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Blackstorm Ship's log  作者: ノアール
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第3話:裏切りと初めまして

 シンの語るある事件の話と魔石との出会いのお話

 ここはポートロイヤル。

古代には王朝が存在したが悪魔たちがはびこった時代に滅ぼされた。が、流通の要だったこの地点を取り返そうと商人たちが資金を出して冒険者や各国の強者たちを雇い、悪魔たちを討伐して奪還した。

よってこの島は商業の要であると同時に人間たちの悪魔に屈さないと言うシンボル、世界中の国々が力を合わせた事の象徴とも取れる島である。

そして、この島は何よりも他の島々と違う点が有った。それはどの国にも属さない島と言う事であった。

この島は悪魔に滅ぼされた後に強国と呼ばれた国々が奪還に軍や冒険者を派遣した為に島の所有権は明確にどの国に有ると明言されなかった。

その為にこの島は商人の国と呼ばれており、大国の商館が名を連ねるもポートロイヤルへの輸出には関税が敷かれない為にどの商業ギルドも必ずこの島を流通ルート上に乗せた。

更にはこの島に住んでいる者は世界のどこで戦争が起きようとも徴兵される心配は無いので楽園とさえ呼ばれた。

世の全ての商人はポートロイヤルに出店出来る事を誇りに思っており、例え露店だったとしてもポートロイヤルで出店しているのは商人たちにとっては大いにステータスとなる物であった。

だが、光が強ければ闇も濃くなる。

大国の商館が求める物の中には違法な物品や陽の当たる場所では取引等出来ない物も至極当たり前に存在した。その為、この島には汚れ仕事用のごろつきや海賊も少なからず存在していた。

そして、この話の主人公シンもこのポートロイヤルにアジトを構える海賊の一人である。

シンは汚れ仕事等は何もしなかったが、ある理由から有名となっていた。

そして、ここはポートロイヤルにある酒場「眠るフクロウ亭」

シンたちは冒険を終えるとこの酒場に顔を出すのが習慣となっていた。

理由は至極簡単。従業員の女性が可愛いので船員たちの機嫌が良くなるのと飯と酒が美味いからである。

シンとヴィンセントは階下で大騒ぎするクルーたちを眺めながら酒を飲んでいた。

「今回の航海も上手くいったな。魔宝ミミックが無かったのは残念だが、かつてこの海に名を轟かせた同業者の宝物庫に辿り着いたのは運が良かった」

今回の冒険での収入金額に満足したヴィンセントはそう言うがシンは何も満足していない様子だった。

「そうか?それは良かったな。俺はガッカリだ。魔宝ミミックも無かったし、大して冒険らしい事もしてない。宝物庫の番人もそんなに強くなかったし」

シンが拗ねた様に言うとヴィンセントは首を横に振る。

「良いか?全員無事に帰って来たんだ。その上で大金も入手した。俺たちはこの海賊団の責任者だ。お前が冒険と魔宝ミミックを求めるのもわかるが、クルーの命を預かってる。ってのは忘れるなよ?」

ヴィンセントに諭されたシンは酒を飲み干すと立ち上がる。

「そんなのはわかってるよ。でも、俺は冒険がしたくて海賊になったんだ。誰よりも自由に生きる為に」

シンはコートの内ポケットから皮袋を出すと階下に向かって叫ぶ。

「おい!お前ら。今回の航海も大成功だったな!?」

シンの声に呼応してクルーたちが大声を張り上げる。中には歌う者も居た。

「今日の俺は気分が良い。クルーを一人も失う事無く、無事に帰還出来たんだからな。だから、今日のこの店での飲み食いは全部俺が支払ってやる。うちのクルーじゃなくてもな!それと、これは大騒ぎしている迷惑料だ。受け取ってくれ!」

シンはそう言うと皮袋から金貨を酒場中にばら撒いた。

そう、シンは人間相手に略奪行為をしない魔宝ミミック専門の海賊と公言している為(今回の宝物庫は船員が全員死亡している亡霊海賊団が相手だった)に商業船の乗組員からも評判が良い上に帰還後の宴で必ず金貨をばら撒くのでポートロイヤル内外問わずの有名人となっていた。

シンはその日も浴びる様に酒を飲んだ後に朝日が昇る少し前に船へと戻った。

日が船の真上に昇る頃、シンは叩き起こされた。

「おい!起きろ!!」

シンはベットから叩き落とされたかと思うと蹴られるように甲板に突き出される。

「何だよ?どうした?女が俺に用があるって言ってるなら言いがかりだぞ?」

シンが気だるそうに言うとヴィンセントはシンに手錠をかけてから口を開く。

「シン。お前、今回の航海で得た金品。俺たちの報酬、何処にやった?」

ヴィンセントの問いにシンは目を白黒させながら周囲を見る。

ヴィンセントの様子や周りのクルーの様子からして冗談等では無さそうだ。

だが、シン自身にも心当たりは無い。

「何言ってんだ?報酬の山分けは昨日しただろ?」

シンが訊ねるとヴィンセントはシンを一瞥して話を進める。

「そうだな。報酬の分配は昨日行った。だが、ほとんどのクルーは船に置いていたんだ。

宴の金は俺とお前の2人が払うからな。そうだろ?」

ヴィンセントが訊ねるとシンは頷く。確かに今まで航海の後の宴はシンとヴィンセントが支払っていた。

そして、ヴィンセントが言葉を続ける。

「お前、以前に俺の報酬も酒場にばら撒いた事あったよな?あの時はお前の報酬を0にする事で帳尻合わせられたけどよ。お前、酔った勢いで全員分の報酬ぶん投げたんじゃねぇか?」

ヴィンセントの言葉を聞いてシンは首を横に振る。だが、シン自身もこの状況を理解出来ておらず、言葉は出なかった。

「まぁ、良い。じゃあ、全員分の報酬を何らかの手段を用いて用意しなきゃいけねえな?どうすんだよ。シン」

ヴィンセントに見下ろされながらシンは首を横に振る。

「呆れたな。シン。お前は船長失格だ。海賊ごっこはここでおしまいだ。冒険がしたい?自由に生きる?そんなのは周りを巻き込まずに一人でやれ。お前は「何も無い島」へ流刑にする」

ヴィンセントがそう言うと流石にクルーの中からも反論が出たが、船員投票では賛成が半数以上だった。

こうして、シンは目隠しをされて船底の牢に入れられた。シンは一切抵抗をしなかった。

出来なかった。と言っても良いかもしれない。裏切ったと思われている。死を意味する流刑に半数以上が賛成した。この事実がシンの心に衝撃を与えて衰弱させた。

シンは上陸用の小船に乗せられて島に投げられてから目隠しを外された。

「お別れだ。せめてお前が苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いて生まれて来た事と金貨を投げた事を後悔しながら飢えと渇きの中で死ぬ事を願うよ」

ヴィンセントはそう言うとシンに背を向けて船へと戻っていった。

ヴィンセントたちが居なくなってからもシンの心の中には裏切られた事実、信頼が無かった事実、誰よりも信頼していた一等航海士に軽蔑された事実が渦巻いていた。

太陽はシンを焼き尽くし、日が暮れて夜が訪れると焼けた肌に海風と冷気が襲い掛かった。更には嵐が訪れれば激しい雨と風がシンを襲った。

激しい天候と飢えと渇きがシンを襲った結果、シンの意識は朦朧としていた。

島に放り出されて何日経ったかもわからなくなってからシンの目の前に一人の存在が現れる。

「ねぇ。貴方はどうしてそこに居るの?」

突如、話しかけられたシンは目を開けると全てがぼやけて見える視界の中はっきりと見える一人の女の姿が有った。

「どうして。か。聞きたきゃ、教えてやるよ」

シンが一連の流れを説明すると目の前の女は訊ねてくる。

「どうして抵抗しなかったの?貴方ならそんな連中勝てたでしょ?」

その言葉を聞いたシンは笑みを浮かべる。

「出来ねぇよ。俺にとって大切な仲間だ。あいつらは悪くない。報酬が無くて皆、焦ってたんだ。さて?俺の話はもう良いだろ?お前が死神なのか、悪魔なのかは知らんが好きにして良いぜ?」

シンがそう言うと目の前の女は言葉を紡ぐ。

「残念だけどそのどちらでもないの。貴方にそこで死なれると死骸を眺めなきゃいけないから困るのよ」

シンは女の言葉を聞いて腹が立って来た。

「俺は動けないんだぜ?俺の死骸を見たくないならお前が何処かに行けば良いだろ?」

シンの言葉を聞いた女は反論する。

「私は貴方たち人間と違って、自分の意思で自由には動けないのよ。動こうとしたら私の事を追ってる悪魔に勘付かれてまた追われるしね」

哀しそうな声で言う女の言葉を聞いたシンが瞼に力を込めて目を開くとそこには黒く輝く石が有った。

「驚いたな。俺は石と話してたのか」

シンがそう言うと黒く輝く石は魔力を放出してシンの手錠を破壊する。

「ただの石じゃない。私は魔石。私と関わって沢山の人が死んだわ。私はここで誰にも見つからずに居る方が良いの。動ける様になったんだから、何処かに行って」

魔石によって解放されたシンは立ち上がると周囲を見渡すと魔石を手に取る。

「な、何すんのよ!?」

慌てる魔石に訊ねられると

「いや。ここが何処かもわからなくてさ。助けてくれるなら何処かの島に連れてってくれないか?」

シンは苦笑いしながら魔石に訊ねる。

「私にメリットが無いわね。私は貴方の死骸を見続けたくないだけ。貴方の無事までは保証しないわ」

シンは魔石の言葉に深く頷くと口を開く。

「でもさ。誰からも忘れられて見つからないようにしたいんだろ?それなら、こんな島じゃなくて深い海の底に行くのはどうだ?海には海溝って言って、とても深くて海流が強すぎて誰も寄り付けないなんて場所がごまんとあるんだぜ?石だから「息出来なくて苦しい」とかは無いだろ?」

シンの言葉を聞いた魔石は黒く輝き

「悪くはないわね。でも、私と共に居たら私を追ってる悪魔に襲われるわよ?」

魔石の言葉を聞いたシンは少し考えると魔石に魔力を流し込む。

「…!?え!?…ちょっ…!!?……何して…るのよ……!?」

魔石が焦りながら問いかけると

「ん~?いや。確かに濃い魔力だし、そこらの悪魔からしたら狙われても当たり前だなぁ。って思ったから俺の魔力で覆えばしばらくは持つかな?って思ってさ」

シンが平然と言ってのけると魔石はしばらく沈黙した後に口を開いた。

「なかなか強引ね。こんな事されたら嫌でも協力するしかないじゃない。良いわ。貴方は島へ。私は海底へ。それで良いかしら?」

魔石が訊ねるとシンは頷く。

「あぁ。ありがとうな」

シンはそう言うと海を眺めるが、魔石に訊ねる。

「で、どうやって、俺を運んでくれるんだ?」

シンの言葉に半分呆れながら魔石は答える。

「私は所有者の望む姿になれるわ。貴方が船か何かを思い浮かべればその姿になってあげる。それで近くの島に行けば良いんでしょ?」

シンは頷くと魔石を握りしめて船を思い浮かべる。自分が知る限り最高の船を。

そして、シンは魔石を海に放り投げる。沈んでいった魔石が姿を変える気配が無いので海に近づくと水柱をあげながら漆黒の巨大な帆船が現れる。

「俺の思い浮かべた通りだ!すげぇ!」

シンがはしゃぎ回ると船になった魔石は呆れた様に言葉をかける。

「当たり前でしょう?貴方の思い浮かべた姿になったんだから。さぁ、さっさと行きましょう。貴方の魔力が無くなる前に」

魔石がそう言うとシンは倒れてしまう。

「え?どうしたの!?」

魔石が驚いて声をかけると弱々しい声でシンが答える。

「やべぇ。腹減って動けねぇ」

「本当に世話が焼けるわね」

魔石はため息をつくと魔力でシンを絡め取ると船の甲板にシンを寝かせて出航する。

漆黒の船がある程度進むと島が見えて来た。

「ねぇ。島が見えて来たけど、あの島で良いの?」

魔石に訊ねられたシンが起き上がって見て見るとその島はとても見覚えのある島だった。

「あぁ。ありがとう。案外、近い場所だったのかな?」

シンが驚いた様に呟くと

「どうせなら人の居る島に運んであげようと思っただけよ。貴方の魔力も案外沢山あったからね」

魔石の言葉に微笑むとシンはメインマストに手を当てて

「ありがとうな。短い付き合いだったけど、会えて良かった。魔石が何で喜ぶのかはわからないし、これから海に沈むのに元気で。ってのも変だけど、本当にありがとうな」

シンはそう言うとマストにキスをする。

「ふふっ。その言葉で充分。もう会う事は無いでしょうけどね。それじゃあ、さよなら。元気でね。船長さん」

魔石の言葉を聞いたシンは背中から翼を出したかと思うとジャンプしてから羽ばたく。

「あぁ。お前の事は忘れない。またな」

シンはそう言うと島に向かって飛んでいく。

「飛べるなら私は要らなかったじゃない。ズルい男」

魔石はそう呟くと石の姿に戻り、海へと沈んでいく。だが、その瞬間に魔石の魔力を感知した存在たちが居た。

シンが島に着地すると日が沈み始めて島に夕方の空を見せていた。

「もう夕暮れか。船の上で随分寝てたんだな。さてと。腹減ったな。マスターの店開いてるかな?」

シンはフラつきながらもマスターの店、エメラルド・アイを目指して歩いて行った。

だが、日が沈んでから島に霧が立ち込めた。

濃い霧の中からはシンを狙う者たちの赤い眼光が光り輝いていた。

「どういう訳だ?弱ってる俺になら勝てるとでも思ってるのか?」

シンの独り言に答えるかの様に真っ白な毛の無い猿の様な魔獣が襲い掛かってくる。

猿の様な魔獣は飛びかかって来たかと思うと鋭い爪で斬り裂こうとしてくるが、シンは爪撃を避けて両手を拳銃に変えると魔獣たちに己の魔力を弾丸として発射する。

何匹かは仕留めるが、路地裏から湧いて来る魔獣たちはシンの行く手を塞ぐように立ちはだかる。

「俺は腹減ってるんだよ!」

シンは叫ぶと腕をロケットランチャーに変えて魔獣たちに撃つ。

爆発が起きると魔獣たちの姿は跡形も無く吹き飛ぶ。

「クソ。ますます腹減ったじゃねーか」

シンはそう言うとやっとの思いでエメラルド・アイに辿り着いた。

だが、いつもなら、ディナーの時間も賑わう店には活気が無く、まるで営業しているようには見えなかった。

「何かあったのか?表通りに普通に悪魔が現れてるし」

シンは最悪の状況も想像しながら店の扉を開けるが、そこには閑古鳥の鳴いている店内でグラスを磨いているマスターの姿が有った。

「ん?シンか。ヴィンセントに流刑にされて死んだと思ってたが、もしかして腹減ったからって地獄の悪魔共と一緒に来たわけじゃないよな?」

マスターが冗談を言うとシンは安心した様にカウンター席に座る。

「俺は死なねぇよ。それより、何か食わせてくれ。流石に死にそうだ」

シンの言葉を聞いたマスターはため息をつきながら調理を始める。

「どうせ無一文なんだろ?文句言うなよ?」

マスターはそう言うと本来なら調理に使わない野菜の端材を使って作った野菜炒めを作ってシンに出す。

シンはそれをかきこむと一息ついたのか深くため息をつく。

「ヴィンセントとの事は残念だったな?ありゃ、完全な謀反だ。どうやらあいつ、お前に味方したクルーがどうなろうと構わない。って考えみたいだぜ?」

マスターの言葉を聞いたシンは首を横に振る。

「流石にそれはねぇよ。マスターがいくら人の考えを読めるとしてもそれは間違いだと思う」

シンが笑いながら否定するとマスターは真顔でシンに助言する。

「お前がヴィンセントをどれだけ信頼してるかは知らない訳じゃ無い。その俺がここまで言ってるんだぜ?まぁ、信じる、信じないはお前の自由だけどよ。信頼と相手を決めつけるのは意味が変わってくるから気をつけろよ?」

マスターはそう言うと食器を下げてからシンに背中を向けて会話を続ける。

「さて?無一文なんだから、飲食代は労働で返してもらおうか?店の外に魔獣が集まってる。迷惑だから帰ってもらってくれ」

シンは立ち上がると深呼吸をする。

「うん。わかった。じゃあ、またな。マスター」

シンはそう言うと店を出る。店の外にはシンを待ち構えていたかのように魔獣の群れが居た。

「こりゃ、マスターも迷惑って言うわな。来いよ。こっちで相手してやる」

シンは魔力をオーラの様に出しながら走り出す。魔獣たちもシンを追いかけて走り出す。

島の中心地点に近い場所にある噴水広場にシンが辿り着く頃には魔獣の数は優に百を超えていた。

「この島の何処にこんなに潜んでたんだよ?」

シンはそう言うと腕を大砲に変えて己の魔力を撃ち放つ。大砲から放たれた漆黒の閃光に向かって灯に惹かれる羽虫の様に集まった魔獣たちは自らシンの魔力に焼かれるのだった。

「ふぅ。食ったの全部使っちゃったぞ?」

「助けて!シン!!」

シンがそう言うと女性の悲鳴が聞こえて来た。それも、ここ最近聞いた女性の声でだ。

「おい。マジかよ。今回の予想は外れててくれよ!?」

シンはそう言うと声のした方向、商船用の港に向かって走って行く。

その頃、ポートロイヤル近海には海の上に立つ男の姿が有った。

男は仕立ての良いスーツに身を包み、右手にステッキを持つ姿は何処かの国の貴族或いは商館の職員と名乗っても不思議は無かった。

「ほう?これは素晴らしい。これほどの魔力ならかの大悪魔が求めるのも頷ける」

そう呟く男の右手には黒い魔石が有った。

「気安く触らないでもらえるかしら?私、馴れ馴れしい男は嫌いなの」

魔石がそう言って黒い電流の様な魔力を男に流すと男は不愉快そうな顔をしたもののすぐさま笑みを零す。

「あれほどの魔力を流し込んだと言うのにまだ自我を保つのか。これは良い。良いぞ。この石が有れば俺の野望が叶う。だが。主にたてつくのは道具としてはイマイチだ。お前の素晴らしさはわかったからもう黙れ」

男が赤い魔力を黒い魔石に流し込むと魔石は元から赤かったかの様に赤く光る。

「今宵は良い夜だ」

男はそのまま宙を滑るかの様に港に戻ると港に着地してからはゆっくりと歩いていた。

そして、一人の男とすれ違う際に呼び止められる。

「何ですか?」

男は呼び止めて来た男の方を向き、問い返す。

「おっさん。ここら辺で女の悲鳴聞かなかったか?」

全身を黒い衣服に包んだ青年と呼ぶにはあまりにも幼く見える男を前に男は首を横に振る。

「聞いてませんね」

シンは男の目を睨んでもう一度訊ねる。

「本当に何も知らないか?」

男は苛立ちを隠さずにシンに言葉を返す。

「えぇ。知りませんとも!もう行っても良いかね?私も忙しいんだ」

男がシンに背を向けると石が光り出す。

「……た……す…け…て」

男が咄嗟にシンの方を向くとシンは男の頭部にハイキックを打ち込もうとしていたが、男は爆発魔法でシンを吹き飛ばして攻撃を回避する。

「やっぱり知ってるじゃねーか」

シンが立ち上がりながら言うと男はステッキをシンに向ける。

「今宵は機嫌が良い。見逃してやるからさっさと失せろ」

シンは男の言葉を聞くと駆け寄り殴りつけようとするが、男はシンの攻撃を全て足で弾く。

「言葉が通じぬ愚か者か。仕方ない。不必要な殺生は好まぬのだが」

男はそう言うと滑る様に迫って来たかと思うとシンに足払いを仕掛けようとする。

だが、シンはジャンプして回避すると急降下しながら男の顔面に蹴りを食らわせる。

シンの攻撃を受けた男は無様に地面に這いつくばる形となってしまう。

「おのれ。人が手加減してやれば調子に乗りやがって!」

男がそう言うと左手に盛った魔石を握りしめたかと思うと魔石が男の左手の中に入り込んでいく。

そして、男の瞳が赤く輝いたかと思うとその姿は見る見るうちに巨大化して男は山羊の姿をした悪魔となる。その背丈は二階建ての建物に匹敵した。

「我が名はゴート。大人しく帰っていれば生き延びられたものを。後悔しながら地獄に落ちろ!」

雄叫びの様な叫び声を上げるゴートの言葉を聞いたシンはその呼気から感じる熱気を払うかのような仕草をすると

「お前の名なんてどうでも良い。俺はその女を助けに来ただけだからな」

シンはそう言うとゴートに殴りかかるが、回し蹴りで蹴り飛ばされてしまう。

シンは受け身を取って着地すると正拳突きの構えをしたかと思うと拳の先から魔力を撃ち出してゴートに命中させる。

魔力を受けて怯んだゴートを殴ろうとシンが近づくもゴートは炎を撃ち出してシンの拳を防いでしまう。

シンは腕をロケットランチャーに変えるとゴートに向かって撃ち放つ。ゴートは炎を放ってシンのロケット弾を防ごうとするが、爆風で吹き飛んでしまう。

シンはそのままロケット弾を撃ち続ける。ゴートは炎を撃ち出し、防ごうとするが、直撃は防げても爆風で吹き飛ばされてしまう。

ゴートは体勢を立て直してシンに反撃しようとするも、何処を見てもシンの姿が無い。

その瞬間にゴートの頭に衝撃が走り、ゴートはまたしても地面に叩きつけられてしまう。

シンはゴートが立ち上がる前にジャンプしており、回転しながらゴートの頭部に踵落としを叩き込んだのである。

ゴートは起き上がるとシンに回し蹴りを打ち込もうとするが、シンは飛び上がって回避すると腕をライフルに変えてゴートの胴体を撃ち抜く。

シンの狙撃で体勢を崩して倒れたゴートは辺り一面に炎球を撃ち出して、シンが近づいて来ない様にしようとした。だが、それは失敗に終わった。

何故ならばシンは両手をハンドマシンガンに変えてゴートの放つ炎球を魔弾で撃ち砕きながら接近していたから。

シンは無防備なゴートの胴体に魔弾を撃ち放つと両手を元に戻し、悲鳴をあげるゴートに向かって魔力で作り出した鎖を両腕から放ちゴートに突き刺す。

「いい加減近所迷惑だ。終わりにしようぜ」

シンはそう言うと鎖を振り回してゴートを海へと叩きつける。

シンが鎖を引き抜き、ゴートが沈むとシンは港に背を向ける。その瞬間に海からゴートが飛び上がってくる。

「そうだな!終わりにしてやる!お前の死でな!!」

ゴートがシンを殴り潰そうとするとシンは手を拳銃に変えて振り向きざまにゴートの胸に撃つ。

シンの魔弾を受けたゴートの体内でシンの魔力とゴートの魔力が反発しあうとゴートの身体に激痛が走る。それもそのはずである。魔石を体内に取り込んだ事でゴートの体内はゴートの意思とは関係無しに魔力が延々と流れる様になっているのである。そこにシンの魔力が流れ込んで来た事で反発が身体中で起きているのである。

ゴートが感じた激痛は実際に魔力の反発によって自分の身体が内側から破壊される感覚であり、シンを殴り潰そうと振るった最後の拳はシンに当たる前にシンの目の前で砕け散っていった。

夜明けを告げる朝日と共にゴートの断末魔が響き渡ると空から魔石が降って来る。

シンが両手で受け止めると魔石の色は黒に戻っていた。

「大丈夫か?」

シンが訊ねると魔石は力無く光りながら言葉を絞り出す。

「助けて…くれて…ありがとう。ワガママ…言っても良い?」

魔石の言葉に耳を傾けながらシンは頷く。

「少し眠るから……目を覚ますまで傍に居て」

シンは頷くとコートの内ポケットに魔石を入れて歩き出す。

「そう言えば船も無いから宿も探さないとだな。でも、無一文なんだよなぁ。マスターなら魔石の傷を癒す方法知ってるかもな」

シンはそう言うと、とりあえずエメラルド・アイを目指すのだった。

 3話目読了感謝です。

このお話はシンがヴィンセントに裏切られた後に一番最初に出会い、この作品内で一番共に居ると言っても過言では無いキャラとの出会いのお話です。

ヴィンセントは裏切ったのにどうしてシンと共に居るのか。なんて疑問も読み進めればご理解頂けると思うので気になった方は是非、その場面までお付き合い頂けると幸いです。

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