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善人アプリ騒動記  作者: 美祢林太郎
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1-1 善人アプリの開発

1-1 善人アプリの開発

 「この小説読んだ?」

 「いや、読んでないけど」

 「この中に面白いことが載っていたんだ」

 「いったい何」

 「善人アプリ」

 「なに、その善人アプリっていうのは」

 「スマホを相手の顔に当てて、善人度を測るというアプリなんだ」

 「そんなアプリあったけ」

 「だから、小説の中に載っているんだって」

 「ということは、そんなアプリはないってことだね」

 「そうだ。だからおれたちで作ろうって言っているんだ。おまえのプログラミングの技術をもってすれば、いとも簡単だろう」

 「急にそんなことを言われても、イメージがわかないよ。そもそもぼくは善人という人種に興味ないし、そんなおもちゃのようなアプリくだらないでしょう。どうしてそんなアプリを作りたいの。善人なんて、きみの趣味でもないと思うけど」

 「わかっているじゃないか、金儲けだよ」

 「えっ、そんなくだらないアプリで儲かると思わないけどね」

 「くだらなさそうなところが、いいんだって。まあ、ちょっとこの小説読んでみてよ。それからまた話をしようぜ」

 「ぼく、本なんか買わないよ。貸してくれるの」

 「いや、フリーのネット小説だから誰でもただで読めるよ。騙されたと思って、一度読んでみてくれよ。とにかくそれからだ。「喜劇友を待つ男」とググればトップに出てくるから」

 「喜劇か・・・」


 「面白いじゃない。これ面白いよ。善人アプリを作ろうよ」

 「そうだろう、面白いだろう。おまえならきっとこの話に乗ってくると思ったよ」

 「相変わらずきみの嗅覚は鋭いね。これまで一度も金儲けに結びついたことはないけどさ」

 「それは言いっこなしだぜ。今回はきっと当たるぜ。相手の顔にスマホをあてれば、即座にそいつの善人度が表示されるんだものな。これを酒の席の余興で使えば、バカ受けすること間違いなしだ。これでおれたちは大金持ちだ。よし、早速天才プログラマーであるおまえの能力を発揮する時だ」

 「それじゃ、善は急げだね。早速始めようじゃない」

 「おれ、おまえも知っているようにプログラミングなんて全然知らないから。これからどういう手順で進めたらいいか、皆目わからないんだ」

 「きみにプログラミングのことなんか、まったく期待していないよ。まずは善人と悪人の定義だよ。あの小説によると、赤ちゃんを善人度100として、死刑囚を1点としたと書いてあったね。無垢な赤ちゃんの顔を100点にするのは、物語としてはそれでいいんだけど、赤ちゃんの顔は大人の顔だちと、まったく骨格や配置パターンが違うから、無理があると思うんだよね」

 「いや、おれもそう思ったんだ。赤ちゃんだって悪い奴はいるぜ。他の赤ちゃんのものを奪い取ったり、泣いて親を恐喝する奴もいる。赤ちゃんっていうだけで許されているんじゃないか。生まれ持って性悪な奴っているよな」

 「まあ、まあ。ぼくは顔の基本的なパターンが、大人と子供では違っていることを言いたいだけなんだけど。まあいいや。それで100点の善人をどのように定義するかということが大切なんだ」

 「いや、いや、100点と言ったら誰もが認めるスーパー善人だろう。それならすぐに思いつくじゃないか」

 「どこにいるんだよ。具体的に教えてくれよ」

 「イエス・キリストなんかどうだ。ブッダだって超善人だろう」

 「イエスやブッダは外国人じゃないか。外国人まで含めると善人のイメージがぼやけてくるだろう。ここは日本人に絞ろうじゃないか。もし日本で成功したら、それから中国版、アメリカ版を作っていこう。中国版は日本版と互換できるかもしれないけどね」

 「おっ、大きく出たね。おまえの言う通りだ。とりあえず日本版をつくろう」

 「日本人の善人と言ったら・・・」

 「うーん、弘法大師なんかどうだい。弘法大師と言えば、ついでに親鸞だ」

 「きみが歴史に詳しいとは知らなかったよ。それに宗教が好きなんだね。だけど、普通、弘法大師と言えば伝教大師でしょう」

 「あっ、そうなの。伝教大師は知らなかったな。でも、親鸞は有名でしょう。おれでも知っているんだから。あの、悪人こそが極楽に行ける、って言った坊さんだろう。こんなこと考える人は飛び切り良い人でしょう」

 「自分が極楽に行きたいんでしょ」

 「いや、そういうつもりで言っているわけじゃないよ。ダメなの? それじゃあ、聖徳太子ではどうだ」

 「きみは聖徳太子の顔知っているの?」

 「昔の紙幣の顔だったじゃないか。誰でも知っているぜ。超ビッグだぜ。日本史の中では一番ビッグかもしれない。おまえ知らないなら、ネットで検索してみるか」

 「知っているよ。ぼくが言いたいのは、お札やネットに載っているからといって、それが本当の聖徳太子の顔であるわけじゃないでしょう、ということなんだよ。それに聖徳太子は歴史上の偉人かもしれないけれど、善人かどうかはわからないんじゃない。所詮、政治家だよ。伝わっている話も本当かどうか疑わしいよ」

 「おれ、みんなが言うんだからいい奴だと思うけどな。まあ、正確な顔がわからないという意見も正しいけどな。それじゃ、信長も秀吉も家康もだめだ。いや、いや、かれらが善人じゃないことぐらいおれだってわかってるよ。たくさんの人を殺しているものな。

正確な顔が分からなければならないということなら、写真ができて以降の人物になってしまうな。それなら、福沢諭吉や渋沢栄一はどうだ」

 「きみはよっぽどお札が好きなんだな。お札に載っている奴はみんな善人なの? お札に載った伊藤博文は、人を切り殺したらしいよ。とりあえず、偉人と善人を分けようよ」

 「善人を定義するなんて、もっと簡単なことだと思っていたんだけどな。そもそも完全無欠な善人なんて世の中にいるのかよ」

 「そうなんだよね。100点満点の善人なんてどこにもいやしないよ。ある人にとっての善人は、他の人にとっての悪人だってことはよくある話だものね。人間は100%の善人には作られていないし、それかと言って、100%の悪人でもないよ。ことはそう単純じゃないね」

 「難しい話は、しっこなしだぜ。難しい話は頭が痛くなるから。おれ、そういうの嫌いなのおまえも知っているよな。おれはただゲームを作って、お金を儲けたいだけなんだから。分かりやすいだろう」

 「それはぼくも一致しているよ。善人アプリは面白いというきみの直感は正しいよ」


                                            つづく


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