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016・気になる想力体がいたら即検索

「酷いです!」


 顔を上げ、ダイニングテーブルに強打した額をさすりつつ、涙目で叫ぶ七海。そんな七海に対し、空羽は苦笑いを浮かべ、申しわけなさそうに口を開いた。


「別に意地悪で言ってるわけじゃないですよ? それが七海さんにとって一番いい方法だから、そう言ってるだけです」


「一番、いい?」


 空羽の言いたいことがよくわからず、七海は疑問の表情を浮かべる。


「七海さん。七海さんが明後日から先も生き残ったとして、その先の人生はどうなると思いますか?」


「それは――」


「今まで通り、声優は続けられると思います。学校にもいけますし、友達と遊ぶこともできるでしょう。ですが、想力に関係する事件が、七海さんに一生ついて回ります。断言してもいい。これは絶対です」


「一生……絶対……」


 一生。つまり死ぬまで。その言葉が、七海に重く伸し掛かる。


「昨夜、僕が七海さんを殺そうとしたのも、そして、今こうして話をしているのも、それが理由です。だって、見逃したら今度は敵として現れるかもしれないじゃないですか」


「なんで私が空羽さんの敵に?」


「フリーの七海さんが、アモンたちの敵と契約した瞬間、僕の敵です」


 どこか冷たく言い放つ空羽。七海の背筋に僅かな悪寒が走る。


「悪魔の敵と言うと、天使とか神様?」


「はい。まあ……それらの想力体と契約して、ただ敵になるだけならまだいいです。一番の問題は、見逃した後、七海さんが大手の連中にスカウトされて、その連中に僕とアモンのことを話してしまうことなんです」


「大手?」


「世界中に支部を作って、大々的に活動している宗教団体の皆さんですよ」


「ああ、社会と歴史の教科書にも載っている、あの……」


 なるほど。確かにそれら宗教団体は、悪魔の敵の最大手だ。


「アモンは、名前だけで大手の連中が動きかねない強大な悪魔です。まだ所在を知られるわけにはいきません――って、話がずれました。とにかくですね、七海さんはこれから先、ずっと想力とつき合って生きていくわけです。そんな波乱万丈な人生で、七海さんを助けてくれるのがインターネットです。気になる想力体がいたら即検索! いいですか? 気になる想力体がいたら即検索! はい復唱!」


「気になる想力体がいたら即検索」


「はい。それを習慣づけてくださいね」


 空羽は真剣な顔で頷いた。


「で、あの、なんでインターネットなんですか?」


「自我を確立して、この世界に生れ落ちるほどの想力を獲得した想力体は、大抵インターネットに名前が載っているからですよ。容姿、主だった能力に加え、ものによっては対処方法から弱点まで載っています。使わない手はありません」


「七海。私たち想力体の力は想力、つまりは知名度で決まると言っていい。そして、インターネットはこの時代において、最もポピュラーな情報収集手段の一つだ。そこにも載ってないような想力体なんて、なあ?」


「気にする必要はないと?」


「そうだ。万が一、偶然が重なって具現化できたとしても、私たちの敵ではない」


 アモンはこう言った後で「昨日みたいにな」とつけ足した。


「私、てっきり古文書とか、魔法書とか出てくると思ったんですけど」


「七海……今は……ITの時代……」


 悪魔に現代社会を諭された!?


「ソロモン七十二柱が何者なのか――七海、その答えは自分で調べて、自分なりの答えを出せ。それがどんなものであれ、私たちはそれを受け入れよう。そもそも私たち想力体に確固たるなにかを期待されても困る。私たちの有り様は、いつだってお前たち人間次第だ。時代時代で変わってしまう」


「大元……原型となる伝承は……確かに存在するけど……それにしたって……人それぞれの解釈次第……無数の差異が自然と生まれて……統一は不可能……私たち想力体は……移ろうものであり……揺蕩うものであり……彷徨うものでもある……」


「まあ、難しく考えることはありませんよ七海さん。ソロモン七十二柱は有名ですから、資料に困ることはないはずです。自分なりの答えをゆっくり探してください」


「……わかりました。とにかく後で検索ですね。じゃあ次の質問なんですけど――」


「待て、七海」


 七海が次の質問をしようとしたところで、アモンが声を上げた。質問を中断された七海は、何事かとアモンの方に視線を向ける。


「悪いが、時間切れだ。空羽、きたぞ。テレビを見ろ」


 アモンの言葉に従い、空羽はテレビの方に視線を向けた。デカラビアもそれに続き、七海も釣られるようにテレビを見る。そこにはいかにも熟練といった感じの男性キャスターと、飾り気の少ない質素なニューススタジオが映されていた。


『番組の途中ですが、予定を変更いたしまして臨時ニュースをお伝えいたします』


「これって……」


『つい先程、東京都内にあります建設途中のショッピングモールで、男性の死体が発見されました。繰り返します。つい先程、東京都内にあります建設途中のショッピングモールで、男性の死体が発見されました』


 男性キャスターがこう告げると、テレビに映っていた映像が切り替わる。そして、昨夜七海が不法侵入し、殺されかけた、あのショッピングモールの入り口が映し出された。警察官と報道陣、野次馬の姿も同時に写される。


 リアルタイムの現場映像。さらに言えば、七海の家からそう遠くない場所、駅へと向かえば自然と前を通る、近所の映像だった。


『発見された死体は、上から落下したと思われる鉄骨によって潰されており、警察は事件事故、および、都内を騒がせている連続殺人事件との関連性も視野に入れ、現在調査中とのことです』


「思ったより早かったな」


「そうだね。もう少し後になると思ってたけど」


 いたって冷静に話をするアモンと空羽。そんな一人と一柱に対し、七海が慌てて口を開く。


「あの、空羽さん? 冷静に会話しているところ悪いんですけど、死体、見つかっちゃいましたよ?」


「え? ええ、そうですね」


「そ、そうですねって!? 後始末するって、昨日言ってたじゃないですか!?」


「はい、ちゃんとしましたよ。昨日の男が連続殺人事件の犯人だって、世間を納得させるだけの証拠を現場に残してきました。これで、都内を騒がせていた連続殺人事件は、迷宮入りせずに解決です」


「ふえ?」


 呆気にとられ、少し間の抜けた声を漏らす七海。


「あの、つまり、昨日の一件がこうやってテレビに報道されたのは、空羽さんたちの計算通りってことですか?」


「はい。想定通りです」


「心配はいらない?」


「いりません。お気持ちだけ受け取っておきます」


 七海を安心させるように空羽は笑う。その様子を見るに、本当に心配する必要はないのだろう。


 七海が起きる前からずっとテレビを見ていたアモン。その理由がわかった。このニュースがテレビで流れるのをずっと待っていたに違いない。


「さて、七海さん。話は変わるんですが、本日の仕事場の近くにネットカフェはありませんか?」


「え、何ですかいきなり? えっと、今日のオーディション会場はあそこのスタジオだから、駅を出て……はい、あります。最寄りの駅とスタジオの間に、何件か」


「そうですか」


 空羽はそう言うと席を立ち、テレビのリモコンを手に取った。そして、リモコンをテレビに向け、電源ボタンを押す。


「では、よければそこまでご一緒してくれませんか? 昨日の一件、最後の後始末をしますので」

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