1-4 善人アプリの開発
1-4 善人アプリの開発
「きみの善人度は30点」
「えっ、いくらなんでもそれはひどいだろう。おれそんなに悪いことしてないよ。ちょっとひどいな。おまえ、おれに何か恨みがあるの? おれ、おまえに悪いことした覚えないけど」
「これはぼくが出した点じゃなくて、善人アプリが出した点だから。そこのところわかってよね」
「もともとはおまえだろ」
「もう、ぼくの手から離れてるんだから」
「それにしてもおれ悪いことしてないぞ」
「悪いことしたかどうかは判定していないから。ただ時代劇に出演するなら、悪役が似合ってるっていうことだね」
「悪役はいやだ。良い役がいい。
とにかく、おれが30点っていうことはないだろう。不愉快だな。すると、おまえは何点なんだよ」
「55点」
「ああ、いいな。50点超えて。おまえは確かに少し善人顔だよ。それは認めるよ。でも、30点とか55点とか低かったら、面白くないよ。もう少しおれたちの点数上げようぜ。できるだろう?」
「そりゃあ、できるけど。きみは何点くらいがいいの」
「75点くらいかな。おれの顔、そんなに好感度がないことくらい自分でもわかっているよ。でも、平均点以下は辛いよな。外歩けなくなっちゃうぜ」
「それは大げさだけど。
平均点か。そう言えば、平均点をどのくらいにするかが肝心だったね。現在の平均点はっと、47点になっているんだ」
「おい、おい、平均点が47点はいくらなんでも低すぎるだろう。平均点はおまけして70点くらいでいいんじゃないか。やっぱりみんなに気持ちよく使って欲しいものな」
「じゃ、平均点が70点ということに設定しよう。日本はちょびちょび善人社会というのもいいね。平均点は70点に決まり。
それじゃ、きみの顔は75点にフィクスしておくよ」
「フィクスってなによ」
「75点から動かないことだよ。これからはどのスマホから測っても、きみは75点だ」
「ありがとうございます」
「別に礼を言われる筋合いはないけど」
「ついつい口から出てしまったよ。それにしても、自分で言い出してなんだけど、おれ平均点以上でいいのかな?」
「小さいこと言いっこなしだよ。ビッグデータだから。きみがいい奴なのは、ぼくが一番知っているから。引け目を感じることはないよ」
「じゃ、おまえは。おっ、ぐんと上がって、88点か。凄いじゃないか」
「えっ、88点。少しおかしいな」
「何がだよ」
「ぼくは89点に設定したんだよ。フィクスしないと、表情の変化で数点は微妙に触れるようだね。これもリアリティがあっていいか」
「そうだ、そのくらいのブレはいいな」
「それじゃきみの顔もフィクスを解除する」
「いや、いや、フィクスしたままでいいよ。大きくズレたら怖いじゃない」
「じゃ、これからこのデモ機にいろいろな人の写真を見せて、ディープラーニングをさせてデモ機の能力を上げていこう」
「なんだ、そのディープなんとかは」
「ディープラーニング、学習だよ。人の見た目とこのアプリが出す点数のずれを補正していくんだ。時代劇の役者の顔だけじゃあまりにステレオタイプだし、顔が古臭いでしょ」
「そうか、そうだよな。もう少し現代的に設定し直さなきゃな。でも、二人だけで点数を決めて大丈夫かよ。かなり偏っているように思うんだけど」
「善人顔なんて、しょせん主観的なものさ。ぼくたちはいつも見かけで騙されてきたじゃないか。何千人、何万人が見ても客観的で絶対に正しい善人顔なんてありゃあしないよ。そもそも顔だけで善人か悪人か正確に判断できるとしたら怖くないかい。それができたら、職業や地位や、収入までアプリで決まってくるかもしれないんだよ。それはやり過ぎでしょう。これはあくまでゲームなんだから、気楽にやろうよ」
「ついついくだらんところで悩んでしまうな。頭の悪い奴の悪い癖だ」
「きみは頭は悪くないけどね。きみのインスピレーションの鋭いところが、いつも新しいことを始めるきっかけになっているじゃないか。しょせん飛躍のできない論理なんて、すぐにAIにとって代わられるよ」
「だけど、おれはおまえのその論理的な頭のよさがうらやましいけどな」
つづく