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善人アプリ騒動記  作者: 美祢林太郎
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1-3 善人アプリの開発

1-3 善人アプリの開発

 「それじゃ、このアプリできないのか?」

 「いや、あきらめるのは早いよ。ただのゲームなんだから心配いらないよ」

「時代劇には勧善懲悪の完璧な善人と悪人がいるんだけどな。おっ、いいこと思いついた。ビックリデータは使えないの」

 「ビックリデータ? それ何のこと・・・。ああ、ビッグデータのことね。ビッグデータって何かわかってんの?」

 「今はやりのビックリ、ビッグデータだよ。善人と悪人のビッグデータはないの?」

 「そんなのないよ。たしかに何かいいことをして表彰された人のデータは載っているけどね。ちょっとネットを探してみるね」

 「そうだよ。これだよ。これがビッグデータだよ。善人アプリに近づいて来たよ」

 「転んだ老人を助けた。ひったくりを捕まえた。河原の清掃をした。たしかに良いことをした人はいっぱい載っているけど、本当にかれらは善人なの? 一発屋じゃないの。ただのおっちょこちょいじゃないの。偽善者じゃないの。目立ちたがり屋じゃないの。ただのお人よしじゃないの。ぼくたちがイメージしている善人は、きみが思い出したジュン君のように、心の底からいい人じゃないの? 少しイメージが違うと思うけどな」

 「うん、そうだけど。ボランティアをしている人たちは良い人じゃないの」

 「良い人たちかも知れないけど、100点満点の人間であることを保証してはいないよね。彼ら彼女たちを100点満点にしたら、日本人はみんな100点満点になってしまうよ。そんなアプリ面白くないでしょう。小学校の運動会でみんなで手をつないでゴールしたみたいなものだね。愚かさも最たるものだね」

 「みんなが満点なんて何も面白くないし、100点と0点だけのアプリも楽しめないよ。35点、78点、93点があってやっと楽しめるんだ。隣の席の奴が68点で自分が69点で、やっと優越感を覚えるんじゃないか」

「そうだよね。そんなことで優越感を覚えるなんて、これはこれでくだらなさすぎるけど、こっちの方が人間っぽいね。

細かい点数が出るアプリを作ろう。100点なんてどうでもいいことなんだ。神様の性格を言い当てたからといって、ぼくたち人間のことはわからないしさ。ぼくたちの姿かたちは神様の姿を似せて造られたかもしれないけれど、性格は似姿じゃないかもしれないからね」

「かっこいいことを言うな。でも、こんなところで躓いていたら、アプリはできないんじゃない」

 「いや、絶対に作るよ。そんなにすぐにあきらめなくていいよ。100点にこだわらなければいいんだ。・・・・・分かった。さっき、きみが言った時代劇、そこにヒントがあったんだ」

 「いったい何のことだよ」

 「水戸黄門だよ。そうだ、その手があったんだ」

 「だから何なんだよ」

 「勧善懲悪ものは、善人と悪人がはっきりと分かれていてわかりやすいじゃない。だから、時代劇に出てきた良い人間を善人とし、悪役を悪人とするんだよ」

 「えっ、時代劇はあくまで劇だぜ。悪役をやっている人はただ役の上だけで悪人をやってるんで、決して悪い人じゃないよ。よく言うじゃないか。悪役ほど本当はいい人で、良い役ほど普段は悪い人だと」

 「そんなのどうでもいいじゃない。テレビで見て、悪役を見たらみんな悪い人だと思っているじゃない。納得しやすいんだよ。ステレオタイプだよ。これで行こう」

 「いくらなんでも、ちょっと乱暴じゃないのか。もう少し丁寧に事を進めた方がいいんじゃないか」

 「いや、別に善人アプリで犯人を捕まえようとしているわけじゃないんだから。酒の席での余興なんだから。現実とゲームの世界をはき違えたら困るよ。それに善人アプリは科学の世界の話じゃないんだから。信憑性なんてどうでもいいの。どれだけまことしやかであるか、ということが大事なんだ。善人面、悪人面はテレビが作っているんだ」

 「まあ、そう言われるとそう思えてくるけど。じゃあ、水戸黄門の良い役と悪役をピックアップするんだな。だけど、同じ役者が何回も出てくるからな」

 「サンプル数が少ないね。よし、必殺仕事人のシリーズも押さえておこう。これも悪役がはっきりしているからね」

 「善人と悪人は見えてきたけど、おれたちのような50点から60点の中間層はどうするんだよ」

 「そんなのホームドラマの役者の顔を並べておけばいいんだよ」

 「えっ、それじゃ全然ビックリデータじゃないじゃないか」

 「アプリが完成したら、ビッグデータからだと言い張ればいいんだ。みんなそうしているよ。素人さんたちはビッグデータと聞いただけで煙に巻かれて、有り難がるからね。ビッグデータと言ってブラックボックスにしておけばいいのさ」

 「あっけらかんと言うけど、おまえが一番の悪じゃないのか」

 「別に銀行や警察、自衛隊から頼まれているんじゃないからさ。あくまでゲームなんだから。どれだけみんなが楽しめるかが大事なんだよ。割り切らなくっちゃあ。そうじゃない?」

 「いや、その通りだけど」

 「とにかく、いろいろな役者の顔を取り込んで、目の細さや、両目の間隔、口の大きさや、唇の厚さ、唇の色、まつ毛の長さ、眉毛の濃さ、頬骨の高さ、えらの張り方、髪型など、顔のパーツとパターンを手当たり次第に数値化して、なにが善人のパラメーターになるかを調べてみるよ」

 「とにかく、そこらはまったくわからないから任せるよ。そう言えば、おれたち男ばかり想定していて、女のことを考えてなかったんじゃないか」

 「そこのところも、男と女を区別した方がいいのか、それとも一緒にできるのかやってみるよ。一度作ってみるから、それから試してみて、修正を加えていくことにしよう」

 「デモ機はいつ頃にできるんだ」

 「一人でデータ入力しなければならないから、10日後、いや1週間後にはできるようにするよ。いまは夏休みだし。他にやることはないしね」

 「えっ、そんなに早くできるの。おれ何か手伝うことないの。おまえに一人でやらせては申し訳ないよ」

 「いや、そんなことはないよ。一人の方が早いと思うし。もし何かあったら、その時は応援頼むよ」

 「金がいるようなことはないのかよ」

 「フリーソフトがあるから大丈夫だよ。この夏、楽しい夏になってきたね。善人アプリ、きっと面白いことになるよ」


                                         つづく

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