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倉庫 二.

 林田未結は、打ち込んできた木刀を左手で掴むと、相手の体を一気に引き寄せ、その顔面に掌底の一撃を加えてノックアウトしていた。林田未結にとって、木刀の動きはまるでスローモーションでしかなかった。彼女の動体視力は、常人とはまったく別の次元にあった。


 リーダー格があっという間に倒されたので、他の者たちは狼狽し、逃げ始めた。だらしないものだった。


「お前たち、忘れ物だ!」

 そう叫んで林田未結は、体重が七十キロを超していそうなリーダー格の男のベルトを右手で掴み、ヒョイと軽々と持ち上げた。そして、男の仲間たちが逃げる方へあっという間に移動すると、彼らの前に男を静かに置いた。


「ちゃんと、持ち帰りな」

 そう告げると、彼女はすぐさま元の場所へと引き返して来た。


 数人がかりでリーダー格の体を車に運び込み、慌ただしくどこかへと去っていった。


「ロスタイムだったな。続きをする。全員、中へ」

 林田未結は、静かに命令した。


 倉庫の中の事務所に戻り、全員が着席した。


 林田未結は全員の顔をゆっくりと見回した。その時、高田が立ち上がり、口を開いた。

「正直、驚いた。外見とこれほど違いがあるとはな。態度がでかいと思われただろうが、今後は改める」


「話し方はまだ改めてないぞ」

 稲原リーダーが、フッと軽く笑った。


 他の者たちもつられて笑う。その場の雰囲気が、一気に和らいだ。高田は、照れたように着席する。メンバーは、林田未結に対し、もはや尊敬のまなざしを向けていた。やっと彼女を、真の司令官として認めたのだろう。


 林田未結は再び立ち上がり、話を始めた。しかし、その口調は変わっていた。先ほどまでは、上官としての威厳を保つためか厳しい口調であったが、皆のまなざしが変わった今、意識的に威厳ある口調をする必要はないと思ったのである。


「さて、アークは四石シセキを探しているけど、なぜ探しているかというと、支部長が計画しているマシンクラスの地球支配に役立つと思われているからだ。今は、**智石ちせき**のパワーしかわかっていないけど、その他の石も、きっと素晴らしいパワーがあるのではないかと思っているし、それを手に入れることによって、彼らの支配力が強まると考えている」


「それで、このミーティングは何のために開かれたのですか?」

 川永リーダーが、皆を代表するように質問した。


 少し間を置いて、林田未結は毅然と言い放った。

「私がアークと決別することを、皆に伝えたかった」


 メンバー全員が、驚愕に固まった。アークはそう簡単に抜けることができる組織ではない。司令官ともなれば、その困難さはさらに増すはずだ。


 川永リーダーは、皆を代表するように、震える声で質問した。

「アークは、そう簡単には抜けることができないはずですが……」


「勝手に抜けるだけだ。もう戻らない」

 林田未結の声には、微塵の迷いもなかった。


「なぜ、我々にその話をされたのですか?」


「皆は、私の大切な部下だからだ。アークの本当の姿を、どうしても伝えておきたかった」

 彼女の言葉には、メンバーへの深い情が込められていた。


「これから、どうされるつもりですか?」

 川永リーダーは、さらに問うた。


「四石を探し出すことで、彼ら――マシンクラスの思い通りにはさせない。四石を得れば、もしかしたら、人選して人類を減らすことで環境破壊の原因を取り除く、などということをしなくて済むかもしれない。特に智石によって、その知恵を授かることができるかもしれないからだ。その他の石にも興味があるし、アークに対抗することさえ可能になるかもしれない」

 林田未結の視線は、遠く未来を見据えているかのようだった。


「ということは、我々はアークに留まるよりも、司令官についていった方が、生き残る確率が高い、ということですか?」

 川永リーダーは、メンバーの代表として、核心を突く質問を続けた。メンバーは皆、固唾を飲んでそのやり取りを聞いていた。自分たちの将来を、今、ここで決めなければならないのだ。


「アークを敵に回すということは、命がけだ。その覚悟が必要になる。だから、皆にはよく考えてほしい。私は皆を守ることができないかもしれない。それだけ、アークは巨大な敵だということを考慮してほしい。ただし、アークに残って人選され、生き残ったとしても、奴隷のような扱いを受けることになるだろう」


 林田未結の言葉に、一人のメンバーが立ち上がった。

「奴隷のような扱いを受けるくらいなら、アークと戦って死んだ方がましだ。私は司令官と行動を共にする!」


 その言葉を皮切りに、メンバーが次々に同じ考えを表明し始めた。そして、遂には全員が賛同の意を示した。


 林田未結は、感動の波に包まれ、込み上げてくるものがあったが、あくまでも冷静を装った。

「皆が、賛同してくれたことは、非常に嬉しい。これから困難なことが立ちはだかると思うけど、共に戦いましょう」


 メンバーが一斉に立ち上がり、「おおーっ!」と叫んで、右の拳を力強く突き上げた。

「皆に伝えておきたいことがある。桐生は既に、我々と共に行動している」

 林田未結の言葉に、メンバーの気勢はさらに上がった。


 外は夜明け前の静寂に包まれていた。関森康夫と関森由紀、そして青島孝が宿泊しているホテル前の通りには、人の姿はほとんど見当たらない。ただ、三台の車が、わずかな間隔をおいて静かに止まっていた。林田未結たちは、この倉庫から移動し、桐生と合流したのである。


 朝の静けさは、これから始まろうとしている、嵐の前の静けさだろうか。


 人類は、ずっと日々繰り返される夜明けを、このまま享受し続けることができるのだろうか。

 最後迄読んで下さり、ありがとうございました。続きは第二部でお願いします。

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