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女の子を拾ったんだけど、アンドロイドだなんて信じられる?  作者: 南野 雪花
第1章 ボーイミーツセクサロイド?
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ボーイミーツセクサロイド? 1


 突如として足下が崩れる。


「くっ!?」


 シリングがとっさに伸ばした左手は、むなしく風を掴んだだけ。

 なすすべもなく数メートルの距離を滑落してゆく。


「あがががっ!」


 お尻とか頭とかをあっちこっちにぶつけながら。


 油断だった。

 けっこう頑丈に作られている遺跡だって歳月の重みには勝てない。どこが脆くなっていてもおかしくはないのだ。

 迫りくる床を視界の片隅に捉えながら、彼は身体を丸めて防御姿勢をとった。


 衝撃。

 舌を噛み切らないように固く結んだ口から、ふ、と短く息が漏れる。

 そのままごろごろと床を転がって、落下ダメージを逃がす。


 鋭い身のこなしだが、この程度は少年でなくてもトレジャーハンターなら誰でもできるだろう。

 危険と隣り合わせの遺跡に潜っているのだ。

 対処能力が低かったら生き残れない。


「あたたた……油断したぜ……」


 なんとか身を起こし、怪我がないことを確かめながら周囲の状況を確認する。

 かなり上の方に、いま自分が落ちた穴が見えるが、さすがにジャンプして届く距離ではない。


 最深部だろうか。

 なかなかに危機的な状況だ。帰還の方法が判らなければ、ここで餓死するしかないのだから。


「けど、ついてる」


 ひとつ頭を振って陰性の思考を追い出す。

 他のトレジャーハンターが入ったことのない場所なら、貴重な遺物が手つかずで残っている可能性が高い。

 まとめてゲットできるチャンスなのだ。


「出口は、まあなんとかなんだろ」


 ぱんぱんと服を叩いて埃を落とし、背負い袋から取り出したゴーグルを装着する。

 これもまた遺物のひとつで、暗視の魔法のような効果がある逸品だ。

 光源に乏しいような場所でも、けっこうものがはっきり見える。


「遺物を探しながら、ついでに出口を探す。方針としてはこんなとこだな」


 にっと唇を歪めた。

 主目的と副目的が見事に逆転してしまっているが、これは少年が異常なわけではない。


 そもそもチキュウ人の遺跡というのは迷宮(ダンジョン)ではないのだ。

 たいていはなんらかの施設だったり、住居だったり、基本的には使う人が便利なように作られている。

 入ったら最後、二度と生きては出られない構造になっているというのは、そうそう滅多にない。


「噂のシンジュク大迷宮とかなら話は別だろうけどな」


 例外の方を口にしながら探索を開始する。





 だいたい百年くらい前のことらしい。


 世界は、チキュウという異世界と混じってしまった。

 なんの予兆もなく。


 剣と魔法が支配し、モンスターや魔族が闊歩するガリア王国にも、多くのチキュウ人が現れ、チキュウの建造物が出現した。

 大災害『ミキシング』という。


 もちろん世界中が大混乱に陥った。

 侵略だと判断され、戦争になった場所だって珍しくない。


 世界の人々がそうであるように、チキュウ人も混乱していたのだ。

 攻撃されたら、とんでもない威力の武器を手に取って反撃する。


 そうやって、各地で血みどろの戦いが起きたが、なかには冷静に現状を受け止め、折り合いをつけていった人々もいる。

 ここガリア王国に現れたチキュウ人たちがそうだ。


 王国政府と折衝をおこない、平和的に共存しつつ帰還の道を探るという選択をした。

 しかし、彼らの宿願は叶わなかった。

 みんな死んでしまったから。


 ものすごい科学力を持っていたチキュウ人たちだが、なんと彼らは身体が弱かった。

 ガリアの水も食べ物も、チキュウ人たちにとってはたいへんに不衛生で、とてもそのまま口に入れられるようなものではなかったらしい。


 だが、衛生的な食料や住居を入手する方法はない。

 チキュウ人の文明は、基本的に電気や化石燃料がないと使えないものばかりであり、それらをガリア王国が提供してやることはできなかったのである。


 老人や子供など、まず体力のないものから病に倒れ、最後の一人が亡くなったのは『ミキシング』から五十二年後のことだった、と、ガリアの公式記録には記載されている。


 もちろん半世紀もの間、チキュウ人たちは一切の交流を拒んでいたわけではない。

 多くの混血が生まれたし、彼らの持っている様々な知識も伝えられた。


 度量衡や数学、冶金学や医学をはじめとした学問、時間や言語など。


 だからこの場合の最後の一人とは、純血のチキュウ人という意味である。


 とはいえ、数千年にも及ぶチキュウの歴史を、たかだか五十年ちょっとですべて伝え、実践させることなどできない。

 ちょっとした農業技術だって、ちょいちょいと知識を伝えて、ハイやってみて、というわけにはいかなのだ。


 最後のチキュウ人が亡くなると、ガリアにはチキュウ文明の伝え手がいなくなってしまった。


 というより、チキュウ人の二世代目くらいから、どんどんその傾向は深まっていたのである。

 実際、最後の一人である第三世代の男性は、ガリア人とほとんど同程度の知識しか持っていなかった。

 その意味では、第一世代の全滅とともに、チキュウの知識は失われてしまったといっても過言ではない。


 失われていくチキュウ文明を、誰より惜しんだのはガリア王であった。


 感傷ではない。

 これほどの知識・技術を正しく用いることで、ガリア王国は千年の栄華を手に入れられる。そう考えたのである。


 王国政府は、住む人のいなくなったチキュウ人の街から遺物を回収することを奨励した。

 高値で買い取る、と。

 その話に食い詰め者どもが乗った。


 これが、遺跡漁り、冒険者、探索師、あるいは、トレジャーハンターと呼ばれるものたちのスタートである。


 


 暗い通路を進むシリング。

 その耳は、かすかな機械の駆動音を捉えていた。


「施設が生きているのか……」


 ゴーグルの下で目を細める。

 話には聞いたことがあった。チキュウ人たちの施設には自力で発電することのできるものもあり、それらは半永久的に生きているのだと。


 だとしたら、とんでもないアタリである。

 自力発電システムなんか持ち帰ったら、そりゃもう一生遊んで暮らせるだけの褒賞が得られるのだ。


 ただし、持ち運べるようなものとは限らないし、動かそうとしたら壊れちゃった、なんて話もよく聞くから、慎重に行動しなくてはいけない。

 なんだかんだいっても百年も昔の施設なのである。

 それだけの時間が経っていたら、いつ壊れたっておかしくないのだ。


「お。文字発見」


 足を止め、壁に取り付けられたプレートを眺める。


「この綴りは……ニホン語だな。下にアメリカ語を併記しているのか」


 ふむと頷く。

 となれば、ニホン人とアメリカ人が雑居していた施設かもしれない。


 隠し(ポケット)から野帳(レベルブック)をとりだし、プレートの文字と見比べる。

 自作の文字対応表である。


「稼働……かな? 実験? ううむ……」


 ちょっと言葉が難しすぎてよく判らない。

 アメリカ語はまだしも、ニホン語というのはとにかく語彙が多くて複雑なのだ。


 トレジャーハンターとして活動をはじめて四年、けっこうチキュウ語を頑張って勉強しているが、完璧からはほど遠いのである。


「とにかく、なんか作ってたってことだよな。うん」


 理解した。

 工場だったのだ。

 きっとそうに違いない。


 深く考えるのをやめ、シリングは歩き出す。

 やがて、なにやら不思議な扉が目の前に現れた。

 おそらく横開きなのだろうが、取っ手がない。扉の横にはちょっとした機械がついている。


「指紋認証とかだったら厄介だな。施設も生きてるっぽいし」


 ふーむと考えた末、彼が取った行動は、


「うおりゃあぁぁっ!!」


 扉を破壊する、だった。


 短剣の柄頭で、がっこがっこと扉をぶん殴る。

 だってしょうがないじゃない。

 スマートにセキュリティを突破する方法なんかないんだから。


 謎の言い訳をしながらぶっ叩いたり、蹴飛ばしたり、隙間に刃を入れて押し広げたりして、なんとか人間が通れるようにする。


 警報などは鳴らなかった。

 そこにまでエネルギーを回す余裕がない、ということだろうか。


 安堵の息を吐きながら部屋へと入るむシリング。

 そしてそのまま息を呑んだ。


 広い部屋。

 その中央部にはクリスタルガラスのように透明で巨大なカプセル。


 水のようなものが満たされたそこに、

 裸の少女が眠っている。


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― 新着の感想 ―
[一言] 舞台が現代ではなく、宝探しを物語にするだけでSF感やワクワク感 増してきますね。
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