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1-2 善人アプリの開発

1-2 善人アプリの開発

 「おれ、善人って言葉を聞いたら、ジュン君のことが一番先に頭に浮かんだんだ。うん、ジュン君は正真正銘の善人だ」

 「藪から棒に何? いったいジュン君って誰なの?」

 「小学校の時に同じクラスだったジュン君だよ」

 「きみとは小学校が違うんだから、そんな人知らないよ」

 「そりゃあそうだけど、ジュン君は友達が怪我をしたらすぐに駆けつけ心配してくれたんだ。クラスの奴がいじめられたら一人で守ってやったんだ。勇気のある良い奴だったんだ。おまえのクラスにもそんな奴いなかったか」

 「多分いたんだろうけど、覚えてないよ。ジュン君の写真持っているの?」

 「卒業写真に入っているよ。いや、ジュン君は6年生の夏にどこかに転校していったから、卒業写真には入っていないかな」

 「じゃあ、ネットで検索してみるね。フルネームを覚えてる?」

 「タカハタジュンジって言ってたな。勉強もスポーツも特別できるわけではなかったけれど、本当にやさしい奴だったんだ。クラスのみんなも善人って聞いたら、こいつの顔を想い浮かべると思うよ。いや、そんなことないか。みんな、ジュン君のことすっかり忘れているかもしれない。本当は目立たなかったものな。おれだけ思い入れが強いのかもしれない。

おれ、小学校6年生の時、他のクラスの奴らに校舎の裏に呼び出されたんだ。相手は5人くらいいたかな。おれが生意気だって。確かに生意気だったけどね。おれ、連中に囲まれてさんざん殴られたよ。クラスの連中おれが呼び出されたことを知っていたのに、みんな見て見ぬふりよ。誰も助けに来てくれないの。自業自得だけどね。おれが倒れてみんなに蹴られているところに颯爽と登場したのが、ジュン君なんだ。おれたちそれまでは決して親しい友達じゃなかったぜ。あいつの存在感薄かったものな。それまでぜんぜん付き合いなかったし、おれ、どこかであいつをからかっていたかもしれない。おれ、みんなにひどいことしていたものな。

おれを助けるために、ジュン君はどこかで棍棒を拾って、振り回していたよ。そのうち、棍棒を取り上げられて、ジュン君もぼこぼこにされたんだ。

おれ嬉しかったんだ。おれあんなに嬉しかったことは、あとにも先にもないよ。翌日ジュン君にお礼を言おうと思っていたんだ。ジュン君とは親友になれると思ったんだ。おれが集めたシールを全部上げようと思ったんだ。かき氷を二人で食べようと思ったんだ。もちろんおれのおごりでだ。でも、次の日、ジュン君に会えなかった。ジュン君はどこかへ転校して行ったんだ。あれからジュン君に会っていない。おれ、まだ助けてもらったお礼を言っていないんだ。あれからジュン君はどうしているんだろう」

「ネットで調べてみようよ」

「普通の奴なんだ。だから、ネットで検索してもヒットしないかもしれないな」

 「この人? この人なの。オレオレ詐欺や傷害で捕まったことがあるよ」

 「えっ、ちょっと見せてよ。確かに面影があるな。でも、こんなに悪い顔していなかったし、こんな悪いことをする奴じゃなかったよ。顔も性格も平々凡々としていたんだから」

 「SNSでいろいろ書かれているけれど、恐喝や暴行など、相当悪いことをしているみたいだよ。まだ若いのに前科6犯なんだって」

 「どこで人生狂っちゃったんだよ。ジュン君は本当にいい奴だったんだから」

 「まあ、人生はそんなものじゃないの」

 「おまえ覚めてるね。たしかに人生はそんなものかもしれないけど、ジュン君はおれを助けてくれた勇気のある奴だったんだから。生まれて死ぬまで変わらず善人で生きている奴はいないのかよ」

 「いないんじゃないの。いたら生きていけないんじゃないの」

 「それでも変わり方にも限度があるんじゃないか。おれにとっては正義の味方だったのに」


                                         つづく


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