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警察署

 青島孝と関森由紀、そして関森康夫の三人は、今、警察署の一室にいた。


 署長の荒々しい声が、隣の部屋から漏れ聞こえてくる。彼は、部下と話しながら、苛立ちを隠せない様子でぼやいていた。


「こんなことは初めてだぞ! うちの管轄で、まさかこんなことが起きるとは……手榴弾にミニロケット弾だと!」

 署長は語気を荒げ、その憤りが部屋中に響き渡る。


 部下が、手榴弾と麻酔弾によって負傷した十二人の警察官の状況を報告する。

「しかし、署長、不思議なことに、手榴弾による爆発で重傷者はいないと連絡が入りました」

 警察官たちは、由紀が治療を施したことをまだ知らず、その不可解な状況に首を傾げているようだった。治療を受けた警察官たちが、信じてもらえないと考え、由紀の能力については話していないのだろう。


「犯人の行方は分かったのか?」

 署長の声には、焦燥が滲んでいた。


「近隣の署にも協力を要請し、捜査範囲を広げていますが、いまだに消息が掴めません。なにしろ、目撃者が全くいないものですから……」

 部下の報告は、事態の難航を示していた。


 署長は視線を青島孝たちのほうに向けた。

「関森さん」


「はい」

 関森由紀と関森康夫が、同時に返事をしてしまう。


「失礼、関森さんはお二人いましたな」

署長は苦笑いを浮かべた。

「とりあえず、お尋ねすることはなくなりましたので、もうお帰りいただいて結構ですよ」


「もしよろしければ、朝までここにいてもよろしいでしょうか? ああいうことがあったものですから、少し不安で……」

 関森康夫が、遠慮がちに尋ねた。彼の顔には、まだ事件の余波による疲労が色濃く残っている。


「構いませんよ。特別に応接室を開放しましょう。どうぞ、ごゆっくりお休みください」

 署長は、彼らの状況を察してか、快く承諾した。


「ありがとうございます」

 康夫は、心から感謝の言葉を述べた。


 広々とした応接室のソファに、関森由紀は一人、深く腰掛けていた。膝に置かれたザックの中をぼんやりと見つめながら、彼女は少し前の、関森康夫との会話を思い出していた。


「由紀ちゃん、智石ちせきを預かって欲しい。そして、四石シセキ全部を守って欲しい。君は関森家の正当な後継者だ。それだけの能力が、君にはある」

 康夫の言葉が、由紀の心に重く響いた。


「私が……?」

 由紀は、戸惑いを隠せない。


「関森家は、代々、この四石を守ってきた一族なのだ。関森家の者は、石のパワーそのものを得ることはできない。だが、その代わりに、石を守るための特殊な能力を代々備わってきた。しかし、時として、その守るための能力を授からない者もいる。私達兄弟も、残念ながらその能力を授からなかった」

 康夫の言葉には、どこか諦めと、責任を全うできなかった悔しさが滲んでいた。


「……」

 由紀は黙って、彼の言葉に耳を傾ける。


「本来であれば、能力を持つ者が四石全部を守っていくのが宿命だ。だが、守るための能力を持たなかった私達兄弟が選んだ策は、各自が一個ずつの石を守るという方法だった。つまり、危険を分散させる。兄弟はそれぞれが遠く離れて暮らし、一度に四個の石を集めにくくしたのだ。由紀ちゃんのお父さんは、その中で本家を継いだ」


「なぜ、伯父さんは長男なのに、本家を継がなかったの?」

 由紀の素朴な疑問が、康夫の心に痛みを伴う記憶を呼び起こした。


「恥ずかしいことだが、私は逃げたのだ。本家を継ぐという重責を恐れた。ただでさえ、石を守るという途方もない使命があるというのに、本家まで守る責任は、私には耐えられなかったんだ」

 康夫の表情に、深い後悔と、過去の弱さが浮かび上がる。


「それで、お父さんが継いだの……?」

 由紀は、改めて父の重責を感じ取った。


「そうだ。そして、本家を継いだ父さんは、**『抗石こうせき』**を守っている。抗石は、四石の中でも、もっとも重要な石だ。抗石のパワーを得ずに他の石のパワーを得ると、体がその途方もないパワーに耐えられず、破滅してしまうからだ」

 康夫の言葉は、智石のパワーを得た塚田俊也の身に起きた異変と重なり、由紀の胸に重くのしかかった。


「私だって、四石を守る自信はないわ……」

 由紀は、その重責に押し潰されそうになりながらも、本音を漏らした。


「由紀ちゃんは正当な後継者だ。守っていくのが君の使命だし、何よりも、君にはその能力がある」

 康夫は、由紀の肩に手を置き、強く、しかし優しく語りかけた。


 関森由紀は、康夫の心臓が悪かった原因が、智石を守るという精神的な重圧にあったことも知っていた。その使命感が、彼を蝕んでいたのだ。由紀は、自分もまたその使命を背負うことになると悟った。そして、彼女自身、使命感が強い性格ゆえに、康夫の申し出を断ることはできなかった。さらに、一緒に話を聞いていた青島孝からは、迷うことなく助力の申し出があったのだ。


「分かったわ。……やってみる」

 由紀は、覚悟を決めたように答えた。


 青島孝と関森康夫は、応接室を関森由紀一人に使わせることにした。今日の事件で一番の功労者であり、精神的にも肉体的にもかなり疲れている様子だったので、ゆっくり休ませてやるべきだと判断したのだ。


 関森由紀はソファをベッド代わりに横になった。しばらくの間、今日あった出来事や、これから訪れるであろう未来について、様々な考えが頭の中を駆け巡っていたが、いつの間にか深い眠りに落ちていった。


 青島孝と関森康夫は、警察署の隅のほうで、長椅子を借りて横になった。関森康夫は疲労困憊していたため、すぐに眠りに落ちた。青島孝もまた疲れていたが、一連の事件の興奮が冷めやらず、すぐには寝付けなかった。しばらくすると、署長とその部下とのひそやかな会話が聞こえてきた。


「その後、何か分かったか?」


「何もありません。進展なしです」


「そうか……」


「上への報告は、もう済んだのですか?」


「ああ。それなんだが、**『特捜』**が出動するので、もし、ここに来たら協力するようにと指示があった」


「**『特捜』**というのは、まさか、あの特捜のことですか……?」

 部下の声に、明らかに緊張が走った。


「はっきりしたことは言わなかったが、おそらく**『X特捜エックスとくそう』**と呼ばれている、あの謎のチームに違いないと思う」


「『X特捜』……! 数々の難事件解決の際には、必ず大小なりとも関わっていると聞いたことがあります」


「トップから直接指令を出されるとか言われているが、実際はどうかわからん」


「それに、捜査に超能力を使うという噂も……」


「わけの分からん連中に、ここを荒らされたくはないがな」

 署長はそう吐き捨てるように言い、重い足取りで署長室に入っていった。



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