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魔法少女は魔法を使えない  作者: アーナ
魔法競技大会編
7/10

第六話

一オチついた所で説明は終わりである。


「他に何か聞きたい事はありますか?」


「いや、何となく分かったからもういい。」


にっこり笑って問い掛ければ、イケマ君が天を仰ぐ。その顔に映るのは諦観だ。


「つまりあれかね?君のあの、バカみたいに硬い防御魔法や、無駄に器用な今回の魔法回路増設は、全てその溢れんばかりの魔力量のお陰だと?」


頭痛を堪えるような仕草でマロウさんが訊ねる。


「全てがそうだとは言いませんが、多くがそうである事は否定しませんね。魔力操作の正確さは純粋な努力の賜物です。」


「あの、でも、それはとっても頼もしいですし、僕も足を引っ張らなくて済みそうですし、良い事ですよ!ね⁈」


カフィル君がフォローするが、その空しさは私が一番よく知っている。


「まあ、要するに。やってる事の見かけが、どれだけ繊細な超技巧に見えようと、私の場合それは、全て力任せのゴリ押しだって事です。」


本質的に精霊寄りなんですよね、と笑う。


「笑い事なんですか、それ⁈」


オナモミさんが悲鳴のようにツッコミを入れるが気にしない。私の真実を知った連中は皆そういう反応をする。親友たるカトレアだって最初はそうだった。悪友の彼も、ついでに言うなら家族だって。最初はみんな、見かけと内実の違いに大いに驚き戸惑っていた。


「質問が無いなら練習に戻りましょう?時間は有限です。」


なにより、と私は笑みを浮かべる。恐らくそれははたから見ればにやり、とでも形容するような笑顔だっただろう。


「最初にミモザ先輩も言っていましたけど、私、結構強いので。今回の大会、優勝狙ってますから。」


杖を握ったまま、今度はにこ、と笑う。中断してしまったが練習時間はまだ残っている。

カフィル君を新しい魔法回路に慣れさせなければならないし、初対面なだけあってまだ皆連携が硬い。


「そうね……。皆様も、それでよろしいかしら?」


ミモザ先輩が溜息をついて心を切り替える。


見回せば特に反論は無く、もう一度3対3に分かれて練習を再開した。




メンバーを変えながら数戦して戦略は大体固まってきた。


「やはり、この形が一番しっくりきますわね。」


ミモザ先輩がそう言ったのは私に防御を一任する方法。一応補佐としてオナモミさんがつく。前衛にイケマ君とカフィル君、それぞれの補佐にマロウさんとミモザ先輩がつく。


「うむ、防御の心配をしなくていいというのは大きいな。」


基礎魔法のメリットは二つ。すべての魔法の中で、最も発動速度が速い事、そして、如何なる属性に対してもその威力を左右されない事だ。

例えば、炎魔法は水魔法の前ではその威力を著しく減衰させられる。光魔法と闇魔法も違いに相殺し合う。逆に風魔法が炎魔法の威力を上げたり、土魔法が植物魔法を助けたり、という事もある。

けれど、それら魔法の属性を持たない基礎魔法は如何なる魔法も、物理攻撃も、等しくその強度に見合った力で弾き返す。

だが、それらのメリットを帳消しにする程のデメリットがある。それは、燃費の悪さだ。基礎魔法はそれはそれは燃費が悪い。私は他の魔法を使えないのでその感覚は分からないが、他の人に聞くと三倍は魔力を持って行かれる、との返事が返ってくる。


その基礎防御魔法を自陣の石柱全てに効果を及ばせる為には、かなり広範囲に展開しなければならず、要求される魔力量は中々のものとなる。よしんば、魔力量の問題をクリアできたとしても、それを決して短くない試合時間中張り続けるのは不可能に近いだろう。


このゲームの肝は如何に自陣の石柱を守るか、という点にある。通常ならば強化魔法をかけたり、数人で手分けして複属性の防御魔法を展開したりする。


だが、私は違う。このアホみたいな魔力量は、それ故に、例え燃費の悪い基礎魔法だろうと十数時間は保つ。というか、魔力の限界よりも先に集中力の限界が来る。


「シトラリーシェもそれで良いかしら?」


ミモザ先輩が問う。


「はい。カフィル君も大分慣れてきたようですし、後は連携の練習ですかね。」


「貴方から見て、まだ硬い?」


今回のリーダーはミモザ先輩なのだが、ミモザ先輩は前に出てしまうので全体が見づらくなる。なので、司令塔の役割は私がこなしている。


「硬いという程では。ただ、イケマ君とカフィル君の連携をもう少し密にしたい所です。できれば、連携攻撃が出来るくらいに。魔法の相性が良いので、それが出来れば攻撃の威力も上がるし、選択肢が増えます。」


「確かに、風魔法と炎魔法は特に相性が良いと聞きます。」


オナモミさんが賛同を示す。彼女も私と共に後ろから全体を見るので細かい所に気が付きやすい。


「一撃必殺の大技とかじゃなくても良いので、"こういう事もできる"って見せつけられれば良いんです。それを相手が警戒してくれれば、それだけで相手の行動の選択肢を狭められますし、そうなればこちらが動きやすいですしね。」


「つっても、相変わらずコントロールは悪いし、俺じゃついて行けない。」


反対意見を出したのはイケマ君だ。


実はカフィル君のノーコンは治っていない。半分以上を狙いとは違う方向にすっ飛ばすその凄まじさは、溢れ出る魔力が適切な出口を得た事で多少はなりを潜めたものの、長年の癖が抜け切るにはまだ時間が足りない。

また、正確な測定は出来ないが、魔法級が二段階は上がった事により、イケマ君との実力差に開きが出来た事も大きい。


本来なら、火魔法を得意とするイケマ君の魔法を風魔法を得意とするカフィル君が補助する、という形になるのだが、カフィル君の方が実力が上になってしまった為、そのバランスが崩れている。


「そーなんですよね。……そう言えば、ミモザ先輩とマロウさんは連携攻撃出来るんですか?」


うむむ、と唸った所で二人の存在を思い出す。自己紹介の時やその後の練習中の様子を見るだに、この二人は知り合いである。ミモザ先輩がマロウさんの事を先輩と呼ぶ事から恐らくマロウさんも三区の高等校舎の出身なのだろう。


「ふむ。やって出来ない、という事は無いだろうな。一年とはいえ同じ部活で競い合った仲だ。が、我らは射撃部の所属だからな……。」


「あー、個人戦ですからね。」


魔法射撃は魔法競技の中でも比較的ポピュラーで人気のあるスポーツである。

射撃と狙撃、それぞれ二種類ずつあり、自分も標的も動く動体射撃、自分は動くが標的は動かない静止射撃、自分は動かず標的が動く動体狙撃、自分も標的も動かない静止狙撃の四種類だ。

射撃は、チーム戦を組むこともあるが基本は一人、狙撃に至っては徹頭徹尾個人競技である。


「ミモザ先輩は確か狙撃でしたよね?マロウさんはどちらをやられてたんですか?」


「射撃だ。」


「んー、見事に被らない……。でも、まあ練習での様子見る限りはタイミング合わせて撃つ位は出来そうですね。じゃあそっちは良いです。取り敢えずカフィル君のノーコンをどうにかしましょうか。」


言って、カフィル君を振り返る。どうでも良いが、回路を増設してから彼の私を見る視線がキラキラしてる気がしてならない。

まあ、気のせいだろう。


そのカフィル君を振り返って問う。


「カフィル君、普段どうやって的を決めてるんですか?」


「的、ですか?」


きょとんとした顔で問い返してくる姿を見て言葉が足りなかったのを悟り付け足す。


「そうです。射出する系の魔法を使う時、どうやって狙った所に……当たってはないですけど、まあ、どうやって狙ってますか?」


「ええと、そうですね。ボールを投げるのと同じ感じです。」


「と言うと、力を加えるのは最初の射出のタイミングだけで、その後は慣性に従って、って事?」


「そうです。」


「人によって得手不得手はありますが……、取り敢えず違うやり方を試してみましょう。一応聞くけど、追尾はできないんですよね?」


射出系の魔法には追尾機能を付けられる。が、これまでの練習でカフィル君が使っているところは見ていない。追尾機能を付ければ狙った的に当たるまで止まらない。この方法ならノーコンなど関係ない。が、得意不得意が分かれるので、恐らくカフィル君は苦手としているのだろう。


「あ、はい……。追尾出来れば良いんですけど、どうにも苦手で……。」


まあ、そうだろうな。


「じゃあ、ガイドラインを引いてみましょうか。」


「ガイドライン?って、何ですか?」


不思議そうな顔をしたのはオナモミさんだ。他の面々も似たような表情である。ミモザ先輩だけが、なんか聞いたことあるんだけど何だっけ?みたいな顔をしている。


「本来は追尾の練習方法なんですけどね。取り敢えず一回やってみますね。」


杖を緩く構えてコートを向く。


「まず、着弾点を決めます。今回は……、そうですね、分かりやすいようにコートの中心にしましょうか。」


言って軽く杖を振る。マーカー替わりの魔力がコートの中央に灯る。


「で、そこに向けて自分が考える理想のコースを引きます。私は魔力糸ですけど、別に他の魔法でも良いです。」


空中をなぞる様な動きに合わせて緩やかな放物線が描かれる。


「今引いた線を消しながら魔法を撃つ。以上です。」


パシュッ、と軽い音を立てて発射された私の魔力弾が先ほど描いた放物線をなぞる様に消しながらコートの中央に着弾する。


「ポイントは、撃ち出した後も魔法から意識を離さない事です。追尾と言うほどでなくても、途中である程度軌道修正ができると便利ですから。」


「わ、分かりました。」


ぐっと拳を握り、決意の表情でカフィル君が頷く。


そのまま、コートの方へ向き直り、私のやった事を忠実に再現する。


コートの中心にマーカーを灯し、魔力線を引く。その上を風弾が、途中までは進んだ。


「……難しい……。」


愕然と呟くカフィル君に、励ますように声を掛ける。


「大丈夫ですよ。途中までは行きましたから。直後に逆走してくる初期からは進歩しました。」


「そうでしょうか……。いえ、弱気になっていてはダメです。」


「はい。そんな感じで頑張ってください。ですが、合わないなと思ったら言ってくださいね。別の方法もありますから。」


大会までの猶予は短くはなくとも長くもない。合わない方法でちんたらやっている暇は無いのである。


「さて、私とカフィル君は暫くこれをやっていますが、先輩方はどうされますか?」


カフィル君の練習を興味深げに見ていた他のメンバーを振り返って問う。


「私は是非ともシトラリーシェに色々と聞きた」


「取り敢えず、二人は抜きでもう少し練習しますわ。」


キラキラと、いや、ギラギラと輝くマロウさんを遮ってミモザ先輩が方針を決める。


「お二人も、それでよろしくて?」


オナモミさんとイケマ君を見て確認する。何というか、練習当初よりミモザ先輩のマロウさんに対する扱いが雑になっている。


正直、関わりたく無いのでフォローはしないが、良いんだろうか。仮にも先輩だろうに。

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