その13
◇◇◇◇◇◇ その13
「商売の誘いです。ライフという会に所属して生活雑貨の販売をやらないかという誘いでした。」
「あなたはどうされましたか。」
「みどりが帰った後で浅野さんに随分迫られましたが、断りました。」
「その後、どうしました。」
「まっすぐ家に向かって着いたのが11時過ぎです。11時半前でにはなってなかったと思います。」
小沢はいちいちうなずきながら手帳にメモしている。
「それでは、今朝早朝3時頃はどこにいましたか。」
「私が犯人だと疑っているんですか。」
涼子は憤慨して叫んだ。
「犯人だなんてとんでもありません。これはどなたにも聞いていることですから。」
「私と一緒にいました。」
憤慨する涼子に健一が代わって答えた。
「何をしていたんですか。」
「そりゃあ、その時間は寝てるのが当たり前でしょう。」
「それを誰か第三者が証明できますか。」
小沢はまるでふたりの隙を探す猟犬のように食い下がる。
「寝てるのを証明できる人なんているんですかね。」
健一が小沢刑事に向かって静かにしゃべった。
「ここではなんですから署までご同行願いましょうか。」
小沢刑事が腰を浮かした。
「それは任意同行ってことですか。」
健一が小沢刑事に尋ねる。
「いえね、お二人にお願いしてるだけですよ。強制ってことではないですよ。」
小沢刑事はまるで当たり前だと言わんばかりである。
「逮捕状を取る事だってできるんですがね。」
「昨日の夜発生した殺人事件の逮捕状が、証拠も無いのに今日取れるわけないじゃないですか。はったりもいい加減にしてください。」
健一が興奮して叫ぶ。
「いやね、通報者がたくさんいるんですよ。多数の人がこちらの奥さんが犯人だと警察に通報しています。こんなことは滅多にありませんよ。」
小沢刑事は涼子のあきらめ顔からそろそろ連行の潮時と判断したようである。
「それじゃ、涼子さん。支度をしてください。ご主人も参考人としてお願いできますかね。」
「わかりました。着替えますからここでお待ち下さい。」