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魔法少女は魔法を使えない  作者: アーナ
魔法競技大会編
6/10

第五話

余計な事をしでかしそうなハーピィにしっかり釘を刺して、色々な衝撃で固まっているカフィル君を正気に戻さんとその眼前で手を振る。


「……はっ!」


「おはよう。これから君の回路を増設するから。取り敢えず手出してくれる?」


因みにオナモミさんとイケマ君は先程ミモザ先輩が起こしていた。


期待半分、不安半分といった顔で差し出されたカフィル君の手を取り魔力を熾す。


繋いだ手から私の魔力をカフィル君の回路へ流し込む。やがて、隅々まで行き渡った魔力が淡い光となって浮かび上がってきた。


「取り敢えず、二本増設します。それでも駄目そうだったらもう一本ですね。」


私が魔力を込めると、回路が浮かんでいなかった部分に微かな光の線が生まれる。この状態ではまだ「溝」に過ぎない。精霊回路を持たない私ではこの「溝」を「回路」にすることはできないのだ。そこで、ミモザ先輩に喚んでもらったハーピィの出番である。


私の後ろで、面白そうに事の成り行きを眺めていたハーピィに目線で合図を出す。


それを受けてハーピィも魔力を熾す。カフィル君へ向かったハーピィの魔力は、カフィル君の回路に潜り込むと、私が刻んだ「溝」に沿って「回路」を形成する。これで作業は終了だ。あとはこの回路を何度か使って馴染ませるだけである。


「はい、終わりましたよ。」


握っていた手を離すと、回路を浮かび上がらせていた私の魔力が霧散し、光が消える。


「ほ、本当にこれで……?」


「随分簡単なんだな。」


しげしげと自分の手を眺めるカフィル君と、相変わらず空気を読まないマロウさん。段々この人の性格がわかってきた。


「ありがとうございました、ハーピィ。」


「なんて事はないわ。私達にとって回路なんて出し惜しみする物でもないし。」


ニコニコと笑うハーピィに、まあそうですよね、と返し訊ねる。


「何かお礼に欲しいものはありますか?簡単な物なら用意しますけど。」


「んー、別にいいわ。今は特に欲しい物もないし。それに、シトラスに頼られたって言ったら皆羨ましがるだろうしね。」


「あんまり言いふらさないでくださいね……。」


いつだったか気軽く精霊に頼み事をした時、その後しばらく、私を手伝いたい他の精霊達に付きまとわれた事がある。授業中だろうがお構い無しに寄ってくる精霊に振り回されまくり、とんでもなく疲れたものだ。


「うふふ。」


意味深に笑ったハーピィはまたね、と言うと風に溶けるように消える。


それを見送ってから他の人達を振り返る。


「じゃあ練習再開しましょうか?折角作った回路も馴染ませなきゃですし。」


「いえ、それも大事なのですけど、その前に貴女に色々聞きたいですわ。」


中断していた練習を再開せんとした私に、ミモザ先輩が待ったをかける。


「?何をでしょう?答えられる事なら答えますが……。」


心当たりが無かったので本気でそう問い返すと怒鳴られた。


「全てですわよ!わたくし達が納得できる説明が得られるまで、練習は再開しませんわ!」



――――――――



「で、何が聞きたいのでしょうか?」


練習試合を完全に中止してコートの端にあるベンチに座らされた私の前には興味津々の顔をしたチームメイト達。


「色々ありますけどまずは先程の事ですわ。あなた、そもそも回路の増設方法なんてどこで覚えてきたんですの?どの教科書にもそんなもの載っていませんわよね?」


確かにそうだろう。普通は自分の限界と戦いながら何とかする物である。


「どこで、と言われましても、自分で考えた物です。あ、安心して下さい、安全なのは証明されてます。」


「そんな事は心配していませんわ。お前は常識外れではありますけど常識を無視しているわけではありませんもの。」


「信頼されてて嬉しい限りです。じゃあ一体、何が知りたいんですか?」


「全てさ!」


私とミモザ先輩が軽快にやり取りしていると唐突にマロウさんが割り込んで来る。嬉々とした笑顔で。


「全て話してくれたまえ、シトラリーシェ!ああ、君は一体何を知っているんだね?魔法研究者の一人として気になって仕方ない!」


「流石に全ては難しいのではないのかしら?こんな大事、話せない事が有って当たり前ですわ。」


キラキラした瞳で近寄るマロウさんと、それを抑えるミモザ先輩。これだけ見るとミモザ先輩が救世主のようだがその目は獲物を逃す気がない事を隠しもしない。

他の面々も程度に差はあれ、聞きたそうにしている。特に今回の当事者となったカフィル君はマロウさん以上にキラキラした瞳を向けてきている。


「はあ……。ではまあ、取り敢えず具体的な手法から説明しますね。」


「ああ、頼む。」


「まず、回路の増設そのものは可能である、これは良いですか?」


「それ、ちょっと意外でした。練習で操作できる魔力量が上がるのは知っていましたけど、それは使っていなかった分を解放したって言うか、もともとの回路の数は決まっているものだと思っていましたから。」


オナモミさんがそう言えば、他の皆もそれぞれに考える。


「そもそも、回路がどういう物かなんて、ちゃんと考えた事はありませんでした。何て言うか、それはそういう物って言う認識だったと言うか。」


カフィル君の認識にミモザ先輩が異を唱える。


「わたくしは知っていた、と言うか以前、シトラスからそんな話を聞いた覚えがおぼろげながらありますわ。その時は戯言たわごとと聞き流してしまいましたけど。」


どうやらミモザ先輩は知っていたようだが、他の人は皆そんな感じらしい。


「うーん、これ、個人差も結構ありますし、定説がある訳ではないですからね。でも、取り敢えず扱う魔力の分しか回路はありませんよ。それは精霊に聞いた事があるので確かです。」


精霊は嘘や虚言を嫌う。それ故に彼らの言葉はそれだけで確かな事実となる。


「なるほど。ならば、それは良いとしよう。それで?」


マロウさんが続きを促す。


「これは私の持論で確たる証拠はないのですが、経験則としてどんな人でも死ぬ気でやれば戦略Ⅲ級位までは伸びます。通常それは魔力操作の練習をして積み重ねていくものですが、その過程はご存知ですか?」


「回路の具体的な増設手順って事か?知らないな。」


イケマ君が答えると他のメンバーも頷く。


「では、そこから。回路を作るためにはまず『溝』を刻みつけます。今回私がやったのはこの作業ですね。『溝』はこのままではしばらくして消えてしまいます。通常は何度も『溝』を付けてやがてそれが回路に変わるんですけど、それは時間がかかるので、今回はショートカットしたんです。それが、ハーピィにやってもらった作業。あれは、ハーピィの持つ回路の形をコピーして写したんです。通常は数年ほどかけて回路を型作っていきますが、それでは大会に間に合わないのでもうある回路を使わせてもらったんです。これなら、カフィル君が慣れれば他の自前の回路と同じように使えますから。」


なので後でちゃんと練習して下さいね、と言うと素直に頷くカフィル君。


「そういえば、風の上級精霊をという指定でしたけどそれにも意味があるんですわよね?」


ミモザ先輩の疑問にはい、と答える。


「まず、精霊を喚んだ理由は私には精霊回路が無いからです。自分が持つ回路をコピーして渡す訳ですから、コピー元がない私には出来ないんです。上級精霊であった理由は単純な魔力量の差です。百本あるのを一本くれるのと、十本の中から一本くれるのでは抵抗感が違いますからね。風の精霊を指定した理由は、カフィル君が風魔法が得意だと言っていたからです。別に人間の魔力は属性を持つ訳ではないのでどの精霊でも良いのですが、まあ、何となく違いそうな気がするじゃないですか。」


「なるほど、確かに言われれば納得できる事ばかりだ。それ故に何故今までそれらが試されて来なかったのかが気になるな。」


マロウさんが疑問を呈する。それに対してこれは推測ですが、と断ってから己の考えを話す。


「問題点は二つです。まず魔力量によほど余裕のある人でないと出来ません。溝を刻むだけでも百近い魔力を持ってかれます。この上回路のコピーまで自分で行うのなら確実に国家Ⅲ級の魔法使いが必要です。身近にそんな高ランクの魔法使い、そうそう居ません。二つ目は、私のように精霊にやってもらうとして、精霊、特に上級精霊は基本的に人間の言う事なんか聞きませんよ?彼等、私の言う事は妙に素直に聞きますが、基本的に超越存在ですから何考えてるか分かりませんし、こっちの意図がきちんと伝わってるかどうかも、その通りにやってくれるかも分かりません。」


「なるほど、確かに例え方法に予想がついたとしてもその条件を満たすのは難しいな。」


魔法使いは人口の約1割。国家級の魔法使いは全魔法使い人口の約1%。その中でも最高クラスの国家Ⅲ級は、国家級の中の1%と言われている。


世界人口40億と言われるこの世界で国家Ⅲ級の魔法使いは4万人ほどしか居ないのだ。身近にいる確率はかなり低いと言える。


「とまあ、そんな感じなわけですが、他に聞きたい事はありますか?」


見回して問い掛けると、オナモミさんから声が上がる。


「あの、不躾な質問なのは分かっているんですけど、その……、それ、最初に()()()()()んですか?」


おおう。鋭い所突いてくるな。まあ、何か有った訳ではないのだが。


「最初は私の姉の精霊です。その後、姉本人と妹、父、母と家族で一通り試した後、友人の中から希望者を募って。まあ、でも安全性は最初から保証されてましたよ。」


「どういう事ですの?」


ミモザ先輩が不思議そうに問い返す。


「最初に試したウチの精霊が、私が魔力操作ミスらなければ問題ないって言ってくれたんです。」


「なるほど、だが、例えそうだとしても君が魔力操作を誤らない保証がどこにあるのだ?君の話を信じるならば百近い魔力を扱うのだろう?」


マロウさんが不審そうに問う。


魔力100と言えば国家Ⅱ級に匹敵する。私はその上、国家Ⅲ級だが、少ないと言える魔力量ではない。


普通ならば。


「あー、まあ、隠すような事でもないんですけど……。」


「?何だね?」


「シトラリーシェ……。」


頰を掻く私に、マロウさんが首を傾げ、ミモザ先輩が心配そうに名を呼ぶ。


突然の雰囲気に他の面々も固唾を飲んで成り行きを見守る。


「えっと、ミモザ先輩は分かってると思いますけど、お願いですからあんまり言いふらさないで下さいね?」


手を合わせてチームメイト達を見回す。しつこいと言われようと大事な事なのである。


一つ深呼吸をして私は口を開いた。


「私は国家Ⅲ級魔法使い、二つ名を『唯一無二』。計測()()魔力量5()0()0()の世界で最も魔力量の多い魔法使いです。」


精霊魔法使えませんけどね、と肩を竦めてみせると、一拍置いてミモザ先輩以外の人から絶叫が上がった。


「はああぁぁぁぁぁあ⁈‼︎」


うん、予想通りだ。

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