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風の国のお伽話  作者: 花時雨


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第39話 代官ニード

話の舞台が移ります。

王国歴223年2月(ケン19歳)


ケンがいるネルント開拓村は山村ではあるが、国の南部にあるため冬も雪はそれほど多くは無い。

それでも一月の末から二月にかけてはかなりの雪が降ることもある。

深雪が積もった山に囲まれたネルント開拓村に、見たことのない男が前触れもなく馬に乗ってやってきた。

男は、衛兵姿の女を一人従えている。

二人は訝しげに見守る村人たちに村長の家の場所を突っ慳貪に尋ねると、後はもう彼らには目もくれない。

村長の家を見つけると馬から降り、入り口の扉を乱暴に開けて入って行った。



「村長はいるか!」


大声で呼ぶ声がする。

村長は何事かと、慌てて家の奥から出て来た。

仕事部屋に入ると、褐色の短髪で目つきの鋭い痩せた男が、村長の執務用の椅子に勝手に座って机の上に足を投げ出している。


「村長は私ですが」

「私は新たにピオニル子爵閣下から代官を仰せつかった、ニードというものだ。見知り置くように。こいつは衛兵伍長のボーゼだ」


ニードが、横に立っている女の衛兵を指して言う。

こちらは黄褐色の髪を肩まで垂らしている。

顔立ちは整っているが両頬に刀傷があり、やはり目つきが悪い。

二人とも、人を嘲るような目で見ている。


「初めてお目に掛かります。この村の村長を仰せつかっておりますライアン・ジートラーです。よろしくお願いいたします」

「うむ」

「本来なら私の方から挨拶に伺うべきところ、申し訳ございません。寒い中を遠路はるばると足をお運びいただき、有難うございます」

「全くだ。ここは聞きしに勝る、随分辺鄙な所だ。本来、代官が来るような場所ではないな。だが、俺が代官に任じられて相当経つが、年が明けてからもこの村からは誰も状況報告に来ん。止むを得ず、俺の方から出向いて来た。いったい、どういうことだ?」

「それは、申し訳ございませんでした。ここの所、特にお知らせすべき異常もありませんでしたので」

「だから報告をさぼっていたということか」

「いえ、さぼっていたなどということはございません。前の代官様から、ここから領都までは時間が掛かるので、異常の無い限りは月次の報告は不要、春と秋にまとめて報告すればよい、と仰せつかっておりましたので」

「前の代官? あの愚か者か? 俺は聞いていないが、まあ、よかろう。納税は滞っていないようだしな」

「恐れ入ります」


ほっとした村長を見て、ニードが冷たい笑いを浮かべた。


「だが、税額そのものが少ない。子爵様が御不満であられた」

「それは……」

「子爵に代わって申し渡す。今後、地租を、他の村と同様に1エーカー当たり2ヴィンドとする。わかったか」

「……そんな」

「何か文句でもあるのか」

「これは、無茶というものです。到底納められません」

「地租を納められなければ、土地を返納させるだけの事だ」

「しかし、現在の税率は、先代様との契約で定められていることです。我々はそれを守っております。おっしゃられたように、一度も納税を欠かせたことはございません」

「それがどうした。契約など知らんな。仮に契約があったとしても、変更すれば済むことだ」


取り合おうとしないニードに、村長が憤った。


「それはあまりに酷い話ではありませんか!」

「……おい、口の利き方には気を付けろ。誰に向かって話していると思ってるんだ。代官は貴族である領主も同然だぞ。忘れるな」

「……」

「まあいい、今日の所はこれで帰る。茶も出なかったが、まあよかろう。口で言っても分からんようなので、次回は税率を書面にして持ってくる。一週間後だ。その時には、村長、お前に署名してもらうぞ。いいな。ボーゼ、帰るぞ」


勝手なことを言い捨てると、ニードと衛兵伍長の女は馬に乗って帰って行った。

入れ替わりに、様子を窺っていた村人たちが雪崩れ込むように村長の家に入って来る。


「村長、どうしたんだ?」「誰だ、あいつらは?」「税がどうとか言っていたが、何のことだ」


口々に村長に問いかける。


「みんな、落ち着いてくれ。入れる者は全員入ってくれ」


集まった者が部屋の中に入ったことを確認すると、村長は事情を説明した。


「あいつは、ニードという。新しく代官になったらしい」

「前の代官様は?」

「わからん。多分、首になったんだろう。そこらへんは、フーシュ村に行って確認しよう」

「それより、そのニードとやらは、何を言って来たんだ?」

「税を上げると言って来た。1エーカー2ヴィンドだ」

「そんなバカな! 今の五倍じゃないか。到底無理だ」「他の村だって、1ヴィンドのはずだぞ」「いったい、どうしろっていうんだ」


騒ぎ始める村人たちを、村長が手を上げて静める。


「みんな、落ち着け。今の税率は前の子爵様との契約で決まっているんだ。あいつは一週間後にまた来ると言っていた。その時に契約書を見せて、納得してもらえば無事に済むだろう」

「義父さん、それは止めた方が良い」

「ケン、聞いてたのか」


ケンが家の奥から出て来て、人の輪を割って前に出て来た。


「子供の聞く話じゃない。奥に戻っていなさい」

「俺はもう子供じゃない。一人前じゃなくても、意見ぐらいは言わせて欲しい」

「何だ。言ってみろ」

「あいつは聞く耳を持った奴じゃない。契約書を出したりしたら、『見せろ』といって奪われて、破られるか焼かれるかされかねない。契約書はもっとまともな奴に見せるべきだ」

「俺もそう思う」「賛成だ」


村人たちも口々に言う。


「わかった。契約書はここぞという時まで隠しておこう。次回は、私がきちんと説明する。みんな、安心して帰ってくれ」


村長の言葉に、村人たちは不安そうな顔で話をしながら帰って行く。

その後の村の道には、ひときわ冷たい風がひゅうひゅうと吹き抜けていた。

話は騒がしくなって参りました。

短い話が続いて、済みません。

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