組織 二.
支部長室に入ると、既に二人の男女がソファに腰掛けていた。三宅副支部長と林田司令官だ。
加藤支部長は自身のデスクへ向かい、席についた。支部長は角張った顔つきで、体は見るからに頑丈そうな体格をしている。三宅副支部長は正反対に丸い顔つきで、なで肩。滑らかな体形と表現すべきだろう。林田司令官は痩身で、細面だ。三者三様の容姿は、彼らの背景にある何らかの違いを示唆しているかのようだった。
加藤支部長は、塚田俊也と交わした会話の内容を二人へと簡潔に伝えた後、三宅副支部長に尋ねた。
「人選は順調か?」
「はい、支部長」
三宅は澱みなく答えた。
支部長は小さく頷いた。次いで、林田司令官へ視線を向ける。
「司令官。四石の方は手間取っているようだな。桐生には発破をかけておいたぞ」
加藤の声には、僅かながら不満の色が滲んでいるようだった。
「申し訳ありません、支部長。全力で捜索いたします」
林田は、表情を変えずに答えた。
「我々アーク日本支部の発言権を飛躍的に高めるためにも、四石を探し当て、何としても大きな実績をあげなければならない」
加藤の言葉には、組織の目標達成への強い執念が感じられた。
「早速、桐生と打ち合わせます」
林田司令官はそう言うと、一礼し、足早に部屋を出ていった。
「……あいつは、油断ならん女だ。命令には素直に従うが、その目には常に反抗心が宿っている。陰で何をやっているか分からん」
林田が去った後、支部長は小さく呟いた。その声には、彼女に対する深い不信感が込められている。
「確かに、支部長のおっしゃる通りです。マシンクラスである我々に反旗を翻すかもしれません」
三宅副支部長が、支部長の言葉に同意した。
「奴ら、バイオクラスには、そんな力はない」
加藤は、冷徹な口調で言い放った。彼の言葉の端々には、強化人間に対する明確な軽蔑が感じられる。
「我々と違って、感情の起伏が激しいので、無謀なことも平気で行うかもしれません」
三宅は、さらに意見を述べた。
「心配するな。我々に勝てるわけがない」
加藤の言葉には、揺るぎない自信が宿っていた。
「しかし、もし四石の能力を奴らが手に入れたら、どうなるかは分かりません」
三宅の言葉に、わずかな懸念が滲む。
「それもそうだな。四石を奴らの手に絶対に入れさせてはならない。人間にも手に入れさせてはならん。頃合いを見計らって、司令官は四石捜索から外すことにする。司令官から目を離すな」
加藤の目は、冷たい光を放っていた。彼の指示は、林田司令官に対する警戒が、ただの推測ではないことを示していた。
支部長室を出て、遠くに立ち去っているはずの林田未結司令官は、支部長室を出てすぐの廊下に立っていた。
林田司令官は、ドアの向こうから漏れ聞こえる会話を耳を澄まして聞いていたのだ。常人ならば全く聞こえないであろう、ひそやかな会話を、まるで目の前で話しているかのように鮮明に聞くことができる。彼女は、人間の聴覚を遥かに超える能力を持っていたのだ。
林田司令官は、心の中で舌打ちした。 (四石は私が絶対に探し出してやる。奴らの思い通りにさせるものか) 彼女の心の中には、明確な反骨心と、彼らとは異なる目的が渦巻いていた。
林田司令官は、自身の部屋へと向かって移動を始めた。その動きはほとんど音を発しない。まるで猫のように、しなやかで優雅な動きだ。しかも、その移動速度は、常人には追いつけないほど速かった。強化された身体能力は、彼女の意志に完璧に応えていた。
支部長室から三宅副支部長は出ていこうとしたが、その足が止まった。彼は振り返り、再び支部長と話し始めた。
「支部長。林田司令官が立ち聞きしていたようです」
三宅の声には、わずかな驚きが混じっている。
「あの移動の仕方は、普通の人間にはできないからな」
加藤支部長は、まるで当然のことのように応じた。支部長と三宅副支部長も、常人では聞こえるはずのない、林田司令官が移動する際の微かな音を聞いていたのだ。いや、彼らの聴覚は、林田司令官をも凌駕していた。それは、機械的な精度と感度を持つ聴覚だった。
「頃合いを見て、司令官を**拿捕**しろ。スピードもパワーも、お前の方が勝るからな。バイオクラスの奴らは、何かを企んでいるかもしれない。吐かせてやる」
加藤は、冷徹な命令を下した。彼の声には、林田を道具のように扱う響きがある。
「分かりました」
三宅副支部長はそう言うと、部屋を出ていった。彼の動きは滑らかで、一切の無駄がない。サイボーグとしての彼の性能が、その一挙手一投足に現れているかのようだった。