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風の国のお伽話  作者: 花時雨


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第62話 レオン

前話同日 ネルント開拓村


フォンドー峠で実戦を想定した訓練をしていたネルント開拓村の村人たちの横で、村長の息子であるケンとレオンが言い合いを続けていた。


「ケン、どういうことなんだよ。どうしてだめなんだよ!」

「レオン、良く考えろ。すぐにわかるはずだ」

「お前が年上で俺が年下だからか? そんなこと、関係ないだろう!」

「そうじゃない」


言い合いというより、レオンが一方的に憤り、ケンが取り合わずに突き放すと言った方が正確かも知れない。

村長の実子であるレオンは以前から、養子の兄であるケンに自分も戦闘班に参加させるように主張し、断られ続けている。

村長はレオンに支援班で自分の補佐をするように指示しているのだが、レオンはそれが気に入らないのだ。


実戦がもう間近に迫っているであろうこの日になっても、レオンは昼食を届けると言って戦闘班が訓練している峠に現れ、自分も参加させるようにケンに迫っている。

一緒に食事を運んだミシュや他の村娘たちや、訓練の手を休めている戦闘班の仲間がはらはらしながら二人のどこか噛み合わない言い合いを見守っている。


「じゃあ、なぜだ。ケン、お前、勝手すぎるぞ。俺だって、村を守りたいんだ!」

「何度も言ったろう。俺達が二人とも戦いに参加して死んだら、義父さん義母さんはどうなる? 村はどうなるんだ? 誰が義父さんたちを守るんだ? 誰が次の村長になって村を守っていくんだ?」

「死ななければいい!」

「どうやって?」

「それを指揮を執るお前が考えるんだろうが!」

「無茶なことを言うな。戦いは、どうなるかわからないんだ。誰が死に、誰が生き残るかわかるわけがないだろう。それを承知で戦うんだ」

「じゃあ、お前が村に残れ。俺が戦う。俺が指揮を執る」

「今度は勝手なことを。俺が指揮を執るのは、みんなで決めたことだろう」

「俺だって村長の息子だぞ。参加する権利があるはずだ」

「足手まといになって、仲間を危ない目に遭わせる権利がか? そんなものは無い」

「足手まといになるって、なぜわかるんだ? 決めつけるな!」

「俺の言う事を聞かないからだ。指揮官の言う事を聞かない奴は、足手まといになる。敵よりも質の悪い、仲間を殺す毒になる」

「だったら、言う事を聞く。槍が下手でも、俺にもできることは何かあるはずだ」

「本当に俺に従うのか?」


ケンの言葉にレオンは俯いた。

肩が震える。何かをかみ殺しているのだろう。

暫くして、俯いたまま、答えた。


「……ああ、従う。誓ってもいい」


ケンの肩がピクッと動く。

それでも口調を変えずにレオンに冷たく答えた。


「だったら、戦いのときは村にいろ。村長の側にいて護衛しろ。俺達が負けた後に村長が襲われそうになったら守って戦え」

「……」

「俺に従うんだろ? 誓えるんじゃなかったのか?」


レオンは顔を真っ赤にして両手を握りしめていたが、何も言わずに後ろを向くと、走り去っていった。


それを黙って見送るケンに、今度はミシュが突っかかって来た。


「ケン、ひどいわ。やり過ぎよ。レオンが可哀そうよ」

「俺のせいか? あいつが勝手なことを言うせいじゃないのか?」

「言い方ってものがあるでしょ。レオンを傷つける必要なんか無いじゃない」


ミシュもレオンと同じように顔を真っ赤にして怒っている。

似ている、と言えなくもない。

最近、この二人は一緒にいるのを良く見かける。

以前はいつもイライラしていたレオンが少し落ち着いて来たのは、そのせいかも知れない。

長い時間を一緒に過ごしていると、仕草とかも似て来るんだろう。

ケンは睨み続けるミシュから目を逸らした。


「そんなにあいつが可哀そうなら、慰めに行ってやればいいじゃないか。ついていてやれよ。ずっと」

「言われなくても行くわよ。じゃあね」

「ちょっと待った。ミシュ、頼みがある」

「何よ。もったいぶらずにさっさと言ってよ」

「戦いの日が来たら、あいつを見張っててくれ。ここに絶対来ないように。もしこっそり来ようとしたら、引き止めてくれ。いや、捕まえておいてくれ」

「そこまでしなくても」

「いや、だめだ。頼む」

「……行ってくる」



ミシュはレオンを追って走って行く。

向かい風に煽られて、その長い髪は後ろにたなびいている。

その姿をどこか寂しそうな顔で見送るケンに、ジーモンが静かに話しかけた。


「お前もレオンも意地っ張りだな」

「そんなことはない」

「あるだろ。お前は今でもあいつを、可愛い弟だと思ってるんだ。あいつに怪我はさせたくない、無事に村長の跡を継がせてやりたいんだろ? レオンも、お前の助けになりたいのに素直にそう言えない。どうして、優しく判りやすく言ってやらない? 俺たちに話すときみたいに」

「そう見えるか?」

「ああ、見える。俺だけじゃない、みんな知ってるさ。レオンも、今はもう以前のあいつとは違う。知ってるか? あいつ、お前のいない所では、お前の事を『兄さん』って言ってるぞ」

「……そうか」

「あの二人、いい夫婦になるんだろうな」

「……そうだな。そうだといいな」

「お前が守ってやらなきゃならんものがまた増えたな」

「いや、変わらないよ」

「そうか?」

「ああ、村は全員家族なんだ。あいつらも、前からずっと俺の家族さ。これからもずっとな」

お読みいただき有難うございます。

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