その4
◇◇◇◇◇◇ その4
高校生になってSNSを一緒に始めた涼子とみどりは、最初、様子がわからずにお互いにメールのやりとりをするだけであった。そのうちに秘密の交換日記感覚で先生の悪口から始まって好きな男子の事や思春期特有の悩みを相談するようになった。しかし、変わり映えのしない高校生活ではすぐに書くことがなくなってしまった。
このSNSには同じ話題で文字による会話を楽しむための会議室が用意されている。生活関係から趣味まで網羅する会議室はルームと呼ばれており、涼子も時折覗いていた。そのうちにお互いが興味の持てるルームが見つかり、二人の間でやり取りされるメッセージは連絡用となった。
涼子は主に若い子が集まるルームへ幅広く出入りし、若者の動向を調査している。みどりはOLが集まるルームを中心に活躍していた。みどりのほうが頻繁に書き込むものだからいつしかルームの中心的な役割を果たすようになり、ブランド物の個人輸入のルームでは代表に収まってしまった。
SNSの世界は情報を提供する側とそれを読むことに徹する側にいつしか別れてしまっている。誰が何を書いてもいいし、いつでも提供者になれるのであるが、読む専門が圧倒的に多いのはいたしかたがないところである。
#東谷健一
健一は夜遅くようやく帰宅した。
「いやあ、まいった。尾行してたらラブホテルに入っちゃうんだもんな。今日はそんな素振りはなかったから慌てたよ。」
「大変だったわね。ご苦労さま。」
探偵業ではラブホテルに入る相手の尾行が一番嫌がられる。いつ出て来るか見当がつかないし、待っている場所にも困るためである。
涼子もカップルを装って健一と一緒にラブホテルの張り込みをやったことがある。最初のうちは恋人気分でお熱いカップルを演じていたが、回数が増えると飽きてくるし、尾行のたびにホテルに入っていたら経費がかかり過ぎてしまう。仕方なく外で待つが、夏は暑く、冬は寒く、できることならやりたくない仕事である。
「今日ね、みどりから連絡があったのよ。明日会いたいんだって。」
涼子はやや疲れを見せている健一に話しかけた。