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風の国のお伽話  作者: 花時雨


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第27話 手甲

ユーキとクルティスの話が続きます。

前話を承けた話になりますので、前話未読の方はそちらを先に読んでいただけると有難く思います。

前話同日正午過ぎ


ユーキはクルティスと共に、王都の南街区の繁華な通りを歩いていた。

朝から天気が良く涼風が吹いていたためか、かなりの人出だ。

通りは混雑しているが、クルティスはかなり上背があり周囲が人混みでも頭一つ抜け出ているので、離れてついて来ている他の二人の護衛も見失うことは無いだろう。


今日はクーツは付いて来ていない。

気晴らしなのだから若い者だけで行って来い、ということらしい。

クルティス以外の護衛も、当直の第三大隊の近衛兵の中から口煩いタイプを避けて選んでくれたようだ。


南街区に来るのは、ユーキにとっては滅多にないことだ。

いささか風紀のよろしくないと思われるお店が固まって立ち並んでいる通り、つまり花街通りが近いとのことで、成人する以前は来ることを禁じられていた地域だ。

大人となった今でもなんとなく避けており、殆ど来たことがない。


クルティスは迷う様子もなく先に立ち、スルスルと人波をすり抜けて歩いていく。

なぜそんなに良く道を知っているのか以前に尋ねた時に、王都の街路を憶えるために、時間があるときにあちこちを歩き回っているからと言っていた。

楽しそうだと羨ましがったら、『道を歩いているだけなので特に楽しくはありません、面倒の種がぶつかってくることもありますし』と、澄まし顔で答えられてしまった。

こんなことでも僕よりも先を行っていて癪に障る。

でも、道案内をしてくれるのだから文句も言えない。



今日はこの付近にある武器屋に、剣を見に行くことにした。

近衛兵たちの間で最近評判になり始めている店だ。

クルティスに店の名を言うと、『ああ、あそこですね。俺は入ったことはありませんが』と言っていた。

そこで剣を見て、その後にどこか近くでお茶でも飲んで帰ろうという予定だ。


なぜ剣を? とクルティスに不思議がられたが、そこは内緒だ。

もちろん、ユーキが剣を欲しければ、武器屋に使いを出せば済む。

王族に相応しい銘剣を何本でも持参してくるだろう。

いくら高価でも、家つまり王家が払えば済むのだから。


だがユーキが欲しいのは、自分で帯びる剣ではない。

いや、実の所、剣でなくてもかまわない。短剣でもナイフでも構わない。

自分の財布で払える範囲で、クルティスに贈れる武器が欲しいのだ。

クルティスは彼の成人の儀の際に、我が家の当主である母のマレーネ殿下から剣を授かり、それをいつも帯びている。

それはそれで良いのだが、ユーキとしては自分のために日夜修行に励んでくれていたクルティスに感謝の印として何かを贈りたいと思ったのだ。

いろいろと負けているのは癪だけど。


武器屋が持参してくる銘剣は、ユーキ個人に与えられている王族費では到底手が届かない。

王族費と言っても、自分で家を成していない部屋住みのユーキに与えられるのはお小遣い程度の額だ。

もちろん庶民なら十分以上に暮らしが立つ、途轍もないお小遣いだが。

それで自分から武器屋に足を運んで、手の届く範囲の武器を探すと同時にクルティスの好みを観察して選ぼうと、まあそういう訳だ。



目的の店は、表通りから横道に少し入った所にあった。

間口が小さく、目立たない店だ。

出入口には用心棒と思われる体格のいい店員が椅子に座っていた。

クルティスと二人で入ろうとすると、すっと立ち上がり油断のない目つきで「いらっしゃいませ」と挨拶し、「失礼ではありますが、お名前を」と台帳に氏名の記帳を求められた。


危険な刃物を大量に扱っているのだから、当たり前のことだろう。

こういう時のために準備している偽名を書いたら訝しい目で見られたので、人目に付かないように王家の印を見せる。


「失礼いたしました。どうぞお入りください」


さすがに心得ていると見え、小さく頷いて扉を開け、先に立って招き入れてくれた。

後について二人で店の中に入ると、「こちらへどうぞ」と狭い通路を導かれ、10ヤードほど進んだところで広間に出た。


どうやらここは実用品を展示販売しているスペースらしい。

手頃な価格の多くの剣や槍が掛けてあり、長めの鎖で棚や壁に繋がれている。

かなりの数の客がおり、傭兵らしい者たちが思い思いの武器を手に取ったり、付き従った店員に何事か尋ねたりしている。

(しな)を作って値段交渉をしていると思しき年嵩の美女もいるが、残念ながら店員は全く動じていないようだ。



ユーキたちが辺りを見回していると、招き入れてくれた店員がカウンターの中にいた女に合図をした。

女は他の店員がお仕着せの服を着ているのと異なり、襟にレース飾りのついたシャツに黒のチョッキ、同じく黒のスラックスを着ている。

女が心得て近づいてくると、店員は女に何事か耳打ちした後に、女を紹介した。


「この者は売り場責任者のグリンダと申します。後はこの者が案内いたします。どうぞごゆっくり御覧ください」


店員が頭を下げ、出入口の方に戻って行くのと入れ替わるように、紹介された女が挨拶した。


「シュトルム様、ようこそいらっしゃいました」


グリンダはユーキの偽名を呼んで頭を下げ、そして声を落とし、小さな身振りで店の奥の方を示した。


「最初にお伝えしておきます。当店の非常口はあちらの奥にございます」


そちらを見ると、奥の方の壁際から目立たない細い通路が通じており、その前に、やはり逞しい店員が立っている。


「何かの際には、あの者が非常口にお通しいたします。階段はこことあの非常口の近くの二か所です」


微笑みながら言った『何かの際』とは、たぶん、強盗がいきなり売り物の武器を振り回すとかなんだろうなと考えていると、説明を付け加えてくれた。


「当店には貴顕の方々も多く御来店いただいており、暗殺者に狙われることもありえますので」


なかなか、ありがたくもない解説だ。


「こんな所で、暗殺ですか?」

「はい、他国の例ではございますが。万引き犯が露見して逃走するために来店者を人質に取る、という態に見せかけて貴人を殺害しようとした事件がありました」

「それはそれは」


どういう感想を述べたら良いのかちょっとわからない。



「本日は、どういったものをお探しでしょうか?」

「これ、と決めているものはないのですが、護身に役立つ手頃な品があればと。半ば冷やかしで申し訳ないのですが」

「とんでもないことでございます。私どものような目立たない店に御出でくださり、様々な品を御覧いただけるのは身に余る光栄です。こちらへどうぞ」


グリンダは先に立って階段を上り、三階へとユーキたちを招いた。

通路や階段が狭いのも犯罪者対策だろうか。


「二階には何があるのでしょうか?」

「はい、二階には鎧兜、槍やハルバード等の長物、ロングソード、斬馬剣や斧等の大物、それに弓等、これらの上物を置いております。何分、これらを上の方の階まで運び入れるのはなかなか大変ですので。今回のお望みのものとは異なるかと思い、省略させていただきました」

「なるほど」

「もしお時間がありましたら、後ほどそちらもご覧いただければと思います」

「わかりました」

「こちら三階には、小型の武器を置かせていただいております。いずれも当店自慢の品々です。もしよろしければあちらのお席に、お薦めの品をお持ちいたしますが」

「いえ、差し支えなければ、展示を自分で見て回りたいと思います」

「承知いたしました。控えておりますので、お気になられた品がございましたら、お声をおかけください」

「わかりました。よろしくお願いします」


階段を上がって一番右の通路には、両側に短剣が奥まで展示されており、一本一本が丁寧に並べられている様子はまるで美術館のようだ。

ひんやりとした空気が気持ち良い。

温度が低いと言うより、恐らく錆び避けに湿度を下げるように工夫しているのだろう。

他の客も殆どいない。

奥の方に、見たことのある貴族の子弟が三人、連れ立って話をしながら品々を見ているだけだ。

向こうもこちらに気が付いたが、軽く目礼で済ませて静かに反対側の階段を降りて行った。

あちらも微行なのだろう、なかなかに気分がいい。



「クルティスはどれが良いと思う?」


本来の目的を果たすため、さりげなく尋ねてみる。


「殿……シュトルム様が持たれるには、どれも不十分かと。と言うか、そもそも短剣を持たれる必要はあまりないと思いますが」と素っ気ない。

「声が大きいよクルティス。お店の人が聞いているんだから。お前はどんな武器が好きなんだ?」

「私は特に好みはありません。必要があれば何だって使います」

「そういうものなのか?」

「はい。それは護衛であれば誰でも。例えばアンジェラです」

「アンジェラ? 彼女は侍女だろ?」

「はい。彼女の愛用している銀盆ですが」

「盆?」

「分厚いでしょう?」

「そうだね」

「ここだけの話ですが、あれの中身は鋼板です。純銀や真鍮では軟らかすぎて致命傷を与えられないそうで」

「致命傷って」

「アンジェラが闘わざるを得ないような切迫した局面では、手加減など許されません。曲がろうが割れようが砕けようが気にせずに、力一杯ぶん殴るんだそうです」

「そうか……」

「盆だけに留まりません。他にもナイフやらフォークやらを使って戦わせれば、彼女の右に出る者はいないと思います。一撃必殺のカトラリー遣いです。私も以前、彼女に教わったことがありますが、難しくてあきらめました」

「カトラリー遣いって、何かこれから給仕してもらうのが怖いな……いや、今はそういう話じゃなく、単純に短剣としての使い勝手とか、装飾の美しさとか、聞きたいのはそういうことだよ。僕よりは詳しいだろう?」

「それはそうかも知れませんが」


「どう?」

「感心しません。例えばこれは、サイズが中途半端です。服の中に隠すには大きく、帯びるには短くて見栄えがしません。こちらは柄と刃のバランスが悪そうに見えます。そっちは刃が細過ぎて、突くには良いですが、受けに使うと一撃で折れるでしょう。こちらは……」


その後ひとしきり、目の前の品々に対するクルティスの評価と言うか、批評と言うか、批判を聞き続けることになった。

こいつは普段は口数が少ないのに、武器の事になると良く喋ることがわかった。


聞いているうちに好みもだんだんわかって来た。

どうやら、どちらかというと実用重視らしい。

それも、攻撃よりも受けに使える強さを評価するようだ。

やはり僕の従者兼護衛だけのことはある。

ただ、厳しい評価が続いて、ついて来るグリンダの雰囲気がどんどん冷えて来るのが怖いけど。


と、隣の列に移った時にクルティスの足が止まった。

視線の先をたどると、一対の手甲に留まっている。

それは目の細かい金属製の鎖網で編まれた手筒に、白銀色に輝く甲板がつけられただけのもので、シンプルだが形も色も美しい。

いわゆる機能美というやつだろう。

ユーキはその手甲を指差してグリンダに頼んだ。


「これを手に取ってみたいのですが」

「承知しました」


グリンダは白手袋を着け、陳列ケースの錠を外して取り出した手甲をユーキに渡しながら言った。


「さすがにお目が高いと感服いたしました。これは当方の最も腕利きの職人が手技訓練を兼ねて作成した一品ものでございます」

「素手のままでよろしいのですか?」

「どうぞそのままで、御遠慮なく」


言われたので手に取ってみると、手筒はしなやかで、どのようにでも形を変える。

これなら手首の動きを邪魔することもないだろう。

試しに左手を通してみると、ユーキには太すぎて緩みがある。


「手筒の部分は鎖網を増減することで、着けられる方に合わせて太さや形状を変えることが可能です」

「それはいいですね。クルティス、着けてみて」


クルティスは黙って手筒を腕にはめ、留め紐に指を通す。大きさはほぼぴったりだ。


「動きはどうかな?」

「問題ありませんね。というか、とても良くできています。手の甲と腕の部分の継ぎ目も、どう板を細工しているのか、突っかかることもなく隙も出来ません」

「そこが匠の技でございます。わずかですがミスリル鋼も混ぜており、防御力と柔軟さを兼ね備えております」

「ミスリル鋼ですか? お伽話では、ミスリル鉱石から鋼材を造り出すのは、ドワーフしか知らない技術が必要だということになっていましたよね」

「はい。私にもわからないのですが、その職人の言うには、武器造りの親方から真に認められた弟子が独立する時に、祝いとしてミスリル鋼を少量分けてもらうのが伝統とか。その職人も、親方の親方、あるいはそのさらに親方からかも知れませんが、代々受け継がれたものをほんの少しだけ秘蔵していて、これと思った品を鍛える時にだけ、僅かに加えると言っていました。ほんの少しでも、仕上がり性能が全く違うそうで」


「そうすると、その職人の方が作られた品には、ミスリルが入っている可能性があるわけですか。この店には他にも?」

「それは、あるともないとも申し上げられません。御自分の目で探し当てていただく以外にはないですね」

「なるほど」

「この手甲については、調整や何回かの修理の分も含めて必要なミスリルは取ってある、と申しておりましたので御安心下さい。ちなみに今は付けておりませんが、お好みであれば指甲も取り付け可能です。また、腕、あるいは手の部分の甲に紋様や文字を刻むこともできます。その分は別価格となってしまいますが」

「全部でおいくらになりますか?」

「刻印抜きで4ヴィンドでございます」

「安いですね」

「御覧のように、この階の他の武器と異なり装飾の類が一切ございませんので、この価格で提供させていただいております。お値打ち品ですが、貴族の方々には無装飾は受けがよろしくないようです」


「ですがシュトルム様、御自身がこのような武具を付けて戦いに出られる機会はないと思いますが。これはとても良い物とは思いますが、宝の持ち腐れになりかねません。お止めになった方が」


クルティスが反対するが、ユーキは気にせずグリンダと話を続ける。


「いいんだ。グリンダさん、文字は小さく、『クルティス』と刻んでいただけますか?」

「承知しました」

「殿下! ……シュトルム様」


「グリンダさん、貴女は僕……私が誰か、わかっていますよね」

「はい。畏れながらユークリウス殿下であらせられると」

「はい。ここに来た事、話した事一切を内密にしていただければ、それで構いません」

「元より心得ております」

「殿下、もったいないです。お止め下さい」

「クルティス、これは私が好んですることだ。止めずに受け取ってもらいたい」


クルティスの方に真っ直ぐ向き直る。

友達みたいな存在のクルティスにこんなことを言うのは、もう、ものすごく恥ずかしくて躊躇われるが、思い切って言ってしまうことにした。


「……今日は心無いことを言って済まなかった。努力を続けることが難しいことは私も知っている。ましてや自分でない者のための努力を、報われる約束もなく続けることがいかに難しいか。お前が私を護るために隠れて努力を続けてくれていたことに、私は気付くことができなかった、それが恥ずかしい。私は自分の事しか見えていなかったんだ。お前はその事を教えてくれた」

「殿下……」

「……私自身にできることは少ない。王族の末として、国民の将来のために学びに励むことしかまだできないが、その事はこれからも怠らない様にしたい。この手甲はその誓いの証として、お前に持っていてもらいたいのだ。今の私にはこれくらいの事しかできないが、お前にはこの先長く、私の側にいて護ってもらいたいと思っている。そのために、どうかこれを活かして欲しい」


クルティスはユーキの言葉の途中から、片膝を突いて胸に右手を当て、頭を下げて聞いていた。

そして聞き終わると、震える声を絞り出すように答えた。


「……私などにもったいないお言葉。身に余ります。……確と、確と承りました。私も必ず励み続け、きっと最後までお護りいたします。殿下、クルティス・ダンナー、この手甲にかけてお誓いいたします」

「うん、よろしく頼む」


ユーキは顔を赤くしてグリンダを振り返った。


「というわけで、彼に合わせてサイズ調整と刻印をお願いします。指甲付きで。調整後の届け先は……グリンダさん?」


グリンダは俯いてハンカチで目元を強く抑えていたが、何かを飲み込むとこちらを向いた。

彼女の頬も赤くなっている。


「……失礼いたしました。お届け先は承知しております。マレーネ殿下にも何度か御利用をいただいておりますので」

「母上が?」

「はい」

「そうですか。送料も含めていくらになりますか?」

「刻印と送料は当店で負担させていただきたく思います」

「それは良くありません」

「この度は主従の絆を結び直される、お二人の大切な場面に立ち会わせていただいたこと、このアルマ・グリンダ、感激しております。僭越ながら、刻印と送料は当店からのこの良き日のお祝いとさせていただければ、光栄です。誠におめでとうございます」

「よろしいのですか?」

「はい、これを機会に、当グリンダ武器商会を御贔屓にしていただけると、なお一層有難く思います」


いち早く立ち直ったグリンダは営業スマイルを向けてくる。

ユーキは照れ臭くて苦笑いだ。


こちらも顔が真っ赤になっているクルティスの両手のサイズと型を測ってもらって会計を済ませた後、グリンダはユーキに申し出た。


「当店では、実用品であれば数量が必要な場合にも対応可能です。何かの際には、私に御連絡いただければと思います」

「グリンダさんに、ですか?」

「はい。よろしければ、アルマとお呼び捨て下さい。私は当商会の主の娘で、実際の差配のかなりの部分を任されております。近衛の御用達の名誉はまだいただいておりませんが、いくつかの領の御領主様には御贔屓をいただいております。殿下の御用命であれば、何を差し置いても品を揃えて見せます」

「アルマ、有難いですが、そのような機会があるかどうか……」

「いえ、今すぐの話ではございません。心の隅にでも御留め置きいただき、いつの日か、何かの折に思い出していただければ。その際には、是非ともお役に立たせていただきたいと思います」

「なぜそこまで言っていただけるのでしょうか?」

「それはその……殿下のお噂はかねがね伺っておりますし……本日の御様子を拝見して……感動したというか……(意気に感じたというか)……((惚れたというか……))」


アルマはだんだんと小声になって、もぞもぞと何か言っていたが、突然大声を出した。


「あの!」

「はい?」

「もし、もしできればで、いいんですが!」

「何でしょう?」

「握手してくださいませんでしょうか……」


かすれ声になり、俯いて恐る恐る右手を出してきた。


「いいですよ」


ユーキがその手を取ると、アルマは「クヮ……」と声にならない声を出し、両手で握って力強く振った後に、バッと手を引いてまた顔を赤くした。


「わ、私ったら! 大変失礼いたしました!」

「いいえ。アルマ、今日はお世話になり、有難うございました」

「は、はい! こちらこそ! 今後とも御贔屓に!」


アルマが先に立ってギクシャクと歩き出し、出入り口に着くと、二人は最敬礼で送り出された。


「またの御来店をお待ちしております!」




ユーキたちが出て行った後、アルマは頭を上げると小声で呟いた。


「自分でない者たち、すなわち国民のための努力を、報われる約束もなく続けておられるのは貴方様御自身です。殿下、有難うございます。我々国民は、敬愛すべき王族を頂くことが出来て幸せです」


もう一度深々と頭を下げた後に自分の手を見てさらに呟いた。


「握手してもらっちゃった……名前も呼んでもらっちゃったし……何て良い日……殿下にも良いことがありますように……」


皆様にも良いことがありますように。

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