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組織 三.

 林田司令官は自室で今後のことを考えていたが、思考がまとまらずにいた。なぜか、過去の出来事が鮮明に思い出される。それは、決して良い思い出ではなかった。


 林田司令官は、この次元の地球ではない、異次元の地球からやって来ていた。


 彼女が属する次元の地球は、気候変動が想像を遥かに超えて進行し、人間はもはや外に出ることすらできなくなっていた。厚く黒いガスが地球全体を覆い尽くし、地表の気温は摂氏二百度にも達する。生存を許されたのは、地下深くに築かれた広大な空間だけだった。わずかな種類の動植物を連れて必死に地下へと潜り、命を繋いでいる。


 地下空間は広がり続けたが、やがて、地表に近い層から、有毒物質が徐々に、しかし確実に迫り始めた。とっくの昔にオゾン層は消失し、大気の組成そのものが変わってしまい、地球には有害物質が絶え間なく降り注いでいたのだ。科学技術は驚くほど発達していたが、それらを除去することは不可能だった。しかし、人類は自らの肉体を改造することで、その過酷な環境に対する抵抗力を高め、かろうじて生き長らえてきた。そして、そこには明確な階級が存在し、財力次第でその地位は決定される。林田の異次元の地球は、大きく四つの階級に分かれていた。


 最も上位に位置するのがヘビーマシンクラスだ。彼らの肉体は、重厚な特殊合金へと変わり、内臓は高性能な人工臓器に置き換わっている。皮膚さえも人工だが、精巧に作られているため、生身の肉体と見分けがつかない。脳の大半は電脳が支配しており、思考は常に論理的で効率的だ。加藤支部長が、このクラスに属する。


 二番目のクラスはライトマシンクラスだ。彼らの体はヘビーマシンクラスとほとんど変わらないが、体が軽合金でできており、ヘビーマシンクラスに比べるとスピードで勝るものの、パワーと耐久性では劣る。三宅副支部長が、このクラスに属している。  このマシンクラスの者たちは、電脳のおかげで既成概念の枠内で優れた能力を発揮するが、創造力に欠けているという代償を負っていた。それが、脳の大半が電脳に支配されたことの代償なのだろう。


 三番目が、林田司令官の属するバイオクラスである。彼らは遺伝子操作によって、肉体を強化人間へと改造されている。人間としての感情や創造性を保ちながら、身体能力を飛躍的に向上させているのが特徴だ。


 そして最下位は、人間のままの者たちだ。彼らはあまりにも脆弱で、広がる有害物質汚染に抵抗することができず、次々と死滅していっていた。


 地下空間の広がりも、もはや限界に近づいていた。  そんな中、新天地を探すために、バイオクラスの科学者によって次元転送装置が開発された。マシンクラスは創造力が豊かではないため、発明家や科学者には向かない。脳の大半が電脳になったことの、皮肉な代償だった。


 次元転送装置が完成し、新天地を目指す直前、マシンクラスの者たちに見つけられ、強奪された。彼らは、次元転送装置によって林田がいる現在の次元の地球の座標を発見すると、バイオクラスの者を配下とし、この地球を移住先として適当な地にするための活動を始めた。その活動とは、自分たちに有益な人間を選別することだ。無用な者は容赦なく抹殺するつもりでいる。そして、汚染のない新たな地球を、彼らのものにしていくのだ。


 彼らアークの者たちは、これ以上地球を汚染したくないという理由から、大規模な戦闘を避けている。もし、本格的な戦闘を仕掛ければ、呆気なくこの地球を支配できたであろう。しかし、その時、この次元の地球もまた、傷つき気候変動が激しくなり、彼らがいた次元の地球に近づいていってしまう。そうなれば、彼らが欲している「汚染のない地球」が手に入らなくなるからだ。


 林田司令官は、自室のインターホンで部下の桐生を呼び出した。夏目も直接の部下だが、彼女は桐生の方が好みだった。夏目は確かに有能な部下だが、頑固で融通が利かない。しかし、時には彼の戒めの忠告にハッとさせられることもある。一方、桐生は機転が利き、自分とは馬が合う。桐生と夏目がいて、ちょうど良いバランスが取れているとは思っているが、どうにも夏目は苦手だった。


 ノックの音と共に、桐生が部屋に入ってきた。


「今後、四石シセキの捜索は、私が直接指揮を取る。桐生も同行し、私のサポートをするように」

 林田は、命令を告げた。彼女の瞳には、強い決意の光が宿っている。


「分かりました」

 桐生は、迷うことなく頷いた。


「すぐに出発する。準備をしてきなさい」


 桐生は林田司令官の部屋を出ていった。


 林田司令官も出発準備を始めた。もう、このアークの基地に帰って来る気はない。それを組織の者に悟られないよう、沢山の荷物を持って行くわけにはいかない。彼女は、最低限のものだけを選び出した。


 林田司令官は自室を出て、桐生と合流した。二人は支部の駐車場に行き、一台の白のセダンに乗り込む。林田司令官がハンドルを握り、ゆっくりと発車した。セダンはアーク日本支部の基地を静かに、しかし確かな意志を持って出ていった。





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