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女の子を拾ったんだけど、アンドロイドだなんて信じられる?  作者: 南野 雪花
第1章 ボーイミーツセクサロイド?
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ウエノ大迷宮 5


 最下層、シンカンセンの乗降場である。

 そこへと降りる階段はいくつもあるのだが、降りてしまえば段差はあるものの水平移動が可能だ。


「これがハヤブサかの……」


 感慨深げに緑と白にカラーリングされたシンカンセンを、ヴォーテン卿が見つめる。

 外気に晒されてこなかったため、けっこうきれいな状態だ。


 このオリエントドラゴンのように長い自動馬車が、千キロ彼方のサッポロまでをわずか半日で走り抜けていたのだという。

 にわかには信じられないが、紛れもない事実らしい。


「すげえな……」


 ぺたりぺたりとシリングが車体に触れる。


「地上を走る乗り物で、シンカンセンを超える速度のものはないわ。瞬間的にはフォーミュラカーの方が速いけど、一人乗りの上に一回の給油で百キロも走れないんじゃ移動手段としては零点ね」


 ミクが解説してくれる。


「さすがに詳しいのう。ミク坊や」

「じっさいに見たのは初めてなんだけどね。ある程度の知識はマザーから教わってるのよ」


 自慢げだが、教わった知識のうち三割くらいは役にも立たないエロ知識なんだろうな、と、シリングは邪推する。

 もちろん彼は余計なことは口にしなかった。

 言語化したのは別のことだ。


「それで、このシンカンセンをどうするつもりなんですか? ヴォーテンさま」

「もちろん、持って帰るんじゃよ」


 しれっと応える老魔導師。

 トレジャーハンターは一瞬の自失のあと、呆れたように口を開く。


「いやいや。どうやってですか。どんだけ大きいんですか。これ」


 びっくりである。

 ざっとの目算で三百メートくらいの長さがある巨大な物体だ。ほいほいって持ち運べるようなものじゃない。

 レッシャは自力移動もできる乗り物らしいが、線路がないと動けないはずだ。


「べつに全部持って帰ったりはせんよ。見たところ何台も繋がってこの長さじゃろ」

「そうね。ハヤブサは十両編成で編成長は二百五十三メートル。先頭車両二十七メートルくらいで、中間車は二十五メートルよ」


 ミクが解説してくれる。

 ようするにヴォーテン卿は、先頭の一両だけを持って帰ろうとしているのだ。

 だが、それだって二十七メートル近くある。


 人力で動かせるようなシロモノじゃない。


「どうするんですか? いったい」

「こうするのじゃよ。『小さいこと(スモーラーイズ)いいことだ(スマーター)』」


 老魔導師が杖をシンカンセンに向ける。

 すると、光に包まれた車体がみるみるうちに小さくなってゆくではないか。


「うお……」

「わぁお!」


 シリングとミクが、それぞれの為人(ひととなり)で驚愕を表現する。

 やがて、ハヤブサの先頭車両は十分の一くらい大きさになり、線路にちょこんと鎮座した。


 なんだかやたらと可愛らしい姿だが、それでもまだ大きい。

 長さ三メートル近くのものを、三人で引っ張って地上に戻るというのは、いささか難事といえるだろう。

 平地ならまだしも、階段はほぼ無理だ。


「せめて五人いれば歩いて戻るという選択肢もあったのじゃがの」


 ひとしきり死者を悼み、老魔導師が線路に降りる。

 そもそも、ここから乗降場に持ち上げるだけでも大変だ。

 ちょいちょいとシリングとミクを手招きしたりして。


「魔力を節約しながらやってきたのが、ここで活きるわけじゃな。二人ともシンカンセンの上にのるのじゃ」


 そういって、まずはヴォーテン卿がまたがる。

 シリングは喜んで、ミクはなんだか恥ずかしそうに続いた。

 並び順は、ヴォーテン卿、シリング、ミクである。


 チキュウの人々なら、遊園地などに電車型の遊具を思い浮かべるだろう。いい歳こいた連中がそれに乗っているわけだから、失笑しちゃうかもしれない。

 もちろんこの世界にそんなものは伝わっていないから、恥ずかしがっているのはミクだけだ。


「しっかり掴まっておるのじゃぞ。『私をどこかへ(ブローミートゥ)……』」


 三人を乗せたちっこいシンカンセンが眩く輝き、一瞬後、ウエノ大迷宮の最深部から姿を消した。





「お帰りなさいませ。旦那様、シリング様、ミク様」


 光とともに現れた奇妙な物体に動揺することなく、ウィルソン氏が一礼した。

 出発時と人数が変わっていることについて、とくに訊ねることもない。


 危険と隣り合わせの迷宮探索である。

 犠牲が出る可能性は、最初から織り込み済みだ。


「馬車でこのシンカンセンを曳航するのじゃ。ウィルソンや。魔法は一日しか保たぬゆえ、宿場近くまで運んで停めておく場所を決めねば、街道を塞ぐことになってしまうからの」


 手早くヴォーテン卿が事情を説明し、全員で協力して車体後部の連結器にロープをくくりつける。

 シンカンセンの車輪は鉄製で、あまり街道を走るのには向いていないが贅沢はいっていられない。


 魔法が解けた瞬間、高さ四メートル近く、幅三メートルちょっともあるような物体に早変わりしてしまうのである。


「ヴォーテンさまの魔法でソルレイまで跳ぶってのはできないんですか?」

「もう魔力が残っておらぬのう。それに、シンカンセンなんぞがいきなり王都に現れたら大パニックじゃよ」

「たしかに」


 毎朝魔法で小さくし、宿場近くまで曳航するという方法が、最も衝撃が少ない。

 王都ソルレイが近づけば、黙っていても騎士団が迎えにくるだろうし。


「それでは、出発いたします」


 御者台に座ったウィルソンが手綱をしごいた。

 ゆっくりと動き出す馬車とシンカンセン。

 シリングとミクも車両の横を歩きながら動かすのを手伝う。


 ゴムタイヤでも履かせれば、もっとずっとスムーズに動くだろうが、無い物ねだりをしても仕方がない。


「しっかし……トレジャーがシンカンセンとはな……」


 呟く。

 スケールのでかさにびっくりだ。

 こんなの超一流のトレジャーハンターでも持って帰れない。


「シリング坊、ミク坊、報酬ははずむからの」


 馬車からヴォーテン卿が声をかける。


 彼にしてみれば命の恩人だ。

 二人がいなかったら、バルログに殺されていたのだから。


 しかも、けっこう急いで行動していたため、シリングは満足に探索をおこなえなかった。


 ウエノ駅の構内にあった土産物屋跡でいくつかのお宝をゲットしただけである。

 トレジャーハンターとしては、けっこうしょんぼりな結果なのだ。

 そのへんの事情も考慮して、老魔導師は報酬の上乗せを申し出てくれた。


 思わず顔を見合わせる少年と少女。

 だったら願うものはひとつしかない。


『魔法を教えてください!』


 声をハモらせる。

 だってすごかったんだもん。ヴォーテン卿の魔法。


 シリングの短剣に魔力を付与したやつも、バルログにぶつけたやつも、シンカンセンをちっちゃくしちゃったやつも。

 憧れるなという方が無理というものだ。


 ふぉふぉふぉ、とヴォーテン卿が笑う。


「第一位階のものを、ひとつだけじゃよ」


 などと言いながら。

 孫におもちゃをせがまれたお爺ちゃんである。まるで。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 結局 地下迷宮の主はバルログってことになるのでしょうか。
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