだよ」
「あっ、失敬な。じゃあ、我々の誰もが善人だと認めるチカコさんで試してみよう」
「そうだ、そうだ。チカコさんなら間違いないよ」
「私、いやよ」
「出た。80点越えだよ。すげえ。82点だ」
「さすがだね」
「そうだろう。信頼性あるだろう」
「はい、はい、わかりました。今日のところは認めましょう。でも、このアプリ厳しいよな。チカコで82点だよ。チカコに腹黒いところ何一つないものな。他人の心配をしてくれるし、分け隔てなく面倒をみてくれるし。おれならチカコ様に95点をつけちゃうね」
「そうだ、そうだ」
「それにしても、90点以上の奴なんてこの世にいるのかね」
「いるんじゃないの。天使みたいな人が。どこかに」
「ネットで検索したんだけど、98点や99点の人がいるらしいわよ。誰も顔を出していないけどね」
「それ全部ガセだよ。ネットなんて信じられないよ。みんな目立ちたくって、いい加減なこと言ってるだけだよ。善人が自分の高得点を自慢するはずがないもの。もっと慎ましいんじゃないの」
「そりゃあ、そうだな。自分から善人ですという奴に、ろくな奴はいないよな」
「そうだ、そうだ。ここにも自分から善人です、って言っている奴いるけどな」
「ほっとけ」
「100点満点の善人なんてこの世に存在するのかね」
「そんなのいるわけないじゃない。100点満点の人間はこの世に生きていけないよ」
「そりゃ、そうだ。70点から80点くらいが、人間らしくていいのかもね。でも、70点以下の奴もいたし」
「何を言っているんだ。64点じゃないか。こんなのただのおもちゃじゃないか。こんな点数信じられないって」
「いや、この70点台と60点台じゃ、きっと決定的な違いがあるね。ここに善人と悪人の境があったりして」
「えっ、おれが悪人だと言うのか。じゃあ、今日は飲み代を払わないでドロンするぞ」
「ちょっと、そうまじになるなって。冗談だよ、冗談。冗談が通じないから64点じゃないのか。いや、冗談だって。悪かった、悪かった」
「今日は、善人のおごりということでどうだ」
「そこは悪人でしょう」
「だから、悪人じゃないって」
「提案があります。80点以下の人はみんなまとめて凡人ってことでどうでしょう」
「賛成」
「賛成」
「賛成。凡人の方が生きやすいし」
「では、おれたち凡人に乾杯」
「では、善人様は上座にお座りください。今夜は善人様を肴にとことん飲みましょう」
「あっ、いちおう点数の順番だからね」
「えっ」
つづく