その8
◇◇◇◇◇◇ その8
「それではご説明させていただきます。」
和子は姿勢を正して改まると、セールストークに口調を変えてしゃべりだした。
「扱っている商品をネットワークを使って多数の方に使っていただくのが基本方針です。その商品はここに載っています。」
和子が取り出したカタログには100種類ほどの商品が写真付きで掲載されていた。
「ここにある商品は全て地球環境を考慮したすばらしいものばかりなんです。」
和子の説明に熱が入る。
「例えばこの洗剤ですが、」
和子はバッグからサンプルを取り出し、涼子に手渡した。
「ちょっと手のひらにつけてみてください。」
涼子は言われるままに少量を出した。
「どうですか。」
和子は涼子の顔をのぞきこむ。
「実際にはこれを5倍に薄めて使います。その原液が、まるで乳液のようでしょう。」
言われて見ると市販の台所用洗剤とは確かに違う感じがする。
「これは顔につけても肌荒れする心配はまずありません。そのくらいですから、手にかかる程度では全く不安はありません。」
和子の説明にうなずきながらも涼子はまゆにつばをつけたい心境であった。
「それでは私が試します。」
和子はその洗剤を手のひらに取ると顔につけて塗りはじめた。
涼子は、
「あっ。」
と思ったが、和子は真剣にコンパクトの鏡を見ながら顔をいじっている。やがて和子の顔は化粧を落としたのと同じ状態になった。
「顔を触って下さい。」
促されて涼子が触ると和子の肌はつるつるでまるで十代の肌であった。
「これは化粧品ではなくて洗剤なんですよ。洗剤であっても肌に対してはこの優しさです。化粧品はもっとすごいんです。私たちの扱う商品の優秀さはわかっていただいたと思います。」
涼子はだんだん和子に圧倒される自分を感じていた。和子の口から掃き出される滑らかな口調に涼子は魅せられていた。
「この洗剤は一本1万円です。が、20倍に薄めて使いますから詰め替え一回あたりは500円です。そんなには高くないでしょう。」
涼子は和子のペースに完全に乗せられていた。和子の口から滑らかに発せられる説明に気持ちよく酔ったような気分である。