その18
◇◇◇◇◇◇ その18
「この事件がテレビで放映された直後から犯人は東谷涼子だと匿名の電話がじゃんじゃんかかってきた。犯行直後にこれだけの情報提供がある事件も珍しいことです。それで東谷涼子の身柄確保のためにとにかく動き出しましたが、今考えると動きが速すぎました。」
小沢刑事に言われて署長も首を傾げた。
「そうだな、でも捜査を混乱させるための偽情報の提供としては数が多すぎます。」
「小沢君、この事件では本庁が動き出した。」
小沢刑事はちょっと驚いたようであった。
「彗星伝説ですか。」
小沢刑事はあこがれの彗星伝説に会えるかもしれないと内心期待に胸を膨らませていた。
「とにかく東谷夫婦の身柄を押さえる事が先決だ。」
「はい。わかっています。」
署長に言われて返事はしたものの二人の行方は依然不明のままである。小沢は今後の捜査方針を考えながら署長室を出た。
#彗星伝説
小沢刑事と入れ代わりに若いカップルらしい二人が署長室に入った。二人の顔をちらっと見た小沢刑事はどこかで見た事があるなと思いながらも、事件が気掛かりで思い出せなかった。
二人は署長室に入ると上着のポケットから手帳を取り出し、署長に示す。そこに現れたのはM機関員を示すエンブレムであった。
「署長殿、M機関勅令が発令されました。」
若い女性からいきなりそう告げられ署長は狼狽した。
「女性経営者殺害事件解決が最終目的です。」
「はっ。」
署長はいすから驚いて立ち上がり、二人に敬礼した。
数年前、帝都大学在学中に司法試験に満点合格した男がいた。加えてこの男は国家公務員上級職試験、いわゆるキャリア試験にも満点の成績をたたき出したが、なぜか官庁からの採用をことごとく拒否され失意のどん底に落ちてしまう。
しかし、女神様をサポートする適性を認められて、内閣総理大臣特務M機関員に選抜されたのである。M機関員は日本が統括する全ての資格や階級の最上位者とされ、日本国内のあらゆる組織はM機関員の要請に応えることが義務づけられている。同時に司法の守備範囲をはるかに越えて動く権限を与えられている。