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鍾乳洞 四.

 三人が新たな支洞へと姿を消して、間もなく。


 先ほどまで関森康夫と関森由紀、青島孝がいた広々とした空間に、四人の男たちが姿を現した。


 先頭を歩くのは、見るからに痩身で、頼りなさそうな印象の男だ。その背後には、いずれもがっしりとした体格の、屈強な男が三人続く。懐中電灯を手にしているのは、後ろの三人だけだった。


 リーダー格らしき男が、低くどすの効いた声で先頭の男に問いかけた。


智石ちせきはどこだ?」


「あっちの方にありました、たしか……」


 先頭の男──それは、変わり果てた姿の塚田俊也だった。彼の声には、僅かな怯えと、必死に状況を理解しようとする混乱が滲んでいる。


 リーダー格の男は、俊也が指差した方向へ懐中電灯の光を向けた。闇の奥を鋭く見つめる。


「お前も持て。ちゃんと探せ」

 リーダー格の男は、左側に立っていた手下の一人に、懐中電灯を渡すよう命じた。


 懐中電灯を受け取った塚田俊也は、言われるがままに、以前智石があった場所を懸命に探し始めた。


 数秒後、彼の顔から血の気が引いた。


「ない……。無くなっています!」

 俊也の声は、焦りと共に震えを帯びた。


 リーダー格の男の目が、鋭く細められる。

「本当か? 嘘は言っていないだろうな?」

 その声には、明らかに殺意が混じっていた。


「はいっ! 以前来た時には、確かにありました! 間違いありません!」

 俊也は、必死に弁解する。体は正直で、恐怖に打ち震えているのが自分でも分かった。


「どこへいったか、見当はつかないか?」

 リーダー格の男が、じりじりと距離を詰めてくる。


「……」

 俊也は、答えに詰まった。


「おそらく、関森康夫が持っていったんだろうよ。違うか?」

 男は、彼の顔を覗き込むように凄んだ。その形相は、まるで鬼のようだ。


「おそらく……そうではないかと……」

 俊也は、震える声で答えるしかなかった。康夫に会う前、智石がどこにあるかなど知る由もなかったが、今となっては康夫しかいないと直感していた。


「ならば、関森康夫を捕まえて、吐かすとするか。お前にはもう用はない」

 リーダー格の男は、冷酷な目でそう言い放つと、俊也の手から乱暴に懐中電灯を取り上げた。そして、二人の屈強な男に顎で命令する。


 「始末しろ」


 既に、二人の男の手には、冷たい光を放つファイティングナイフが握られていた。いつでも俊也の心臓を貫ける体勢で、彼らは無言でじりじりと近づいてくる。


「待ってくれっ!」

 塚田俊也は、命乞いをするように叫んだ。彼の脳は、死の恐怖に直面し、働きを取り戻しつつあった。


「待ってください! もし、関森康夫が智石のありかを吐かしたとしても、それが本物かどうか、あなたたちに見分けがつきますか?」

 俊也は、必死の形相で声を絞り出した。この場を生き延びるために、唯一使える切り札だと信じて。


 リーダー格の男の眉がピクリと動いた。

「……それもそうだな。しかし、お前が嘘をつくかもしれない」


「嘘はつきません! 僕にしか、智石の真贋は見分けられません!」

 俊也は、力強く言い切った。この一言が、彼の命を繋ぎとめる唯一の綱だった。


「嘘だったら、その時には死んでもらう」

 男は冷酷な目でそう告げたが、ナイフを構えていた二人の男に、手を下ろすよう指示した。


 塚田俊也は、とりあえずその場をしのげたことに、わずかな安堵を覚えた。しかし、同時に、智石が見つかったとしても、結局は殺される運命であることも理解していた。彼の脳裏に、この絶体絶命の状況から、どうにかして隙を見つけて逃げ出すという、唯一の目標が鮮明に浮かび上がった。


「関森康夫を捕まえに行くぞ」

 リーダー格の男はそう命令し、塚田俊也を再び先頭に立たせ戻っていった。塚田俊也の足元は、まるで死への行進を強いられているかのようだった。



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