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魔法少女は魔法を使えない  作者: アーナ
魔法競技大会編
3/10

第二話

トレニアと名乗った少女から別れて、早足で校内を歩く。廊下は既にあまり人気ひとけがなく、焦燥しょうそうがつのる。


「あ、シトラス、遅いよ!」


ほとんど飛び込むようにして教室に入れば、幼馴染で腐れ縁のカトレアが声をかけてくる。


カトレアータ・エスター。カトレアの愛称で親しまれており、いわゆる秀才。魔法科目も普通科目も上から一桁という結構すさまじい成績をしている。光の角度によっては緑にも見える黒い瞳と、長めの黒髪の持ち主で、いつもきっちりとした三つ編みにしており、委員長然としたその見た目通り、ルールを守らない人には大変厳しい。時には実力行使も辞さず、しかも強いという。つけられた二つ名は「規範の女王」。


二つ名というのは、魔法級が一定以上の魔法使いに魔法協会が授ける称号のようなものである。やや厨二病っぽいのだが、すなわち魔法技能が認められた、という意味なので嬉し恥ずかし、といったところだ。


また、魔法級とは個人の魔力を数値化し、10毎に分けたものである。上から国家級、戦略級、戦術級、量産級とあり、それぞれがさらにⅠ級、Ⅱ級、Ⅲ級と別れる。つまり、一番高い魔法級は魔力値120以上の人達で構成される国家Ⅲ級である。これは、全魔法使いの約0.1%と言われている。


魔力値とは、自分で操れる魔力の限界量のことを指し、大きな魔力を操れる程、大きな魔法を使う事ができる。魔法協会が一定以上、具体的には戦略Ⅲ級以上の魔法使いに問答無用で二つ名を与えるのは、彼らが様々な場面で戦力として期待できるからだ。

二つ名を持っていると、そうではない魔法使いに比べて市街での魔法行使制限が緩い。これは、市街で魔法事故や魔法犯罪が起こった時、一般市民や二つ名を持たない魔法使いを守る為に強い魔法を使う事を想定しているからだ。

今はそうでも無いが、戦争が終わった直後は少々治安が荒れ、ひったくりやスリなどが多かった。それに対抗する為の措置である。


とはいえ、二つ名は高い魔力を持っていなくとも、魔法に対して大きな貢献をしたと魔法協会が認めれば与えられる。カトレアはこちらのパターンだ。

カトレアの功績は、魔法使いのイメージアップ。

要は大戦で打ち立てられた、魔法使いは危険な存在という悪印象を大きく払拭した、という事だ。まだまだ完全とはいかないものの、ほんの数年の成果としてはめざましいものがあるのは確かだ。


一応、私にも魔法能力に由来するものがあるのだが、名前のみが独り歩きをしており、大変名乗りにくい状況となっているので自分からは名乗らない。


「ごめんごめん、迷子の新入生がいてさ。」


教室の人口は机の数に対して半分ほど。全員が見慣れた顔でローブを着ている。つまり魔法使いだ。クラスの構成は魔法使いと一般生徒を分けていない。なので、今日入学式をしている新入生たちが加わってぴったり一クラス分となる。つまり、今日来るべき人は全員居る計算だ。


「やー、またカトレアと同じクラスかー。」

「なあに、嫌なの?」


近くの席に腰かけて言う。カトレアとは幼等部から一緒だ。中学では一度として違うクラスにならなかった。多分先生達は狙ってる。

それを思いだしたのか、くすくすと笑うカトレア。


「まっさかあ。またよろしくね。」


同じように私も笑う。


魔法使いの多くは12歳ごろまでに魔法に目覚める。つまり、理論上は同学年の魔法使いは全員知り合いとなる筈なのだ。


そうならないのは、住んでいる寮の位置ごとに校舎が違うからだ。幼等部、初等部、中等部、高等部と上がってくるにつれて校舎の数が減り、大学まで行くと一つになる。なので最終的には全員と知り合いになるが、それまでは違う校舎出身だと結構知らなかったりする。


そんな風にしていれば、教室に教師が入ってくる。


「おーし、席につけー。」


パタパタと、好きに話していたクラスメイト達が自分の席へ戻る。


「えー、今日からお前らの担任をするダフネだ。ダフネ・サジタリアス。教科担当は国語だ。赤点とったやつには楽しい補習授業が待っている。魔法は使えないが、腕には自信があるから暴れた奴は即ぶっ飛ばすぞー。」


「副担を務めるアネモネ・バルバトロスです。戦略Ⅲ級、二つ名は『火焔の魔女』。得意魔法は火魔法です。担当教科は魔法理論と魔法の歴史です。よろしくお願いしますね。」


教卓に立ったのはおっさんと巨乳の美人だった。いや、おっさんはおっさん臭いだけでおそらく年は若い。あまり整えられていない黒髪に垂れ目と無精髭。何というか…。


(((うさんくさい…。)))


「いま胡散臭いって思っただろー。」


でも、面白そうな人だ。アネモネと名乗った女性の先生は自己紹介以外は口を挟まないようで、ダフネ先生の後ろでにこにこと笑っている。こっちは優しそうな人だ。


「はいじゃあ、連絡なー。」


不真面目そうな見た目とは裏腹に、真面目に連絡事項を伝えるダフネ先生。無闇に魔法を使わない、人に向かって撃たない、と言った聞き飽きた注意事項に加えて、一般生徒に絡むな、と言った事や高等部から始まる教堂カセドラル制度や調査隊の説明を軽くする。


「まあ、大体は知ってんだろーが、分からない事があったら事務室に資料があるからそれを読んでから俺に聞きに来い。あと、明日、魔法科は実習で使う魔法書配るからな。よし、終わり。起立(きりーつ)(れーい)。気をつけて帰れよー。」


魔法書というのは、魔法陣が刻まれた本である。魔法陣は魔力を流すだけで描き込まれた魔法が発動する便利道具だ。低級の魔法使いでも、人数を揃えれば大魔法が使えるようになる、という結構危ない代物である。


と言っても、学校の実習で使う様なのは自分で一から構築したほうが早い様な、低階位の魔法しか描かれていない。そもそも、高階位の魔法陣は、作成段階で結構な量の魔力を要求される上に、作成にも所持にも使用にも特殊な資格が必要である。


私にとっては、精霊回路が無くとも、魔法が使える嬉しい道具だが、回数制限がある事と、低階位の魔法でも結構大きな魔法陣が必要な事、また、とんでもなく重い事が相まって、実用化には至っていない。学校で習う理由は扱い方を知っておく為である。実際に使う事はほぼない。



一瞬で、という程でもないが、学年の中では一番に終わっただろう。その証拠に、廊下にはまだ誰の姿もない。


「シトラスって、従妹フォロワーとるの?」


帰り支度を始めた教室内でカトレアが話しかけてくる。話題は先程説明のあった教堂カセドラル制度についてだ。


教堂カセドラル制度。ざっくり言うならば上級生と下級生でペアを組むことだ。上級生のほうを導姉(リーダー)、下級生のほうを従妹(フォロワー)と呼ぶ。ちなみに男の場合は導兄、従弟である。従妹(フォロワー)の方に制限はないが、導姉(リーダー)は高校生以上で教師の推薦を得た成績優秀者と決まっている。寮の門限や図書館の使用など、いろいろな所で便宜を図ってもらえる。また、導姉(リーダー)から教育過程では教わらない、便利魔法や生活魔法を教えてもらうこともできる。もちろん、普通の魔法もだ。


「まさか。魔法を使えない私に何を教えろと?そーいうカトレアはとるの?」

「まあね。」

「やっぱり。カトレア面倒見いいもんね。」

「シトラスもよく知ってる子だよ。」


にこ、と意味ありげな笑顔を浮かべてそう言う。


「あ、決めてるの?誰だろ?私年下にはあんまり知り合いいないけど。」


ペアの相手探しは専用の掲示板で行う。図書館や校内に設置された端末や、学校のホームページなどからアクセスすることができ、候補として登録している導姉(リーダー)に申し込みを行い、承認されれば成立だ。が、別の方法もある。それは、最初から相手を見つけておくのだ。電子化はされているが別に紙での登録を受け付けていないわけではないので、知り合いと組みたい場合はそういう手法もありである。


「ふふ。まあ楽しみにしててよ。」


そう言われるとますます気になる。


「えー、教えてよー!」

「シトラスを驚かせられる少ない機会だから嫌かな。」


そんな風にふざけ合いながら下校する。ちなみに、徒歩である。いくら空が飛べるからといっても、いつも飛んでいる訳ではない。歩きたい気分の時だってあるのだ。と言うか、単純に飛べない私に合わせて歩いているだけである。その帰り道の途中。


「あ、これ。」


目を止めたのは道端にある掲示板。その中の一枚だった。


『春の魔法競技大会 一般募集開始』


そう書かれた紙には大会の概要と共に優勝賞品についても記述がある。魔法競技大会は多くの場合、賞金が出るのだ。


「シトラス?」


いつの間にか隣から居なくなっていた私にカトレアが疑問の声を上げる。


「ああ、ごめんごめん。」


その声で我に返ると走ってカトレアの所まで行く。追いついてきた私にカトレアは疑問の形をした確認の言葉をかける。


「春の大会、出るんでしょ?」

「ありゃ、バレてました?」

「何年友達やってると思ってるの?」

「ですよねー。」

「何に出るの?高等部の競技は…」


言いかけたカトレアを遮る。


「あ、ううん。今回は一般の部にしようかと思って。」

「そうなの?」

「うん。中等部の時もそうだったけどさ、高等部の競技って部活で出てる人が多いじゃん?その中に個人参加ってのはちょっと気が引けるんだよね。」

「ああ、それもそっか。ま、頑張ってね?私も応援に行くから。」

「一緒に参加してくれてもいいのよ?」

「そう言う競技系はパスかな。」


そんな話をしていればすぐに私の家に着いた。

現在、私は寮を出て校内にある一軒家に両親と姉と妹と住んでいる。寮に帰るカトレアとはここでお別れだ。


「じゃあね、また明日。」

「バイバーイ。」


清楚な白い杖にまたがってカトレアが寮の方へ飛んで行く。その背が小さくなるのを見送って私も家に入った。

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