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倉庫 一.

 二台のワゴン車は、夜の倉庫街の一角にある小さな倉庫の前に止まっていた。深夜になると、このあたりはまったく人通りもなく、ひっそりとしている。その小さな倉庫の中にある事務所に、総勢十三人のアークのメンバーが集まっていた。


 コの字型に配置されたテーブルに、十三人全員が着席している。


 コの字型の中心には、ショートカットの髪型で小柄なアーク日本支部司令官、林田未結はやしだみゆが着席していた。林田未結から見て右斜め、一番前の席には川永かわながリーダーが、その向かい側には稲原いなはらリーダーが着席し、それぞれのチームのサブリーダーがリーダーの隣に、さらにその隣には四人ずつのメンバーが着席している。


 林田未結は立ち上がり、全員の顔を一人ひとり見回し、静かに話を始めた。

「諸君。関森康夫と関森由紀、そして青島孝を、ついに見つけた」


 一部の者が「おおっ」と、期待のこもった歓声を上げた。


「集まってもらったのは、今後のことについて、皆に話を聞いてもらうためだ。そして、聞いた後、よく考え、自ら判断し、決めてもらいたい」

 林田未結の言葉には、どこか厳粛な響きがあった。


 全員が、一体何の話があるのか、予測がつかないという表情をしていた。


「これから話すことは、天地神明に誓って本当のことだ。よく聞いてほしい。支部長と副支部長、そして私は、異なる次元から来た」


「異なる次元……?」

 新井あらいサブリーダーが、不審そうに呟いた。彼は稲原リーダーの部下だ。


「そうだ。いわゆる異次元だ。なかなか信じてもらえないかもしれないが、この地球は一つではない。ある瞬間に枝分かれした地球があり、異次元に存在する。我々は次元転送装置でこの次元の地球に来たが、他にも存在するはずだ。残念ながら、他の次元の地球はまだ見つかっていない。座標を設定して転送するので、確実な座標が必要なのだが、簡単には見つからない」

 林田未結は、言葉を選びながら丁寧に説明した。


 その後、林田未結は、自身がいた次元の地球がどのような場所だったのかを、具体的に語り始めた。彼女の故郷は、環境破壊が極限まで進み、人類が地下でしか生きられない過酷な世界であったこと、そして、その中で人類が肉体改造を施し、階級が形成されていった経緯を詳細に説明した。


「……そして、アークは、この地球で人選を行い、人間の間引きをしようとしている。環境破壊は人間のせいだから、その原因を取り除く必要がある、というところまでは皆も知っている通りだ。君たちは、自分たちが人選される時に、残る者になると信じているだろうが、実際のところ、人選とは、支部長たちマシンクラスにとって必要な人間を残すことになっている。間引きのため、次々と異次元の地球からマシンクラスの者たちが次元転送装置でやって来て、この次元の地球を支配するつもりだ」


 林田未結の言葉に、全員が信じられないという顔をしていた。林田未結は、自身が司令官という地位にあるとはいえ、これまで末端のメンバーと行動を共にしたことがないため、メンバーの事を良く知らないし、メンバーも彼女の事を良く知らないだろう。もし桐生がここにいたら、誰も彼女の話を疑うことはなかっただろうし、桐生が上手く取り計らっていたはずだ。


 その時、左の列の一番離れた所にいる、最近加入したばかりのメンバーが、周りにはほとんど聞こえないような声で呟いた。その男は、顔が浅黒く、立ち上がったら身長が二メートルもありそうな筋骨隆々の体格で、格闘においては誰にも負けたことがないと自負している。

「司令官といっても、ただの小娘じゃないか。信じられん」


高田たかだ、小娘で悪かったな。しかし、私は上官だ。口を慎んでもらおうか」

 林田未結の声が、その男、高田の耳に、まるで至近距離で囁かれたかのように届いた。


 ギョッとして高田は司令官を見た。隣の者にも聞き取り辛いほどの声で喋ったのに、なぜ彼女に聞こえたのか、彼は不審に思ったが、その驚きを顔には出さず、質問した。

「次元が違う地球から来たと言われたが、見た目は日本人で、日本語も上手い。進化の過程が違うはずなのに、納得できない」


「産業革命の時に次元が分かれたようで、産業革命以前の歴史はこの次元と同じだ。私の家系は日本人で、向こうの次元の言語も、この次元と非常によく似ている。だから、すぐに順応できた」

 林田未結は、冷静に答えた。


「他に質問がある人は?」

 彼女がそう尋ねた、その時だった。


 外から、けたたましい爆音が響いてきた。複数の車やバイクの排気音と、けたたましいクラクションの音が入り混じっている。まるで、近くに集結して派手に繰り出そうとしているかのように、気勢を上げながらこちらに近づいてくるのが分かる。


 (悪ガキどもめ……!) 林田未結司令官はそう思うと、あっという間にドアを開け、外に出ていった。他のメンバーも、何事かと彼女の後に続いた。


 他の者が外に出た時には、林田未結は既に二台のワゴン車の前に立ちはだかり、それらを守るようにしていた。気勢を上げながら近づいてきていた者たちは、片っ端から路上に駐車している車を破壊しながらやってきていたから、彼女のワゴン車も標的になると思ったのである。


 林田未結は、二十数名もの者たちと対峙していた。改造車に乗った男たちの手には、鉄パイプやバット、木刀など、様々な武器が握られている。彼らは車やバイクを降り、林田未結たちにじり寄ってきた。


 リーダー以下、十二名のメンバーが倉庫の外に出てきた時、さすがに襲撃者たちはわずかに後退した。いずれも並外れた体格の持ち主なので、彼らに気圧されたのだろう。


 しかし、リーダー格と見える一人の男だけは、後退しなかった。彼の沽券に関わることなので、意地でも後退するわけにはいかないのだろう。


 林田未結は命令口調で言い放った。

「ここを立ち去りなさい」


「うるせぇ! どこにいようと俺たちの勝手だ。そこをどけ!」

 男は怒鳴りつけ、木刀を振り上げて威嚇した。


 ワゴン車を破壊し、さらに気勢を上げるつもりなのだろう。しかし、林田未結は一歩も動かない。


「退かないなら痛い目を見てもらうぞ」

 男は、再び威嚇した。


「痛い目? 何それ? 私に?」

 林田未結は、嘲るように応じた。その態度が、相手の男をさらに怒らせた。男は木刀を構え直す。


「気をつけた方がいいですよ! そいつは、かなりの腕前だ!」

 高田が、心配とも煽りともつかない声で叫んだ。彼の顔には、「面白くなってきた」と言わんばかりの表情が浮かんでいる。


「今ならまだ逃げることができるぜ。俺は女でも容赦しないからな」

 木刀を上段に構え、すぐに攻撃できる姿勢を見せながら、リーダー格の男は言った。


「ごちゃごちゃ言わないで、早くかかってきなさい」

 林田未結は、そう挑発した。


 次の瞬間、男の木刀が「すっ」と動いたかと思うと、無駄な動きが一切ない、かなりのスピードで林田未結に打ち込んできた。





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